Tone
BGMは『Cavatina』です。
妙 な る 音 色

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乙女のため息・・・。

詩人のすすり泣き、魂をゆさぶるような雄叫び、どのような形容詞にも合わせられる弦の音色。

今から40年以上も昔、多感な高校生時代から、その音色には魅せられました。

バイトして買ったハイフェッツの『チゴイネルワイゼン』、メンデルスゾーンの『ヴァイオリン・コンチェルト』などなど。

レコードがすり切れるぐらい、感動して聞いたものです。

弓の毛の、たった3〜4本ほどで弾く、消え入るようなピアニッシモ。

120〜30本の、毛の全部をあてがい、きしませるように激しく弾くフォルティシモ。

その音の違い、音量の幅も大きいものです。

キーボードのように、どの音からも半音ずつに区切られた『平均階律』の楽器ではないこと。

そのことがより人間的な、微妙に、無段階に音程を変えられ、表現の幅をも広げます。

そうしたこともヴァイオリンの特徴で、もっとも演奏者の主観が出しやすい職人的な楽器といえます。

何にもまして、たった1台のヴァイオリンが、ソロ楽器としてコンチェルトまでできることです。

数多くの楽器、大勢のフィルをバックに、あの小さな体でホール全体に鳴り響かせるのです。

ピアノは、両手10本の指とペダリング操作で、最大20〜30音以上は同時に鳴らすことができます。

しかし、ヴァイオリンは弓でこすれる範囲、最大でも弦2本、2音が限度です。

響板の大きさ、弦の数、楽器全体から見て、それがピアノと同格になる大変な代物なのです。

 

低音の魅力 = バスバーの秘密

普通の演奏者はあまり関心はないでしょうが、 ヴァイオリンの低音側、G線の駒の真下にバス・バーと呼ばれる、小さな、梁のような木が貼り付けられています。  
(右の写真は、新作の表板にバスバーを貼った直後のもの。)


写真のように、響板(表板)の裏側、それもG線の片側だけに、長さ27センチ、厚さ5.5ミリ、 いちばん高い中央部分のところでおよそ13ミリほどの、少し大きめな割り箸程度のただの木片、それがバスバーです。

やせたイルカの背中のような、へんなカーブを描いて削るのですが、板のアーチや反りにぴったり合わせてつくり、ニカワでしっかりと貼り付けます。

このバーが、低音の振動を響板としての表板全体に伝え、大きく振動させ、響かせるという「拡声効果」を高めているのです。


この木の長さは、昔は短かったのですが、現在では27センチが標準になっています。

木の幅や高さ、カーブの取り方、 それに木そのものの目方向とか材質、削り方で低音の響く効果も大きく違ってきます。

もちろん、弦の張力を板全体に分散させ、薄い響板を守るという、構造的、力学的な働きもしています。

だから、昔の張力の弱いガット弦の時代バーは、現在のものより少し短く、また細く、小さいものでした。


(この写真は、古いものの修復で、短かったバーを取り外し、現代の、標準の大きさのものにつくり替えたものに取り換えたところです。中央に置いてある、短く、色が表板とほぼ同じ色のものが、元、ついていたもの、これだけ、長さや形も違います。なお、その削る曲線の取り方などは作者の考えや主張により、微妙に異なりますが、筆者の考えはチェロの修復ページに詳細を記してあります。)

中・高音ののび 魂柱のパワー

反対の、E線の駒の脚のすぐ後ろ、6ミリほどのところに、直径6ミリの柱を1本立てます。E線側のf字孔から覗くと、細い柱が1本見えます。

これがサウンド・ポスト(魂柱)です。

この柱だけはニカワで貼らず、組み立て終わっていちばん最後、弦を張る前にf字孔の隙間からそっと突っ込み、立てます。

細く、小さな、長さ5cmほどのこの柱は、ヴァイオリン族楽器の大きな特徴のひとつ、音色の決め手になるのです。

ひとつには、表板の振動させ裏板にまで伝えよう、とする働きがあります。 もうひとつには、駒に近づければ近づけるほど、固い、少しぎすぎすしたような音になります。 後ろに、離せば離すほど、丸い、やわらかな音になりますが、声量が減衰します。

また、E線のエフ字孔にむかい外側にすればするほど高音部が強く、内側に寄せると低音が増すようになります。

突っ張りすぎて長すぎるものも、また、短かすぎて、弦をゆるめてすこしショックを与えただけで倒れてしまうようなものもよくありません。

ですから、調弦してから試し弾きを何度も、何度もし、ほんの少しずつ、前後左右に移動させ、とくに、中・高音部の微妙な響き具合や音の張り、 それに、低音部から高音部に至るバランスを徹底的に調整します。

制作者が自分がつくったヴァイオリンに対し、楽器としての「魂」を入れる瞬間といえます。 

また、この英名だと「サウンド・ポスト」という名前を、「音響柱」と直訳せず、『魂柱』と翻訳した日本人の、先人の叡智に乾杯です。

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