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Interstellaire

Christopher Nolan

UK/USA/Kanada 2014 169 Min. 劇映画

出演者

クーパー家

John Lithgow
(Donald - クーパーの嫁さんの父親)

Matthew McConaughey
(Joseph Cooper - とうもろこし栽培の農夫、元 NASA の宇宙飛行士)

Mackenzie Foy
(Murph - クーパーの長女、10歳前後)

Jessica Chastain
(Murph、成人)

Ellen Burstyn
(Murph、老女)

Timothée Chalamet
(Tom - クーパーの長男、15歳前後)

Casey Affleck
(Tom、成人)

Leah Cairns
(Lois - トムの妻)

ブラント家

Michael Caine
(Prof. John Brand - 元 NASA の科学者)

Anne Hathaway
(Dr. Amelia Brand - ジョンの娘)

エンデュランスのクルー

《Joseph Cooper、Dr. Amelia Brand に加えて》

David Gyasi
(Dr. Romilly - 物理学者)

Wes Bentley
(Dr. Doyle - 地質学者)

Bill Irwin
(TARS - ロボット、声の出演)

Josh Stewart
(CASE - ロボット、声の出演)

その他

Matt Damon
(Dr. Hugh Mann - 先に飛んだ宇宙飛行士)

Topher Grace (Getty)

William Devane (Williams)

Brooke Smith (看護婦)

Jeff Hephner (医師)

David Oyelowo
(マーフの小学校の校長)

Collette Wolfe
(Hanley - マーフの学校の教師)

Flora Nolan
(トラックの少女)

見た時期:2015年8月

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ 長く感じない169分

後で169分と知ってびっくり。飽きませんでした。

★ ノーラン家の家内工業

事の始まりはあまりおもしろくなかった SF コンタクトに関わった制作者と学者が新しい話を考え出した時。それをスピールバーグに作らせようと考え、話が進みました。この頃はまだ話の骨子ができただけ。脚本執筆に当たりクリストファー・ノーランの弟ジョナサンが雇われ、彼は専門知識を得るために大学へ行き、アインシュタインなど関連する方面のお勉強。まじめですねえ。

本来はスピールバーグが監督のはずでしたが、色々な契約の都合で監督できなくなり、ノーラン弟がすかさずノーラン兄を推薦。兄ちゃんは脚本の半分を乗っ取り、残りは弟に分け与えます。制作にはしっかりノーラン兄の嫁さんを加えます。彼女とノーラン兄はノーラン兄の最初の短編(上映時間3分、メメントの2つ前の作品)からの付き合いです。早い話が2人は監督ノーラン、制作者トーマスのコンビでノーラン兄のデビュー作から仕事を始め、現在に至っています。6歳下のノーラン弟はノーラン兄の3作目に当たるメメントから脚本に参加し、現在に至っています。

★ 話をさらにややこしくした

メメントでは時間軸をいじって、長く記憶できない男を主人公に、私たちをアッと言わせたノーラン一家ですが、インターステラーでは、時間と場所を同時にいじって、話をさらにややこしくしています。とは言うもののあまり学校で物理をまじめに勉強していない人でも何とかついて行ける難しさです。

難しい事を人に易しく説明できる人は能力が高いのだとすると、ノーラン弟は大学でしっかり勉強したのでしょうね。観客としては与太話に乗れば、後はあまり混乱せずについて行けます。

★ 視覚効果で賞を取っただけある

新しい SF ができるとなるべく見たいと思います。ここで言う SF はゾンビやビールスがらみの話ではなく、宇宙船で地球の外に出て行く話を扱った作品です。これまで印象に残っている作品は 2001年宇宙の旅サンシャイン 2057。宇宙船の中の様子やそこから見える外の景色などの描写がとても良かったです。日本人も参加した実際の宇宙計画を見ると船内はかなり狭そうですが、この2つの映画では広々していて感じが良かったです。同じように期待していましたが失望したのがプロメテウス。ストーリーは抜きで、見た目の話です。

私はインターステラーの 2D の DVD を借りて来て、公開から1年も経ってから見たのですが、IMAX で公開されているらしく、3D バージョンがあるようです。今年ファンタが行われた会場の真隣に同系列の IMAX の映画館があります。以前行った事があるのですが、上映された作品がつまらなかったので、それ以来行っていません。インターステラーなら筋も一応おもしろいのでもしプログラムに載ったら行こうかと思っています。

★ ハリウッドお気に入りの筋

全体としては意外性もあり、マコノヒーが普通のおっさんを演じようとする努力も実っていて、見ていて飽きることはありません。SF に家庭の事情は要らないだろうと思う方もおられるかと思いますが、インターステラーではそれがプロットに深く組み込まれているので、唐突ではありません。

マコノヒーはやや軽いスターとして売り出し、主演も多く、そこそこ売れていました。ある時路線変更を試みたようです。ところが関係者皆に歓迎されなかったらしく、みっともない記事が新聞に流れたりする時期がありました。つぶされるかと思ったのですが、しぶとく生き残り、その後は作品選択に本人の意思が以前より生かされているようです。主演でオスカーも取ったのでこれからは役が選び易くなるでしょう。

筋の話に戻りますが、見終わってあまり感心しなかったのは、またしてもハリウッドお得意の「問題のある場所を捨てて、未知の場所に夢を」という筋。ハリウッドでは地上ではよその国へ、宇宙ではよその星へという筋が好まれるようです。

私がいつも腹を立てるのは、この世を住み難い所にしてしまったのは、森の熊君でも、リス君でもなく、私たち自身なのに、それをもう1度住み易い所に戻そうとせず、そこを捨ててどこかに行ってしまおうと考えるところです。森の木をどんどん伐採してしまうのはいいですが、すぐ次を植えなければ行けません。日本では以前紙を作るんだ、土地の開発をするんだと言って木を伐採しましたが、その後ちょっと雨が降ると地すべりが起き、雨水も大水になって下にある町を襲うようになりました。で、反省。やり方を変えています。ここ何年か水の被害が増えていますが、また土木建築のやり方を変えようとか色々議論が起きるでしょう。日本人は住みにくい土地を住めるようにしたり、耕しにくい土地を耕せるようにしていました。段々畑などは今から600年以上前からあったそうです。

ところが禿山にした後に1種類の木を植え過ぎて花粉症発生。また反省。そうやって失敗しながらより住み易い所にと考えています。地方地方でやる時期もあれば、国全体で考える時期もありますが、今いる所をいい所にしようという考え方が日本では大半で、日本を捨ててどこかへ移住しようという考え方は少ないようです。

外国生活が実質的には長くなった私も日本を捨てようと思って出たのではなく、日本で勉強しにくい科目がドイツにあったから来たわけで、日本という背骨があるから外国に長く住んでいられるわけです。日本を捨てようなんて考える人は日本にも、外国に住んでいる日本人にもほとんどいないのではないかと思います。

現在戦火の国の人が外に逃れようとするのは分かります。中には先進国で学んで自国の状況を何とかしようと考える人もいます。私に理解できないのは、自国に見切りをつけてさっさと出て行こうという考え方です。ハリウッドがその種の映画を量産するので大勢がそういう考え方に傾いてしまったのでしょうか。よく考えてみるとそういう映画は、自国で困難にぶつかる → 脱出しようと思い立つ → 多くの困難を乗り越えて脱出に成功する → ハッピーエンドのマークが出て映画が終わる という作りが多く、たどり着いた先で現実の生活を描くシーンも盛り込まれている作品は少ないようです。私は見たことがありません。

脱出した先での生活は望み通りに行ったのだろうかと思うのですが、そこまでやると1本が4時間になってしまうからやらないのでしょう。ただ、本国で中産階級など結構上の層にいた人が、新天地で下の層にならざるを得ず、夢が破れたという話は犯罪報道の端から見えてくる時があります。

戦後のドイツ人がよそに移る時はあまり大きな階級差を経験せずに済むようです。ドイツ人 には結構よそに移ってしまう人もいました。移ると、その先の国に過剰に適応し、例えばフランス人よりフランス人的なドイツ人とかができてしまいます。ドイツ人が外国に移住したのは過去には飢餓が原因。まだ系統だった農業政策など無く、天候が悪いと命に関わりました。で、アメリカなどに移住した人がいます。その後、第二次世界大戦が終わるまでは戦争をしていない時でもドイツと近隣国は仲が悪かったのであまり勇んで移住する人はいなかったようです。現代では政治がらみか、経済がらみが大半。カナダに移住したドイツ人は保守系が多かったらしく、以前カナダ発のドイツ語番組を聞けた頃は恐ろしく古臭いタイプの論調でした。ベルリンの壁が開いてからは、東からいきなりアメリカに移住した人がいましたが、アメリカが憧れ通りだったのか、その後の経済クラッシュを生き延びたのかなど詳しい事は知りません。ま、東ドイツで大学でも出ていれば当時のレベルでもかなり高学歴なので、アメリカには色々職業のチャンスがあったのかと思います。

質実剛健という時代は去り、ドイツにもイージーゴーイングな人が増えました。ドイツには色々うるさい法律があり、会社を設立しようにも弁護士、公認会計士、公証人などの軍団を持っていないとなかなか大変です。アメリカは自由経済と宣伝されており、仕事がやり易いとばかりに移ってしまう人もいたようです。また、ドイツでは平凡な学歴でも、外国ではやや高く評価されることもあり移ってしまう人がいたようです。ただ、あっさり外国に出てしまう傾向は現首相になってからブレーキがかかったような印象です。ドイツ側では海外に出て国籍を変えたドイツ人の追跡調査はしていないようなので、新天地でハッピーエンドを迎えたのかは知る由もありません。

今いる場所を大切にしようという考え方は島国だからなのかとも思いますが、島国は外国にもあり、そこが必ずしも日本と同じメンタリティーになっているわけではありません。英国人はどんどん外に出て行きます。金持ち層は国内の失業などどこ吹く風。最近は落ち目ですが、上層部はいずれまた巻き返そうと思っているんでしょうね。今住んでいる場所を大切にしようという気持ちはイングランドでない所の英国人の方が強いようです。

よそと比べてもあまり意味はありませんが、私は今いる場所を大切にしようという考え方なので、日本にいれば日本、ドイツにいればドイツの今いる場所が大切で、他の人が今いる場所を大切にしようと考えているなら、そういう人にも共感します。今の自分を作ったのは前にいた場所なので、結局生まれてから現在までにいた場所はどこも大切なんだというぼやけた結論になってしまいます。私は国内で何度も引越しをしたのですが、どの場所でも楽しい思い出が多く、旅行で住んでみたいようなもいい場所をいくつも見つけました。

ちなみに、移住するドイツ人が一定数いるのは確かですが、現在ドイツに住んでいるドイツ人は、欧州の中では今いる場所を大切にしている方です。この傾向はドイツと北欧が主流。井上さんもベルリンという欧州では数少ない大都市のど真ん中に緑があり、隣接する州も真緑なのを見ておられますが、あれはただ自然に緑になっているのではありません。嵐などがあって木が倒れてしまうと、すぐ公務員が飛んで来て撤去し、すぐ次の木を植えて行きます。乾燥し過ぎて森が火事になるとすぐ消防隊と森の番人(公務員)が飛んで来て、元に戻そうとします。農業もしっかり国に管理されていて、その結果国全体が緑という感じになります。これは無論緑の党の主張でもありますが、ドイツ人は緑の党ができるよりずっと前から緑を大切にする傾向がありました。

経済的に苦しいので滅多にドイツを出るような旅行はできないのですが、たまによその国へ出ると国土の乾燥ぶりにびっくりします。「ここは砂漠か」というのがよその国での第一印象。無論カイロは砂漠という印象でもおかしくありません。とは言うもののエジプトはクレオパトラの時代には緑の国だったと聞いたことがあります。

ギリシャに1週間ほど行った事がありますが、そこもかなり乾いた印象でした。ギリシャはかつては非常に緑の国だったはず。ある時戦争で木を伐採して船を作り過ぎたのが砂漠化の原因と聞いたことがあります。

もっと驚いたのはフランス。映画を見ているとさほど乾いた感じがしませんが、実際に車で行ってみると乾いた場所がドイツより多いです。場所によってはまだ緑の所もありますが、ほったらかしの所もあります。

アメリカには空港に数時間滞在した以外行った事がありませんが、インソムニアのアラスカはまだ緑でした。ただ気になるのはアメリカ人のメンタリティー。あまり故郷に対する思い入れがありません。アメリカは全世界の人が新天地と夢見てやって来る場所で、アメリカ人がよそへ移住という話はあまり聞きません。ニュースや映画を見ていると、日本人がシャッター街と呼ぶような状態が町全体や州の多くの場所で起きているようで、そうなると人はその町を捨ててよその都会へ移ってしまいます。行った先でホームレスや生活保護受給者になる方を選び、自分の町を何とかしようという方向に動きにくいようです。何しろ双六の上がりになり、裕福な年金生活ができる人もそれまで何十年も住んでいた場所を去り、マイアミに行ってしまおうと考える人の多い国ですから。アメリカは欧州とは考え方、政治状況、法律が全然違うので、何とかするにしても方法は全然違うでしょう。

アメリカは私の目には非常に豊かな国に見えます。気候も物凄く寒くて毎年大雪が降る地域から、熱帯に近い所まであり、土地面積を人口で割ると、日本やオランダのような国からはうらやましがられるほど広いです。海に面している州も多く、魚を取ろうと思えばかなり行けそう。石油は自分の所で出ますし、ガスも行けそう。ちゃんと管理すれば自国だけでとても豊かな国になれます。むしろ人手不足が悩みの種になりそう。なので移民歓迎政策も納得。ところが英国に代わりアメリカが世界一豊かな国になってから、よその国の紛争にたくさんお金を使い、自国はかつて英国がやったようにほったらかし。人種差別が公に許されていた時代は貧困層は有色人種と決まっていましたが、人種差別が法律で禁じられてからは白人も差別なく貧困層に落ちるようになり、理想とは逆の平等が起きてしまいました。

長々と書きましたが、私の疑問は「ハリウッドはなぜ今いる場所を去るような映画を好むんだろう」です。

★ あらすじ

へたをするとややこしくなりそうな筋ですが、169分、混乱もせず飽きない展開になっています。少し他の作品をパクったかなと思えるシーンもありますが、監督自身が過去の優秀な作品を参考にしたと明言しています。

☆ 地球で食べて行けない現状 → NASA 廃止

話の始まりは農業政策がうまく行かなかったのか、気候変動に追いつかなかったのか分かりませんが、大規模な食糧危機が起き、宇宙の研究などに金は出せないという状況に陥ったため、NASA が廃止になってしまった所から。

かつて NASA の腕のいい宇宙飛行士だったクーパーも今は田舎の農夫になり、死んだ妻の父親を筆頭に10歳と15歳の子供と4人でカツカツの暮らしを営んでいます。その頃のアメリカは砂嵐と戦う毎日。砂が2015年制作のオーストラリア映画 Strangerland のように飛んで来るので、農業は壊滅。食糧危機で人類はクーパーの子供の世代で終わりという予想になっています。

NASA はどこでどうお金をひねり出したのか分かりませんが地下にもぐり、秘密裏に研究を続けていました。クーパーの現役当時の知り合いのブラント教授、その娘のアメリア他、当時の NASA より規模を縮小し、目的は他の星への移住に絞り、すでに12人ほど宇宙飛行士を他の星に送り出していました。

☆ クーパーの娘の前に幽霊が

農場に住むクーパーの家にはたくさんの本があります。時々本がなぜか本棚から勝手に飛び出し床に落ちることを観察していた娘のマーフは家に幽霊がいると思い始めていました。ポルターガイストなどという言葉が飛び出します。宇宙飛行士として科学に接していたクーパーは「そんなはずはない」と思いますが、頑固娘は「絶対に変だ」と言い張ります。

話を聞いているうちにクーパーはそこに科学的な答を見つけたような気になります。落ちる本が二進法の数字を表し、それで何かを伝えているのではないかという話になって行きます。娘はしっかりそれをノートに記していました。

その結果数字を発見し、それは何かの緯度経度を示しているのではないかと考え、2人はそこへ出かけて行きます。行った先で柵の鎖を切断し不法侵入しようとしたところを、そこの人物につかまってしまいます。

クーパーがそこで出くわしたのは NASA のスタッフ。宇宙飛行士をしていた頃知り合いだった教授から NASA 閉鎖後の話を聞かされます。秘密裏にすでにミッションを背負った宇宙飛行士をいくつかの星に送っているとかいう有り得ない話ですが、映画の中ではマジ。

限られた予算で NASA が考えているのは2つの案。現在地球で生存している人たちをワームホールを通って遠い世界に移すこと。これにはかなりのパワーが必要です。もう1つは現在の人類を送り出すほどのパワーが無い場合の次善の策。人類の受精卵を持った宇宙飛行士を送り、新天星で孵化させるという案です。

子供の頃趣味で位相幾何をかじっていた私ですが、ワームホールの話は荒唐無稽で、物理に疎い私にはにわかに信じることができません。数学の段階では理論ですが、物理の段階で実現可能でなければならないはず。しかし完全な与太話に思えます。

簡単に言うと、ブラックホールとホワイトホールを想定し、ブラックホールが全ての物体を吸い込み、物体はワームホールを通って、ホワイトホールから外へ出るというものです。アインシュタインの相対性理論が前提になるので、脚本家ノーラン弟も大学へ通い勉強をしてから書いています。ちょっと大学へ通ったぐらいで理解できるのですからノーラン弟はイケメンなだけではなく、かなり頭がいいのでしょう。

ワームホールが実在すると考える場合は、パラレル・ワールドなどと言う人たちの話もマジで受け取るべきですが、私には与太話に思えます。インターステラーの制作に関わっている科学者キップ・ソーンは与太話に聞こえないようなまじめな説明ができるらしく、私も暇があればじっくり聞いてみたいと思いますが、今の時点では与太話。スキャンダルが出て来るのであまり好きでないホーキング博士はソーンが言う「タイムマシンも可能だ」という話をばっさり否定しています。この点では私はあまり好きでないホーキング博士の肩を持ちます。

☆ 父ちゃん、行っちゃだめ

隠れ NASA の全体の計画はナザロと呼ばれ、送り出された宇宙飛行士のうち3人から「入植が可能だ」という信号が戻って来ています。ただ、一旦送り出されると宇宙飛行士の帰還は非常に困難。エンデュランスという宇宙船を与えられたクーパーは娘マーフの反対を押し切って出発を決意。娘には「必ず戻って来る」と言い、時計を置いて行きます。

マーフが反対した理由の1つは、彼女が謎の信号を解読しており、それによると「留まれ(= 来るな)」となっていたからです。どこの誰が送っているのか分かりませんがそれは英語で、STAY でした。

映画を見過ぎた私はこの信号を送ったのは未来に出かけて行ったクーパーではないだろうかと根拠も無く考えました。マーフに個人的に信号を送って来そうな人を他に思いつかなかったからです。それに英語なのだから、マーフが英語を理解すると想定して信号を送って来たのか、少なくとも送り主が英語を理解するということが前提となります。

☆ 行った先でトラブル続き

クーパーは腕の立つ宇宙飛行士、他のクルーは学者。加えてロボット2台も参加。見てくれの悪いロボットで、制作者はできる限り人間に似ていない形を好んだそうです。土星の近くにあるワームホールから入り、先に飛んでいるミラー飛行士がいるはずの水の星に向かいます。すでに2年経過。この星は近くにあるブラックホールの影響を受け、時間の流れが変わっており、水の星の1時間が地球では7倍になってしまうだろうと物理学者のロミリーから言われます。なので水の星に長居はできません。なのでクーパーは水の星に行くことに乗り気ではありません。結局説得されて出発。

ここでドジをやるのがアメリア。水の惑星は人類の生存には適しておらず、アメリアたち3人とロボット1台が大波に襲われます。ミラーはおらず、ミラーのロケットの残骸だけが見つかります。その残骸を持ち帰ろうとして迫り来る波の危険を軽視したため、アメリアは危ないことになり、地質学者ドイルはその場で死亡。アメリアもロボットに危ない所を救われますが、ロケットが故障。余計な時間を食ってしまいます。

今いる場所を捨てて、よそに移住してしまうという話にはあまり乗り気でない私ですが、クーパーのスタンスからはいい印象を受けました。他のクルーは科学者ばかり、クーパーは腕の立つ宇宙飛行士。なので彼の発想は安全を考えていたり、実質的で、理論にあまり振り回されていませんでした。

☆ アッと驚く浦島太郎

メイン・ロケットに戻ってみると23年も経っており、ロミリーは出発の時より23歳年を取っていました。いい加減にしてくれ、アメリア君、君の責任だぞ。

地球に残して来た子供たちもすでに成人。トムは結婚しています。マーフは学者になり、ブラント教授の元で働いています。

☆ 隠れ NASA の隠された秘密

隠れ NASA はその後もずっと研究を続けており、巨大な宇宙船を新しい星に送るべく努力中。とは言うもののどうやって大勢の人間をよその星に移すのか、それ自体が与太話に聞こえます。そのためには重力の問題を解決せざるを得ず、またそれだけの大勢の人間を到着までどうやって養うのかなど、呆れるほどたくさんの問題があります。

娘アメリアは宇宙に旅立っており、自分の命もいよいよ(老衰で)危なくなった時、娘代わりと思ったか分かりませんが、ブラント教授はマーフに「実は自分も最初の計画が与太話だと分かっていた」と告白します。つまりマーフのお父ちゃんは帰って来る見込みが無い、人類は見放される、将来を担うのはお父ちゃんたちが持って行った受精卵だけだという事です。

宇宙では定期的に地上からのビデオ・メッセージを受け取っていますが、地球ではどうやらデーターは届くもののクーパーたちのビデオ・メッセージは届いていない様子。しかし最初の計画がだめだという事を知ったマーフはそのことをビデオ・メッセージで送ります。マーフは以前は勝手に出かけて行ってしまったお父ちゃんに反発してメッセージを発していませんでしたが、父親と同い年になった日に初めてのメッセージを送っています。

☆ そう簡単ではない

教授も死に、希望がますます小さくなる中、マーフは研究だけは続ける気になり、がんばって見ます。これがうまく行き人類は助かるのですが、そこに至るまでにはまだ大事件が起きます。

まず、限られた燃料で残った宇宙飛行士の出かけて行った星を全部訪ねることは不可能で、どれか1つに決めなければなりません。1つめは水ばかりで居住に適さないことがすでに分かっています。残りの2つのうちアメリアは恋人が行った星を選びたいところですが、それがばれてしまい、氷の星、マンという科学者が行った星の方が選ばれます。公私混同しちゃだめよとお互いを戒めるシーン。

ヒュー・マンなどという駄洒落のような名前の宇宙飛行士が氷の星に無事到着し、そこから星のデーターを地球に送信していました。行って見ると南極基地みたいな小屋があり、中でマン博士が冬眠中。

クーパーたちがマン博士を解凍すると、久しぶりに人を見た博士は泣き出してしまいます。そして意外な告白を受けます。マン博士もラザロ計画では最初から今地球にいる人類を救うことは断念していたと言うのです。マン博士らわずかな人がいくつかの星へ行き、そこで受精卵を孵化させることが目的になっていたということで、リドリー・スコットのプロメテウスと話が繋がりそうな気配。

☆ ヒュー・マンのふるまい

マット・デイモンが演じているから善玉だろうと思うと、ここで足を掬われます。クーパーと一緒に探索に出かけ、他の人と離れた時に、マン博士はクーパーを襲撃。クーパーの無線機をはずし、宇宙服に穴を空け、窒息死させようとします。必死で戦うクーパーですが2回打撃を受け、ほとんど絶望的な中、何とか助かりますが、マン博士はロケットを奪い1人で地球へ向かおうとします。

動機は非常に人間的なもので、氷の星では受精卵を孵化させても人類が生存できそうにもない、もしその旨地球に連絡したら自分はこの星で1人寂しく死ぬ運命。それに耐えられず、犯罪的な知恵を働かせたのです。もしここが生存可能だと地球に連絡すれば、誰かがやって来るだろうと、そこにわずかな希望を持っていたのです。そして本当にクーパーたちが来たので、そのロケットを使って地球へ戻ろうと考えたのです。

しかしここでロミリー博士がマン博士の仕掛けた爆弾で爆死。また1人クルーが減ります。

クーパーたちとマン博士は追いかけっこになり、マン博士が1歩速い。ところがロケットのドッキングを試みた時不具合が生じ、きちんとドッキングしません。それでもドッキングを強行したので、圧力差によりマン博士は死亡。

その時にも爆発が起き、その力で残ったロケットは回転。クーパーたちはその回転に自分のロケットも合わせ、どうにかドッキングに成功。しかしロケットは大きく損傷しており、貯蔵物もかなり失われます。

☆ 改めて決断

色々な事が限られ、諦めなければならなくなります。その結果3つ目の星に向かうことになります。これは片道切符。2人より1人の方がいいだろうということでクーパーは秘密裏にアメリア1人を助ける決心。思い出しますね、スペース・カウボーイのトミー・リー・ジョーンズを。

クーパーの目論見に気づいたアメリアは大泣き。でも、もう遅い。1人で恋人の向かった星に向かうしかありません。

☆ その後のクーパー → 幽霊になる

クーパーはブラックホールの探査をしながら、アメリアのいた軌道からどんどん外れて行きますが、突然わけの分からない空間に降り立ちます。ロケットも何も無く、あたりの全てが立方体。思い出しますね、2001年宇宙の旅のキア・デュリアを。

ここからは2001年宇宙の旅後半の乗りで、理屈も何もあったものではありません。重要なのはファミリー・ドラマ。

クーパーはアメリカの自宅の、まだ宇宙へ出発する前の本棚の後ろ側にいます。隙間から前を覗くと10歳のマーフが「お父ちゃん、行くな」と駄々をこねています。お父ちゃんはちょうど娘に時計を渡すところ。

本を床に放り投げて2進法の数字でサインを送っていたのはやっぱりお父ちゃん本人だったのです。「行くな(= STAY)」とサインを送ったのもお父ちゃん。それでもマーフが10歳の頃のクーパーはそこまで考えが及ばず、決められた運命通り宇宙に旅立ってしまいます。

成人し、ブラント教授とも死に別れ、それでも何かあるぞと思って研究を続けていたマーフは時計を手にし、その場で考え始めます。ブラックホールの探索で集めたデーターを時計の針の動きで娘に伝えようとするお父ちゃん。それを理解し始めるマーフ。本棚の前と後ろで、直接は会えませんが、ある意味お父ちゃんは約束通りマーフの元に帰って来ているのです。お父ちゃんは子供時代のマーフの姿を本の隙間から見ることができます。

ロボットはマーフがお父ちゃんの信号を理解できるか懐疑的ですが、お父ちゃんは確信を持っています。ここでの一言はダイ・ハード4.0 のマクレーン親子のやり取りを思い出しますね。

☆ 究極のハッピーエンド

ショーダウンはどんどんファンタジーに向かうのですが、お父ちゃんの送って来るデーターを元にマーフはブラント教授の研究を乗り越える理論に到達し、巨大な重量の地球人を輸送する手立てを発見します。

次のシーンはクーパーとマーフのご対面。クーパーは当初と同じ中年のお父ちゃん。マーフは死の間際の老女。場所は人類の生存可能な星。地球と同じように病院があり、クーパーはそこで目覚めます。

どの星なのかは観客には良く分かりません。3つ目の星はアメリアの恋人が降り立った場所。クーパーは目覚めて現在いる場所から改めてアメリアを探しに出発します。ちなみにトムは結婚していましたし、マーフも誰かと結婚したらしく、クーパーが目覚めた時は親戚縁者がうじゃうじゃ。

まだ今のところ1人きりで恋人の降り立った星にいるアメリアは、恋人の名前を発見。現在はマット・デイモンと同じ状況ですが、間もなくクーパーが彼女を回収に来ます。

めでたし、めでたし。

★ 泣いてばかりいるハザウェイ

いかにも役者顔のハザウェイ。過去の作品では大きなスマイルを披露していましたが、インターステラーではメイクを非常に薄くし、泣き顔がほとんどです。同僚を死なせてしまったり、決断を間違えたり、まあ、ドジの多い役ですからね。

泣きで売るはずなのはクーパー家の長女マーフのはずなのですが、見終わって印象に残るのはアン・ハザウェイの泣き顔の方です。

★ 悪役に挑むマット・デイモン

まだ少年に見える若い頃オスカーを手に米芸能界に飛び出して来たマット・デイモン。その後多くは善玉役、それもアホなヒーローではなく、頭も使う立派な人間や苦悩する人間の役が多い人です。ま、全体としていい印象を残し続けています。

今回はやや趣向を変えて、嫌な奴を演じています。メイクも普段よりややボーっとした感じになっていて、「心の底では正義を信じる」という風になっていません。

元から自分の命を犠牲にする覚悟で参加したはずのミッションでありながら、いざ参加してみたら命が惜しくなって、裏切り行為を働くという役どころです。その上思惑通り助けになりそうな一行が彼の元にたどり着くと、クルーの1人を殺そうとし、ロケットを奪って地球に帰還しようとまで試みます。生きたいという人間の根源のエゴを表現しているのだとデイモンを庇いながら解説することもできますが、特段彼のファンで無い人に取っては卑劣漢に見えます。

間もなく御年45歳になろうとしており、デビューしてからあと2、3年で30年になろうというデイモンなので、モラルのしっかりした善玉だけでは飽き足らなくなって来たのかも知れません。あるいは頭のいい人ですからノーランの作品ならどんな役でも出ておきたかったのかも知れません。過去のイメージを少し崩すことを始めたのかも知れません。

特定のタイプの役のスタンプを押されてしまい、いつも善玉とかやっている人の中にはある程度の年数が経って飽き足らなくなり、ある日ガラッと違う役を演じて観客をあっと驚かせる人がいます。ただ、ガラッと違い過ぎてこけてしまう人や、その役は例外と見なされ、またいつもの役に戻されてしまう人などがいて、イメージ・チェンジはなかなか難しいようです。デイモンはおそらくその辺は心得ていて、時々小さい役でちょっとずつ変えて行くつもりなのかも知れません。スターではなく役者ですと嫌な奴のキャラクターにも最初から興味があり、せっせと演じていくのでしょうが、スターとして売り出されてしまうとそのあたりはやりたい放題好きな役を引き受けると言うわけには行かないようです。

ちなみにインターステラーにはアフレックの弟ケイシーが出演しています。この役をベン・アフレック(1972年生まれ)が取っていたら久しぶりにデイモン(1970年生まれ)&アフレック兄・コンビ再会ですが、この役に兄ちゃんは合いません。とは言うものの実はデイモン・アフレック弟(1975年生まれ)も同じぐらい古くからの知り合いで、グッド・ウィル・ハンティング 旅立ちの後時たま共演しています。この3人は俳優になる前から近所に住んでいて、小学生の年の頃に知り合ったとか。

デイモンの役はドイツ系の苗字のマン博士。《マン = Mann》というのはドイツ語では《男》という意味で、ここから派生して《人間》という意味を持つ 《man》 という言葉もあります。《M》 を大文字で書き、《n》 を2つつけると《男》という意味で、《m》 を小文字で書き、《n》 を1つにすると一般的な《人間》という意味になります。その上洒落のように彼のファースト・ネームはヒューになっています。続けて発音するとヒューマン。その彼が本当に人間らしく自分が生き残るためにクーパーたちを犠牲にしようとします。

あのまま帰還できたとしても、隠れ NASA の人にどいういう説明をするつもりだったんでしょうね。

まあ、かなり与太話が混ざっていますが、169分飽きずに持たせたので、エンターテイメント性では満点に近いです。

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