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イノセント・ガーデン /
Stoker /
Segredos de Sangue /
Lazos perversos /
Stoker - Die Unschuld endet

朴贊郁

USA/UK 2013 99 Min. 劇映画

出演者

Mia Wasikowska
(India Stoker - リチャードとエヴェリンの娘)

Dermot Mulroney
(Richard Stoker - ストーカー家の長男、インディアの父親)

Tyler von Tagen
(Richard Stoker、子供時代)

Matthew Goode
(Charles Stoker - ストーカー家の次男)

Thomas A. Covert
(Charles Stoker、子供時代)

Paxton Johnson
(Jonathan Stoker - ストーカー家の三男)

Jaxon Johnson
(Jonathan Stoker - ストーカー家の三男)

Jacki Weaver
(Gwendolyn Stoker - インディアの大叔母)

Nicole Kidman
(Evelyn Stoker - インディアの母親)

Phyllis Somerville
(McGarrick - 家政婦)

Ralph Brown (保安官)

Lucas Till
(Chris Pitts - 高校で嫌がらせをする少年)

Michael T. Flynn
(高校で嫌がらせをする少年)

William Ryan Watson 高校で嫌がらせをする少年)

Alden Ehrenreich
(Whip Taylor - 高校生)

見た時期:2013年3月

2013年ファンタ参加作品

要注意: ネタばれあり!

結末から入りますので、見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

日本語で聞いても、英語で聞いても犯罪者のストーカーとほとんど同じ発音になってしまうのですが、こちらのタイトルには《l》の字が入っておらず、人につきまとう犯罪者とは関係ありません。主人公たちの家族の苗字がストーカーというところからついたタイトルです。ストーカー一家という意味でストーカーズとしても良かったかも知れませんが、そうすると最初から「この家族には何かあるな」と悟ってしまう勘のいい観客も出て来るので、どのストーカーか分からないようなタイトルで良かったかも知れません。

イノセント・ガーデンという邦題はイノセントという言葉の使い方が日本で欧州とやや違うこともあり、邦題としては的をはずしてしまった感じがします。あまりいいタイトルとは思えません。

★ 朴贊郁

JSA復讐者に憐れみをオールド・ボーイサイボーグでも大丈夫渇きなどの監督。初めて英米資本で英語圏向きの作品に進出しました。のっけからウェントワース・ミラーの脚本、ネームバリューの高いキッドマン、役に良く合っていたグッドとワシコウスカに恵まれ、きれいにまとめています。韓国語時代はどぎつ過ぎたり、夢を追い過ぎたりでバランスが悪く、観客の間で好き嫌いが分かれる作品が多かったですが、イノセント・ガーデンはスタイルに気を使ってあり、おしゃれなイメージだけで一定のファンを集められ、オスカー女優が重要な役で出演していることで人寄せパンダになっており、ヒッチコック風のミステリー・ファンはストーリーを聞いてさらに気に入るという3重構造になっています。

英語圏で幅広い観客を集める作品で成功すれば今後も監督に英語の仕事が入るかも知れません。

★ 脚本と主演の2人に助けられた

元々匿名で発表されていた脚本で、筆者はプリズン・ブレイクのウェントワース・ミラー。イノセント・ガーデンと前日談の2作あるようです。俳優として知られている名前を書くと脚本が正当な評価を受けない恐れがあるとしてミラーという名は伏せていたそうです。

CSI のような近代的な捜査の発達した町ですと不可能な作品ですが、わざわざ車が無いとろくに買い物もできない、そして一旦買い物に出ると大量に買い込み冷凍冷蔵庫に長い間食料品を貯蔵しておかないと行けないような 田舎を舞台にしてあり、家族は毎日の生活にあくせくしていない設定にしてあります。そういう風な多少浮世離れした環境にさっと入って行けるように冒頭この家の大黒柱の父親が酷い自動車事故を起こして死ぬところから始まります。

そしてそこへ急に現われる死者の弟。ここからはヒッチコックなどが作っていた60年代頃までのミステリーの様相を帯びて来ます。この雰囲気が年配の人には懐かしく、しかも当時よりずっと撮影がきれいなのでうれしくなってしまいます。その時代を知らない若い人には新鮮に映るでしょう。

ここまで良く書けた脚本を手にし、ハリウッドのように専門職の人が徹底的にプロフェッショナルに分業していると失敗作にする方が難しいです。その上コネクションという意味で東アジアとは時々関連のあるリドリー・スコットの会社がバックアップしています。あとは監督がそのベルトコンベアーに上手く乗れるかですが、私はアジアからハリウッドに招かれた監督の中では成功した方だと思います。このスタイルで行くなら2作目も成功するかも知れません。ミラーの前日談を映画化するのでしょうか。

★ 同じ DNA でも・・・

かつてストーカー家には男の子が3人いました。3人の運命はまだ小学校ぐらいの頃に3つに分かれてしまいます。三男ジョナサンが死に、次男チャーリーが殺人者、長男は同じ遺伝子を受け継いでいてもそれを殺人には向けず正しい狩猟方法を学びます。

よく一卵性双生児の兄弟が1人は凶悪な殺人鬼になりもう1人は牧師など人を助ける仕事についているという実話を目にしますが、兄弟が3人いれば同じ遺伝子を継いでいても全く違う経歴を歩むというのがイノセント・ガーデンの出発点です。

★ 事件の発端 − 父親の事故死

自由と心の平和を得た女性インディアが門出に当たって18歳の誕生日を振り返ります。

毎年靴を誕生日に受け取っていたインディアはこの年贈り物として鍵を受け取ります。

ちょうどその日父親のリチャードがひどい交通事故で死亡。葬儀が行われました。父親と入れ替わりのように現われたのが叔父のチャーリー。他の人が喪服を着ている中チャーリーは海外旅行からの帰りだとかで平服。

使用人などの間では「リチャードの死はおかしい」と噂されています。家からかなり遠い所で事故が起きており、死体は見分けがつかないほど燃えてしまっていました。こんな田舎でそんな遠い所へ出向く理由が考えられず、変な噂が立ってしまいます。

残されたのはエヴェリンとインディアという母娘。エヴェリンは家事や子供の躾に熱心ではなく、これから2人はどうやって暮らしていくのだろうという好奇の目が周囲にありました。

この家に長く勤める家政婦のマクガリック夫人はインディアが生まれた時から毎年同じタイプの運動靴を贈っていました。毎年少しずつ大きなサイズに変わって行きましたが、インディアは送り主は父親だと信じていました。インディアが最後に貰ったプレゼントの箱は空。

突然現れた叔父のチャーリーはずっと海外を飛び回っていて、今ちょうどエヴェリンから家にとどまるように誘いを受けたとのこと。チャーリーは「インディアも賛成なら家にいるつもりだ」と言います。エヴェリンとインディアはあまり反りが合わず、インディアはチャーリーに対しても好い気持ちを持っていません。母娘の反りが合わない大きな理由はリチャード。父娘の仲が良過ぎて、妻のエヴェリンの入る余地が少なかったこと。インディアはよく父親と狩に出かけ、正しいライフルの使い方や獲物の獲り方を教えてもらっていました。その結果エヴェリンは孤独で、嫉妬心を持ち、ややアル中気味。

夫の死後折り良くチャーリーが現われたので、エヴェリンは彼に長期滞在を持ちかけ、チャーリーは料理ができるなどということで受け入れます。チャーリーの関心はエヴェリンだけでなくインディアにも向けられます。インディアの歓心を買うために家族で町へ買い物に行った時にはアイスクリームを買ってやります。

放課後インディアを派手なスポーツカーで迎に来たりするので思春期のインディアは反発。学校では孤立しているインディア。

★ 田舎町で1人事故死、3人行方不明

間もなく家政婦が何も言わずに失踪。訪ねて来た大叔母グウェンドリンも行方不明になります。グウェンドリンはエヴェリンとインディアにチャーリーに関して大切な話をしようと思って訪ねて来るのですが、グウェンドリンとエヴェリンは反りが合わずエヴェリンは取り合いません。エヴェリンは徐々にチャーリーと親しくなっている時期でした。結局まともな話はできず、グウェンドリンはインディアに連絡先を書いたメモを渡してホテルに戻って行きます。

チャーリーに対して不審の目を向け、危険視しているグウェンドリンは急遽滞在するはずだったホテルを変更。しかしチャーリーは田舎のタクシー運転手からいとも簡単にグウェンドリンの新しい滞在先を聞き出してしまいます。そして公衆電話から電話をかけようとしていたグウェンドリンを絞殺してしまいます。

チャーリーの努力が実り、インディアはようやくチャーリーに親しみを抱くようになります。しかしある日地下倉庫へアイスクリームを取りに行った時、大型冷凍冷蔵庫の中で行方不明になっていた家政婦のマクガリック夫人の死体を発見。

チャーリーは放課後また学校に来ていて、インディアを待っていました。チャーリーに気づいても近づかず、インディアは学校の不良少年の方へ歩いて行きます。中の1人から嫌がらせを受けるとインディアは尖った鉛筆でその少年の手を刺します。すると彼女の思い切った行動を気に入ってしまう少年がいます。チャーリーはその様子を遠くからじっと見ています。

家族の中ではチャーリーを巡って母娘で揉めそうな気配。大人2人が近づくのはまあ仕方ないですが、チャーリーとインディアは叔父と姪の関係。しかしこれ見よがしにチャーリーに近づく母親の姿を見てインディアはむかつきます。夜なのに外に出たインディアは学校の不良がたむろしている所へ出向くと、昼間彼女の乱暴な動きが気に入ったらしい少年がいます。1度ルンルンの雰囲気になったものの、気が変わったインディアは少年と揉め、あわや暴行されるかという時に折り良くチャーリーが助っ人に現われます。この少年もチャーリーに殺されてしまいます。死体は大きな庭に埋めます。観客が直接目にするだけでも死体が2つ。家政婦もチャーリーの仕業かもしれず、そうなるとリチャードの死も疑ってみた方がいいかも知れません。

★ 殺人者の DNA、されど

これを機にインディアは殺人に目覚めてしまいます。リチャードが彼女になぜあれほど熱心に狩を教えたのかが分かって来ます。彼女の DNA の中にある犯罪性、凶暴性を他の方向に向けさせようと試みたのでしょう。

同じ血を継いでいても明らかに大叔母はチャーリーを問題視しており、リチャードも殺人鬼ではない様子。なので殺人一家と決め付けることはできません。

インディアが父親の書斎を片付けていると開かずの引き出しが見つかります。彼女が18歳の誕生日にプレゼントされた鍵が合います。そこには山のようにチャーリーからインディアに宛てた手紙が入っていました。書いてあるのは嘘っぱち。世界各国から彼女に宛てた手紙のようであっても実は全て一箇所から送られていました。非常に長い年月の間何通も何通も彼女に書き送られていました。一緒に見つかったのはリチャード、チャーリー、もう1人の男の子の写真。差出人チャーリーは長い間精神病院に入っていたのです。

事情を知ったインディアはチャーリーと対決し、チャーリーに家を去るように言いますが、チャーリーはリチャードの死因について話し始めます。インディアの方は3人目の男の子が誰なのか、何が起きたのかを知りたがります。ストーカー家は3人兄弟で、リチャードは三男のジョナサンと仲が良く、間のチャーリーは仲間はずれ。チャーリーはリチャードがちょっと離れた隙にジョナサンを砂場で生き埋めにして殺してしまいます。その結果チャーリーは精神病院送り。

チャーリーは刑期に当たる義務の年数を過ぎても精神病院に住んでいましたが、インディアが18歳の誕生日を迎えた日に出所します。リチャードはチャーリーを迎えに行ったために家から遠く離れた場所にいたわけです。この時リチャードはチャーリーにスポーツカーを買い与え、大金を持たせ、どこかの町でアパートを借りられるようにしてやるつもりでした。唯一の条件はインディアを始めリチャードの家族から遠ざかること。しかしチャーリーの方はインディアが成人する日を指折り数えて待っていたのです。話が永遠に噛み合わないと悟るやチャーリーは間髪を入れずリチャードを殺してしまい交通事故を偽装します。

つまりエヴェリンはチャーリーの眼中にはありませんでした。チャーリーは本能的にインディアに自分と同じ DNA があると気づいていたのです。彼女を殺人に目覚めさせようと思っていた様子。彼女の18歳の誕生日に贈ったのはこれまでの運動靴ではなく、ハイヒール。長い間運動靴を家政婦がインディアに贈っていたのはチャーリーのため。

そんな話の最中訪ねて来たのは学校の少年の失踪を捜査をしている保安官。インディアも顔見知りなので証言を取りに来ました。インディアは「少年にちょっと付き合ったが、その後の事は知らない」と話し、チャーリーの事は密告しません。保安官が帰るとチャーリーはインディアに一緒にニューヨークで暮らそうと提案します。ちょうどそこへ入って来たエヴェリンはチャーリーの本命が自分ではなくインディアと知って愕然。

元々精神の状態が不安定だったエヴェリンは烈火のごとく怒り、チャーリーと対決。エヴェリンも少し真相に気づいていて、それを認めたくなかったと言い、今はチャーリーにこの家を去り、インディアにも近づいてくれるなと宣言。チャーリーはインディアが18歳になった以上、決めるのは本人だと言い放ちます。エヴェリンとチャーリーは揉め、エヴェリンは他の犠牲者のように首を絞められそうになります。インディアにエヴェリンを殺すことを手伝うように言います。ライフルを持って現われたインディアが殺したのはチャーリー。

チャーリーの死体の処理はインディアがやり、エヴェリンは衝撃を受けたまま。

チャーリーのスポーツカーで家を出たインディアは途中で前日やって来た保安官に出会います。スピード違反で話しかけられたのですが、ついでに保安官も殺してしまいます。

このシーンが冒頭に繋がります。インディアが自由な生活を始める門出のシーンです。

★ ヒッチコックなどの研究

40年、50年経って改めてヒッチコック風のスリラーを作り直し、若い世代に見せたのがイノセント・ガーデン。当時の作品を見て知っている人は満足するか「焼き直しだ」と思うかのどちらかでしょう。

俳優は脚本の意を良く汲んで演じているので、意外と観客に気に入られるかも知れません。敢闘賞はチャーリーとインディアを演じた2人。当時の作品をひっくり返してみると誰々のオマージュだというタイプの俳優が浮かぶかも知れません。

キッドマンはヒッチコックが採用する不安定な心理の美女の役割を呑み込んでいて、演技派方式ではなく、見せるスター方式で演じています。オスカーを貰った後ぱっとしない役ばかりになってしまう女優が多い中、まだ運がいい方かも知れません。

気合が入っているのは脚本と上に挙げた2人の俳優で、監督の意思がどこにどの程度入っているのかが判断しにくい作品です。復讐3部作で有名なえぐい監督があまりにもさらりとそつ無く流しているので、人格が変わってしまったのかと思ったほどです。

脚本がヒッチコックなどの古典的なスリラーを目指しているので、人の出入りの激しい都市を舞台にするわけにいかず、ややメルヘン風の現実離れした田舎という設定になっています。逆にそれなら却って変だと思うのは、小さな田舎町で使用人を使うほど恵まれた生活をしている家に関わる人が急に3人も行方不明になり、家主が死体の見分けもつかないほどひどい事故で死んだとなると、もう少し周囲の目が怪しんでもいいのではないかと思います。

そういった矛盾をカバーするほど上手く演じているのがチャーリーとインディアで、普段続編にはあまり乗り気でない私もミュラーの書いたもう1本を映画化してはどうかと思います。

★ 悪に目覚めるファンタ

今年の春のファンタは今一つという印象でしたが、この作品はその中では上位の2番目か3番目にランクできます。大スターが出ると駄作になることが多い中、珍しいです。

今年の特徴は「目覚める」というテーマ。悪に目覚める話が多かったですが、誰かがある人物の中の悪に注目しその芽を育てようとする話や、闇の世界に入る気など全く無かったのに偶然そこで人の役に立ってしまって、そのままそこで自分の居所を発見してしまったという話がありました。

★ 悪に目覚めるインディア

思春期の不安定な心理状態のインディアが、最後一人前の女性に成長し、主体性を持って人を殺す自分に満足するわけですが、まだ若くハンサムなチャーリーをあっさり始末してしまうところがイノセント・ガーデンで1番怖いところかも知れません。殺されかかった母親を家に残し1人で旅立って行きます。

ここでチャーリーとインディアがエヴェリンを殺し、手に手を取ってニューヨークへ移り住んだのでは退屈な結末になってしまいます。チャーリーに一生懸命色目を使っていたエヴェリンはチャーリーの関心がインディアに向けられていたことを知り、大いに失望。しかし命は取り留めます。助けられたのが自分が嫉妬した実の娘。彼女は夫を失い、新しい恋人になるべき夫の弟を失い、娘には家出をされ、使用人は殺され、これからどうするんだろうと思いますが、何も言わず酒瓶を手にこれからも生きて行くのでしょう。

インディアと手に手を取って楽しい未来を計画していたチャーリーはエヴェリンにはどうしてもというのなら愛人にしてやると言っていますが、エヴェリンがいつ殺されるかは時間の問題。それもチャーリーにやられるか、インディアにやられるか分かりません。実際ショーダウン間際に殺されそうになっています。しかしチャーリーは自分がずっと目をかけていたインディアに殺されるとは思っていなかったでしょう。人生は厳しい。

家族の秘密を一通り知ってしまったインディアは、うるさい母親と法律的に手を切れる年齢達し、自分のアイデンティティーもはっきり理解し、父親からはしっかり狩の仕方を学んでおり、これから当分彼女の行く所死体の山になるでしょうが、反省はしないでしょう。あそこですっぱりチャーリーを切ってしまった決断力には驚きます。しかし父親に対する愛情がまだ色濃く残っていたのでしょう。とはいえ自分には父親よりチャーリーのタイプの DNA が受け継がれていることはだんだん理解し始めており、いつか捕まるまでずっと楽しく人を殺しまわるでしょう。捕まれば叔父と同じく精神病院送りで、死刑は免れるかも知れません。とんでもない人物を世に放ってしまうことになります。

ヒッチコックの時代ですと何かしらの形で最後に正義が勝つように持って行かなければなりませんでしたが、現代はそこは自由。

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