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フランス革命の中で最も有名な「暗殺」と言えば、「マラーの暗殺」でしょう。これが印象に残る理由はいくつもあります。まず暗殺された人間が政治の急先鋒で吠えていたマラーであること。かわいらしい田舎娘の単独犯であること、暗殺場所がお風呂場であること。そして、何よりも私達の印象に残る理由はダヴィッドの描いたすばらしい絵画の影響でしょう。この絵は真実からかけ離れたところも多々ありますが、この絵を見た当時の人々は(そして私達も)まるで自分が目撃者になったような気持ちになってしまいます。
実際、暗殺された当時のマラーはひどい皮膚病にかかっていて政治の先端にいたとは言いがたいところもありましたが、ジャコバン派は彼の死を無駄にはせず、目いっぱい利用しました。その利用振りはマラーの最後の仕事と言ってもいいくらいです。まるで現代日本の「弔い選挙」とも言えるかもしれません。
マラーを暗殺したシャルロット・コルデーには、しっかりした政治的背景はありませんでした。ただ、無責任な噂をことごとく信じ込み、マラーを「食人鬼」と思いこんでしまったのです。彼女はフランスの未来を救うために、マラーを暗殺するのだと心から信じていました。
しかし、マラーには災難でしたが、だからといってシャルロット・コルデーのしたことを軽挙と片付けてしまうのはかわいそうです。情報網も発達していず、政治、社会の混乱していた当時、何を信じればいいのか、何が祖国のためになるのかはっきりと理解していた人は極少数でした(しかも、その理解も後世から見れば本当に正しいのかどうか疑わしいところもあります)。状況をしっかりと把握できないまま身近な人々の言うことを信じて行動してしまうことが多かったのです。具体的にはバスティーユ襲撃や九月虐殺等もその例でしょう。
私自身はシャルロット・コルデーもマラーも特に惹かれる人物ではありませんが、刑場に引かれる「暗殺の天使」に恋をしてしまった男性、マラーの死を深く悲しんだ内縁の妻の存在が気になります。彼、そして彼女にそれほどまでの魅力を与えた暗殺者と犠牲者を追っていきたいと思います。
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