皇帝の正しくないチェス

2012 ゴールデンオープン(1日コース)参戦記


はじめに

 東京への大会参加は実に6年ぶり。

 先日のCheck Mate Loungeで久しぶりにチェスの面白さを体感した勢いで、家庭の事情に配慮しつつ(笑)、ゴールデンオープンの1日コースに参加しました。

 目的は二つ、旧知のチェス仲間との再会と、HP更新のネタ作りです。

 前者の目的は十分に果たせましたが、後者はもう無残に2敗2分で自戦記どころではありませんでした(涙)。
 私の実力は知識に裏打ちされたものでは無く、例えば定跡に沿うようなタイプでは無いので、実戦勘の衰えというのは、致命的でした。

 ゴールデンウィークには、全日本選手権とゴールデンオープンが同時開催なので、大会の参加者はとても多いです。
 6年前に比べると、ずいぶん学生が多いなという印象を受けました。学生といえば東大か麻布か、という感じでしたが、それ以外にも多くの学生がいたと思います。
 一方で私よりも上の世代が、未だにレートを維持しながら頑張っていることにも感銘を受けました。学生や若手が多ければ、レーティング的にターゲットになってもおかしくないのに、これは凄いことだと思います。

 私は見事に「ターゲット」になってしまったわけですが、それでも、いくつか「良い手」はあったので、次の一手方式で局面紹介をして、参戦の証を記載したいと思います。

 ちなみに、ゴールデンオープン1日コースの持ち時間はそれぞれ45分。時間が切れたら負けです。時間があるようで実はありません。
 上級者ならいざ知らず、私レベルではどうしても大事なところでミスが出ます。勿論、お互いに条件は一緒なわけで、つまりは最後にミスしたほうが負け、のような感じです。
 そんな対局なので、細かいところは多めにみてください、という言い訳です(笑)。

 ちなみに、この日のお相手4名は当然ながら皆さん初対面の初対局でした。
 全日本選手権やゴールデンオープン3日コースでは多くのチェス仲間が参加されていましたが、1日コースに知り合いはおらず。
 あたかも「お忍び参加」の様相でありました(笑)。

写真−1
【表彰式-優勝杯の授与】

第1R

 お相手はHaさんで、私の黒番。1.c4 f5 と、イングリッシュ・オープニングからのダッチ・ディフェンス。いつものパターンです。

 で、問題の局面は20.Rc1→c7のところ。
 フリッツ君に解析させると、19手目までは「白優勢」ですが、次の黒の一手で局面はほぼ互角に戻ります。
 すぐに駒得するような手ではないので、わかりにくいかもしれませんが、黒の不利を打開する一手は何でしょう?

図−1
【図−1:20.Rc7まで】

 局面をパッと見ると、これは相当酷く見えます。序盤早々にワンポーンダウンし(いつものことで、「これはギャンビットなんだ」と自分に言い聞かせる)、d5に白のパスポーン、そしていよいよルックが黒陣に侵入。ですが、実は20.Rc7は「指し過ぎ」だったのです。
 正直、これはこのまま押し込まれて負けか、と頭をよぎりましたが、何とか次の一手を捻り出しました。
 ポイントは、白のa5のクイーンが「浮いた(他の駒で守られていない)」状況にあるということです。

 ということで、正解は20. ... Qd8!です。
 c7のルック取りにして、そのルックが動けば、a5のクイーンを掠め取ることができます。
 なので、実戦では21.Rdc1 とcファイルにルックを重ねましたが、21. ... e4とスペースを確保して互角から黒やや良し。次に22. ... Be5 と、c7 のルックを攻めることが出来ます。

 ただまぁ、試合結果はすったもんだの末にドローでした。

第2R

 お相手はAさんで、私の白番。1.e4 c6 と、カロカンでスタート。お願いですから、ギャンビットさせてください(涙)。

 で、問題の局面は17.Nf6→d7のところ。
 感想戦では、「ビショップをf6 に出したかった」というのがAさんの弁。でも、悪手です。
 これは難しくないと思います。黒の悪手を咎める次の一手は何でしょう?

図−2
【図−2:17. ... Nd7まで】

 フリッツ君に解析させても、これ以前はほぼ互角でした。

 ちなみに、対カロカンとして、b3 からBb2 とするのは、いるか師匠直伝で、私がよく使う手です。
 細かいネタバレは避けますが、クイーンサイドのポーンで有利なエンディングを迎える、というプランになります。

 で、解答は18. d5です。
 18. ... exd5 なら、クイーンでビショップが取れますし、18. ... cxd5 なら、19.cxd5 でクイーン取りなので、クイーンが逃げると 20.dxe6 となります。

 実戦は、18. ... Bf6 19.Bxf6 Nxf6 20.dxe6 から、白有利でエンディングに突入しましたが、またもやすったもんだでの末でドロー(涙)。

第3R

 お相手はHiさんで、私の黒番。1.e4 e5 2.Nf3 f5 と、ラトビアン・ギャンビット、キター!

 で、問題の局面は16.g2→g3のところ。実は大悪手。
 ここでは16.Bb5 でクイーンとルックの串刺し、白がエクスチェンジアップできるところでしたが、お互いに気づかずでした(苦笑)。

 まぁ、そこはそれとして、出だし不利なラトビアン・ギャンビットを、ようやく互角〜やや良しに持っていける一手を考えてください。

図−3
【図−3:16. g3まで】

 さて、ラトビアン・ギャンビットというのは、自ら選択した黒側が自ら不利になるというオープニングです。
 そうでなければ、世界トップレベルで指されているわけです。そうではない理由があるわけですね。

 実際、フリッツ君に解析させると、2. ... f5 と指した途端にポーン1個以上黒が悪いと判断され、そのポーンダウンを解消しても、なかなかその差は詰まりません。

 正直に言ってしまえば、白が「こんなのわかんねー」と悩んでいる間に差を詰め、チャンスがあれば一気に逆転というのが持ち味。また、それを可能にする攻撃力を秘めているのがラトビアン・ギャンビットだと言えるでしょう。

 さて、白の見逃しによって、一手の余裕を得た黒の正解手は。16. ... Nd5です。
 ちょうどd5 のポジションが空いているので、そんなに難しい手では無いと思います。これでf ファイルがルックのために空きますし、黒からe3も突けます。

 実戦では、17.Qe2?と白に悪手が出て、17. ... Nxc3 以降、一気に黒優勢〜勝勢と推移したのですが、すったもんだの末に負けるという・・・。

第4R

 お相手はMさんで、私の白番。最後の白番は自分の得意定跡でと願いましたが、1.e4 d5 とセンター・カウンター・ディフェンス。
 苦手とは言いませんが、それでも好きではありません(笑)。

 さて、この対局はもう良いところ無しなので、私のリザインの局面を問題に(笑)。
 22.Qf3→d2と、「クイーンを交換してください!」というお願い。これが大悪手ということで、次の黒の一手で勝負を決めてください。

図−4
【図−4:22.Qe2まで】

 この対局は、序盤早々に私が手順を間違えて、gxf3 とダブルポーンを作るはめになりました。
 以降、それ以上に不利を拡大せずにきたのですが、「もうクイーン交換してエンディングを誤魔化して、何とかしよう」という浅ましい考えが間違いでした。

 ということで、正解は22. ... Rg1です。
 これはチェックですから、逃げ場の無いキングで取るしかありません。で、23.Kxg1 Qxe2 でクイーンを取られてしまいます。

第5R

 4回戦のはずなのに、第5Rって何なんだよ、という感じですが、意味するところは「飲み会」です(笑)。

 表彰式の後は、例年通りアルゼンチンワインで乾杯と軽い打ち上げ。hiyagon先生ほか、旧知のチェス仲間とお話できました。
 「名前は知っているのに顔がわからない」というネットの付き合いにありがちな関係であるenju君に挨拶したところ、ネタにされてしまいました(こういう扱いはキライじゃないぜ)。

 その後は二次会、全日本チャンピオン経験者のMさん,Sさん、そして「チェス界のイチロー」こと I さんと4人で飲みに行きました。
 Sさんは、Check Mate Loungeで解説を務めた方で、当日の裏話なども聞けて楽しかったです。

 大会後の飲み会が楽しいのはいつものこと。でも、これが変わらないというのが何とも良かったです。