Beauty Form

ヴァイオリンの美しい形
きれいな曲線はなぜ?

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ヴァイオリンが大好きな人間にとって、この楽器がミロのビーナスより美しいと思っている人は多いでしょう。

その外見や華麗な曲線から、それは女体美から発しているという人もいます。

確かにバスト、ウェスト、ヒップと同様、スリーサイズのボディをもっています。

響板や裏板を削っているときには、仕上がるにしたがい、その女性的なフォルムが浮き出してくるのは実に楽しいものです。

まさに、塑像のトルソーを削りだしている感すらあります。 

無量塔蔵六著=岩波新書921『ヴァイオリン』(絶版)にも、そのことが詳しく書かれています。

実際、氏が復刻した古楽器のリラ・ダ・ブラチオ[ジョバンニ・アンドレア、1511年]には、
女性の乳房やヒップさえレリーフとして彫られているほどです。


   ◇ 黄金分割   
 アメリカ・オレゴン州の製作者、ヘンリー・A・ストローベル氏の著書『ヴァイオリン製作者の技芸と方式(Art Method of the Violin Maker)』には、 つぎのようなたいへん興味のある記事が載っていました。

 ヴァイオリン製図法として説明している記述の一部ですが、著作権の関係から、その問題とすべき訳文の部分だけの引用にとどめます。

 まず、大きな1対2の直角三角形を描き、その底角から斜辺に底辺の長さの1を点としてとる。

 その斜辺は[ルート5]であるから、その線分の点から頂角までの長さは{(√5)−1}となる。

 さらに、高さの辺に頂角からその長さを移すと、[2−{(√5)−1}]になり、その比が結果として『黄金分割』になる。

 ボディの長さから駒の定位置であり、エフの字の横線「ストップ」と呼ばれる位置。 また、下のいちばん膨らんだところの「ロウアー・バウツ」や、上のいちばん膨らんだところの「アッパー・バウツ」、 そしてC部の、いちばんくびれているところの「インナー・バウツ」など、ヴァイオリンを構成する主要な部分は、その黄金比からできている線上、 もしくは全体の長さを21のユニット(単位)に分割した、その点上にすべて存在している。

 図解しないと分かりにくいことですが、つまり、古代ギリシャの建築や美術、芸術でおなじみの『黄金比』が、 ヴァイオリンの設計上にも古くから取り入れられ、現在まで引き継がれていることになります。
 ですから、ヴァイオリンは、もっとも調和がとれた、もっとも美しいといわれている比率をもとにつくられていることになります。

   スクロール(渦巻き)の謎  なんでこんな形?   

エンタシス・イオニア式柱頭部

イオニア式金具

ネックのスクロール


ネック頭部のスクロール(渦巻き)は、古代ギリシャ建築の柱 エンタシス柱頭部イオニア式
同じ製図法だと、ヘンリー氏の本に書いてありました。

このイオニア様式の渦巻きは、一見巻き貝のようですが、図のようにロータスやアカンサスの葉をモチーフにした
建築様式、家具様式など、こうした文様の原点ともなっているものです。

日本古来からの唐草を代表する葡萄唐草文、あるいは、インドのパルメット文様と同様、
まるまってすくすくのびていく植物のたくましい「生命」、
その「命の根元」から転じ、「音楽の無限性」さえ象徴しているように私は思うのです。



   f 字孔は?   

ギターやマンドリン、リュートの音響孔は丸なのに、
ヴァイオリンの仲間はどうしてラテン語のエフ[ ʃ ]の字なのでしょう。
前述した無量塔氏の著書には、つぎのような『レオナルド・ダ・ヴィンチ説』が書かれていました。

ミラノに国王のフランシス一世がきたとき、ダ・ヴィンチは
自分が発明し、つくりあげた楽器の『リラ・ダ・ブラチオ』をたずさえ、王の前で自作自演したといわれています。
胴の形が今のヴァイオリンに似ていて[ ʃ ](ラテン語のエフ)の音響孔が空けてあり、
[ ʃ の字]はフランシス王のイニシャルだったというもの。

そのほか、ヴァイオリンを女体と結びつける人は、
[ female (女性)]の[ f ]からのものと想像している人もいる、ということも書かれていました。

いずれにせよ、他の楽器には見られない特徴的なものといえるでしょう。


   ふくよかな曲線    

ヴァイオリンのふくらみ、曲線のことをアーチングと呼び、デザインや仕上げの外観、それと音響にも深くかかわっています。

そのため、削るときも、ニス仕上げに際しても光に照らしてよく見ながら、
写真のようになだらかな、きれいなカーブに成形します。

厚みがあり、ふっくらとして指板と表板との間が少ないものがハイアーチ
ふくらみの小さなものをローアーチと呼んでいます。

一般的に、ハイのものは音量があり、低音に重点がおかれているといわれ、
一方、ローのものは高音部が華やぐといわれています。

私は、若いときにはラジオ少年であり、しかもオーディオにこっていましたから、
スピーカーボックスを何台か、設計したり、手作りしたことがありました。
スピーカーのボックスは、ほぼその箱の内容積で共振・共鳴する低音が決定するといってもいいでしょう。

箱、とくに全面の板(バッフル板)の材質、質量、あける穴(ダストコア)の大きや体積、
中につめる吸音材なども大きく影響することは当然です。
理屈では、箱が大きい方が低音がよくのびるようになります。

ヴァイオリンよりビオラ、さらにチェロ、コントラバスと、共鳴箱が大きくなるほど低音になっていく道理です。

この写真は、03年12月に完成したグァルネリタイプの裏板で、標準的なアーチです。


ヴァイオリンは、そのようにもともと『美しい形』のものとして生まれていますから、
『より美しくつくる』ことが私たちつくる者に課せられた使命といえます。

ヴァイオリンの発生を、北イタリア説を支持するわたしにとって、さすが、ルネッサンスのお膝元だけあって、
この楽器、は美術品、工芸品としても美しいわけだと再認識するのです。

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