Motivation

製作にいたる動機

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はじめに・・・

ヴァイオリンをつくるためには、どこかの工房に入門するか、クレモナにでも行かなければと普通なら考えます。

でも、私は一冊のマニュアル本に出逢ったことと、 安い組立キットの存在を知ったことから始まりました。

ストラドを超えようなんて思わずに、練習用程度にと考えてつくれれば必ずできます。

そして、このページは私の体験から、製作方法や要点などをおもむくままに綴りました。

これは中高年だからこそできた、私のヴァイオリン製作の挑戦記録です。



1998年の春、 おりしも五十六歳の誕生日を迎えようとしていた五月のある日のこと。

注文してあったヴァイオリンの組立キットが宅配された。代金に送料、代引き手数料合わせておよそ1万6千円ほど。

ちょうど居合わせた家内が、喜々としてよろこぶ私に、「誕生日のプレゼントに・・・」といってその代金を支払ってくれた。

自分の小遣いではなく、我が家の大蔵省が出費して払ってくれたのだから、ますます嬉しい!

なにしろ当方、不況のため大幅な『小遣いのリストラ』にあっていた折りだったから、喜びもまたひとしお。

このキットは、渋谷の東急ハンズに電話注文して買ったものだが、
オーダーする前に内容の詳細については先方の担当者によく確かめ、聞いておいた。

その売場担当者の話では、『表板の材料は北米産のスプルース、裏板、側板、ネックがカナダ産のカエデ。

安いのは中国製であり、製作キット用として通常の生産ラインから外したもの』だといっていた。

普通、ヴァイオリン用の裏板には、縦方向の髄線に対し、横方向に、
フィドラーバックまたはヴァイオリン杢と呼ばれている美しい波目の縞模様が入る。

この裏板には、その木目模様がまったく入らない、普通の、スッピンのカエデなのだ。

それに、本物の指板には、通常、黒檀(エボニー)が使われるのだが、
そうではなく紫檀(ローズウッド)もどきの、ただの固い木。

それでも、ペグ(糸巻き)やテールピース(弦・止め具:)、あご当てだけは、ボックスウッド(ツゲ)のような材質。

ちょうど半年ほど前のことだったが、父の遺品の古いドイツ製のヴァイオリンに、
ペグ、テールピース、シュポアーのアクセサリー・セットを新調したばかりだった。

それは、ヒル・モデル(英国)のボックスウッド製で、部品セット代が定価で3万円ちょっと。
父の遺品であるために、思い切って奮発したものだった。

キットの部品がやや似たような材質、モデルであったため、それだけでもずいぶん得をしたような気になった。

スッピンであっても、材質だけは産地こそ違うがとりあえず本物のカエデやスプルース・・・。

削り方や組み立て方しだいで、音さえでれば孫にでも使わせたり、稽古用ぐらいにはなるだろうと考えたわけだ。

卵形のハードケースと、安物であっても一応、弓がついた半完成品でそんな価格だから、
失敗したってもこわくない安さだ。

安さの秘密は中国製であるためだが、中国製でも安けりゃいい、悪くはない。

わたしのパソコンの、この17インチ・ディスプレイも中国製だし、
HDDは韓国製、マザーボードだって当然、台湾産だ。

アンサンブル仲間の持っているビオラのヒューメ・ビアンカ(ドイツ製というブランドにはなっている)という楽器も、
実際は中国製だそうだが、よく鳴っているし、仕上げだって決して悪くはない。

そう、中国を含む漢字圏の人間は、小さいときから画数の多い字をいやというほど書かされている。

そのため指先の器用さ、丁寧さにおいては欧米人の比ではないと、私は確信している。

中国や、台湾の故宮博物館、奈良・正倉院の工芸品、宝物を見れば、その器用さの極地が証明される。

キットはおよそ二ヶ月かけて仕上げた。

しかし、その大半の時間は、いろいろな締め具や削り具(スクレーパー)など、道具類の製作にかけた。

電気アンカを改造したつくった、廃品利用の『電気ニカワ湯煎器』や、
ダイヤルゲージを使って板の厚さを計る 『キャリパー』もつくった。

私たちの世代は、子供のときから小刀をおもちゃにして、竹トンボや竹鉄砲、竹馬だってつくってきている。

小刀で、鉛筆一本すら削れない世代ではない。

だから、ひとそろいの日曜大工用具でもあれば、出来、不出来は別として、たいていの木製品はつくることができる。

でき上った白木の上に、ニスは薄くして、それぞれ15回以上も塗り重ねた。

4本のペグ、サウンド・ポスト(魂柱)も差し入れ、ブリッジ(駒)などの綿密な調整。

そして完成。

添付されていた弦は、どことなく安物そうなスチール弦だったため、ドミナントのナイロンを張った。

調弦して、はじめて鳴らす音−−−、それは初産の、赤ちゃんの産声を聞く感動に似て、これはもう、感無量!

この、半完成品のキットを完成させたこととマニュアル本のおかげで、
製作手順や、全体のおおよその要点をつかむことができた。

キツトのヴァイオリンが、それなりの音で鳴ってくれたこと、道具類や工具、製作場所も徐々に整っていったこと、
また、専門の輸入材料など、入手経路も確保でき、わたしはすっかり『音づくり』に魅せられ、はまっていった。

[ 美しいフォルム、妙なる音色 ]

私は、その形にしても、音にしても、まるで青い鳥を探すチルチルミチルのような、『美』への探訪者になっていった。

以来、昨年の暮れまでに、孫のためにつくったグァルネリ・タイプの1/4スケールが1台、
やや小型のビオラ(397mm)が1台。

それに、旧友が持ち込んだ古い戦前の壊れかけた国産・量産品ヴァイオリン、
それをばらして完全リメイクしたものが1台。

などなど・・、それらを含め、いままで10台以上を手がけ、完成させてきた。

ある音楽関係の本に、『つまらない財産を残すより、良い音のヴァイオリンを1台遺した方がいい』と書いてあった。

私は、幸か不幸か財産を残すような才覚には恵まれなかった。

そのかわりにものをつくる喜びや、音にしろ、形にしろ、美しいものを美しいと認知する心、
それに、ほんの少々の器用さと、目標に向かって、ひたすら努力する根性だけは引き継いでいた。

『やればできるかもしれないが、難しい』と考えるか、『難しいかもしれないが、やればできる』と思うか。

同じ様な表現でも、前者は否定だが、後者は肯定になる。

私はつねづね『できる』ことにかけて、 チャレンジしたいと考え、実行してきた。

自分自身のため、ひいては3人の子供、5人の孫たち、
そして、これから何人できるか分からない将来の曾孫たちのために、

少しでもいい音のヴァイオリンを遺してやりたい。

それは、不本意にして戦死した父から、私がいい音のヴァイオリンを遺してもらったように・・・・。

父の遺品の、古いドイツ製ヴァイオリン  2000年 5月 ページ公開を機に記す。

父の遺品のひとつ

以来、ヴァイオリンは十台以上、ヴィオラがもう一台、新しくつくったり、2011年にはチェロも完成。
趣味家としての弦楽器製作者であっても、 とりあえずヴァイオリン族のカルテット(弦楽四重奏の楽器)、
その全部を、一応、完成させたことになり、そうした意味では自己満足している。(Dec.2011)


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