史上最悪のチェス映画、と評判の高い「世にも奇妙な物語−映画の特別編」の「チェス」・・・、とうとう借りてしまいました(笑)。
まず確認しなければならないのは、エンディングのクレジット(笑)。そう、この「チェス」の制作にはJCAが一枚噛んでいるらしいのです。
ということで、いきなりビデオをガーッと先送りします(笑)。
この「世にも奇妙な物語−映画の特別編」は4話のオムニバス形式。「チェス」はその第3話です。
「チェス」のスタッフを上からざーっと見ていきますと、まずは脚本,音楽・・・と来まして、その一番下に
特別協力●日本チェス協会(松本康司・渡井美代子)
の文字がぁっ!!
JCAが特別協力しておいて、「史上最悪のチェス映画」かよ・・・(涙)。
では、改めてビデオを巻き戻しまして、「チェス」を鑑賞することにしましょう。
いきなり出てくるのは、案内役のコージー富田もといタモリです。もうちょっと先送りしよ・・・。
さて、オープニングのシーンは、チェス盤のイメージシーン(?)に、「チェスは非情なゲームだ・・・」と主役の武田真治の声が被ります。
このイメージシーンのチェス盤上は既に中盤の様相を呈していますが、ちょっと待て。
白のポーンがf1に置いてあるんだけど・・・。
肝心の話が始まる前に、イヤな気分にさせられます(笑)。
冒頭のシーンは、チェスの世界チャンピオンである武田真治(その配役から気にくわないが、それを言い出すと話が終わらないので放っておきます・笑)が、コンピューター(スーパーブルーというらしい。勿論、ディープブルーのパクリ)とのマッチを戦っています。
このシーン、武田真治が手を指した後、自らチェスクロックを押し、そして棋譜を書いています。
おお、意外に細かいところまで気を遣っているじゃないか(笑)。
そして、世界チャンピオン・武田真治(ああ、イヤだ・笑)がコンピューターに敗北するところから物語は始まります。
この投了のシーンでは、武田真治がキングを倒しています。
こんな描写だけでも、思わず期待感が広がってしまいます(笑)。
そして、スーパーブルーとの戦いに敗北した武田真治はチェスを捨て、その3年後に謎の金持ち老人(石橋蓮司)からチェスの勝負を持ちかけられます。
そのチェスの勝負とは、そのチェス盤での駒の動きに呼応するかのように、人々が殺し合う殺戮のゲームだったのです・・・(って、映画の予告編じゃないんだから・笑)。
ということで、今回解析するのは、武田真治(白) vs 石橋蓮司(黒)の1戦です(爆)。
ゲーム開始と共に武田真治の発した台詞は「ポーン、d4」
おおっ!もう専門外だぁ(爆)!
肝心のゲームですが、やはりJCAの特別協力の御陰か、マトモに進行していきます。
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【図−1】 |
素晴らしい。Queen's Gambit Declined です。
しかし、この後から我々の期待を裏切るかのような手が始まるのです・・・(涙)。
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【図−2】 |
Queen's Gambit Declinedのラインを進むなら、3.Nc3が普通です。
3.Nf3というラインもMCOに掲載されていますが、その場合は、3. ... Nf6 4.Bg5と続くようです。
しかし、まぁ、ありそうな展開ではあります。
4.Ng5からだんだんオカシクなってきます。
そして、4. ... dxc4の手が、このゲーム初の駒取り。この後、武田真治の目の前に、チェスの進行に対応するかのように殺人シーンが繰り広げられていくのです・・・。
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【図−3】 |
5.e3?って、5. ... Qxg5でナイトがタダじゃん!
しかし、これは演出上の問題だと思います。
「ナイトがクイーンに殺される」というシーンが必要だったのでしょう。
しかし、次の 6.Ke2?って何なんだよ・・・。
その後、武田真治はこの狂気とも思えるチェスの世界から逃れようとしながらも、それでもゲームは着々と進行していきます。
そして、次に出てきた局面が図−4です。
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【図−4】 |
図−4の局面を作るのもちょっと苦労するのですが、それはさておき(笑)。
ゲームに呼応するかのように、目の前で次々と殺人が起こる余り、武田真治は逃げ出します。
その武田真治が駐車場にたどり着き、1台の車に乗り込みます。
実は、その車さえもチェスの一部になっており、駐車場と思いきや8×8のマスに並んでいた車(つまり、コマと対応している)の中で、武田真治が乗った車は、c1のビショップだったのです。
エンジンをかけ、アクセルを踏むと、その車は右斜め前方へ・・・。
あわててブレーキを踏み、止まったところが g5のマスでした。すなわち、Bg5です。
そこで石橋蓮司は、... Rxh1 とルークを取り「お城はいただいた・・・」とつぶやきます。
武田真治は、このチェスの世界から逃れられないことを悟りました。
このまま駒を取られ、もしクイーンが取られたときには、自分の妻(岡本夕紀子らしいが、誰それ?)の命をも狙われることがわかったのです。
石橋蓮司を見据え、武田真治は決心しました。「チャンピオンのチェスを見せてやる!」
おお!ちょっとだけカッコイイぞ、武田真治!!
どのようなチェスを見せてくれるのかと思いきや、ここからはイメージシーンが続き、肝心のゲームの進行はさっぱりわかりません。
ミドルゲーム(?)をすっぽかし、物語はいよいよ佳境に入ります。
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【図−5・・・白の手番】 |
何をどうすれば、こんな局面になるのかは知りませんが、さすがは元世界チャンピオンの武田真治です。
図−5で白の手番なら、Nc6の一発メイトです。めでたし、めでたし。
と思いきや、武田君はおかしなことを申されます。
「あと2手でチェックメイトだ。投了を勧める」
いや、武田君!チェスには「キングを取る」という行為が存在しないから、次の1手でメイトなんだよ!
そんな僕を無視して、謎の老人が言うには、
「確かにチェックメイトできよう。しかし、また他のコマを犠牲にするのかね?」
いや、だから次の1手でチェックメイトなんだって!!
そんな僕を無視して、武田君は黒ずくめの2人の男に抱きかかえられ、部屋の外へと連れ出されてしまいます。
ちょっと話は逸れますが、最終局面での上記の会話ですが、机の上のチェス盤が白黒逆向きに置かれているのです。
真上から撮ったシーンでは、確かに黒のキングは謎の老人の手元(b8)に位置しているのですが、謎の老人の左後方から武田真治を撮るシーンでは、武田真治の手元(g1)に黒のキングがあります。
どうやら、シーンを別撮りしたときに、チェス盤を逆に置いてしまった模様です。ま、いいけどね(笑)。
さて、武田真治が連れて行かれた先は、人間がコマとなった巨大なチェス盤。
勿論、武田君は b6のマスまで連れられて行き、謎の老人は b8のマスに立ちます。
謎の老人は、アラビアのハッサン王が囚人を使ってチェスをやった、とかウンチクを垂れた後にこう言うのです。
「君がチェックのためにナイトを動かせば、クイーンは死ぬことになる」
武田真治が振り向き、a1のクイーンを見ると、そこには岡本夕紀子の姿が・・・。
武田君は顔面蒼白です。
元世界チャンピオンでなくても、多少なりともチェスを知っている人間なら、
「ぶはははは!ナイトc6でチェックメイトだよーん!」
と笑い飛ばして、話はオシマイなのですが、それでは映画になりません。
「ああ、ここで俺が Nc6+とチェックをしたら、... Rxa1でクイーンが取られてしまう!」
武田君、それはイリーガルムーブだよ!と教えてあげられないのが残念です。
というよりも、チェックメイト後の手ですから、イリーガルムーブとさえ呼べないとは思いますが・・・。
余りにも悩んだしまった武田君は思わず、
「キングはクイーンを守る、キングはクイーンを守る」と呟いてしまいます(涙)。
武田君!チェスのルールを忘れてしまったのか!元世界チャンピオンだろう!?
ああ、そして武田君の口から出た台詞は「キング、a5!」だったのです!
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【図−6】 |
武田君!それもイリーガルムーブです!!
しかもタッチアンドムーブのルールでいけば、Kb5とか指さなきゃなんなくて、その後に... Rxa1でクイーンを取られちゃうよ!!
でも、武田君は僕の意見などは聞いてくれません(当たり前)。
武田君は自ら a5のマスに動き、両手を広げて a1のクイーンを守ろうとするのです。
話的にはカッコイイかもしれないけど、チェス的にはマヌケだぞ、武田君!
ああ、哀れなり武田君。そして武田君ににじりよる黒のルーク。そして武田君は・・・。
と、これ以上はネタバレなので書きませんが、やはり上記の最終局面のシーンはいただけませんなぁ。
Ka5のシーンについては、岡本夕紀子を守るということで、まぁ良いシーンかなとは思うのですが、チェックメイトの定義がわかっていないというのは、やはり問題だと思います。
仮に、... Rxa1とクイーンを取った次に Nc6でチェックメイト、という局面を作っていれば、まだマシだったんですけどねぇ。
かくして、チェックメイトの定義さえわからなかったこの「世にも奇妙な物語−『チェス』」という映画は、「史上最悪のチェス映画」の評価を与えられることになるのでした・・・。
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