Remaking 3-4
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いままでも別のページで書いてきましたが、最後のフィッティングはもっとも重要な作業になります。
ペグやテールピース、それにあご当てなどは使いやすいように付ければいいのですが、
とりわけ、駒や魂柱は音に大変影響を及ぼすものとなります。
ここでは、とくに、その駒と魂柱、それに仕上がり結果について書きます。
V-4 ◇ 駒の調整・厚さ
◇ 駒の調整・脚
◇ 駒の調整・肉そぎ
◇ 魂柱
◇ 出来上がり
◇ 音は・・・?
   ◇ 駒の調整・厚さ   

写真、いちばん左側のものが元からついていたもの。右は、フランス製・Aubertの未加工品。
中央が、この楽器に合わせて削りつくったもの。指板の角度を、ほぼ現代調に調整しましたから、
元のものより、背がやや高くなっています。
未加工品の、左右に空いた丸い穴、また、足そのものや、真っ直ぐになっている両脚の間など、削るのです。

駒は、それぞれの制作者がおのおののポリシーをもって削っていますが、まず、厚さに対して記述します。
元のものは、およそ40年以上も昔のことですから、平均して薄くなっています。
それは、裸のガット弦以外はスチール弦を使っていたため、弦が平均して細く、したがって弦そのものの質量もかるいものでした。
 ですから、この程度の駒で十分だったといえます。
ところが、近年の弦はガットといえどもアルミなどの金属巻き弦が主流となり、太くなってきています。
そのため、太い弦の振動を的確に伝えるために、駒も少し厚くなりました。

未加工のものは、おおむね5mm以上の厚さがありますから、
まず、厚さを4mmほどに薄く削ります。
薄く削る方法は、よく切れる小型のカンナでもいいでしょうが、 うっかりすると細かな細工部分を欠いてしまうこともありますから、要注意です。
安全な方法としては、板に貼り付けた100、200番程度のペーパーで平均してこするのが無難でしょう。
   ◇ 駒の調整・脚   

楽器のアーチは、作り手によってそれぞれ違いますから、 脚の裏側はその曲線にぴったりあうように削ります。

上の写真でお分かりになると思いますが、未加工のものは、まるでドタ靴を履いたような図太い足になっています。

それを、パンプスでも履いたように、足もスマートに、薄くなるように削ります。 重たい足では、的確に響板と密着していたとしても、その重い分だけがエネルギーのロスとなり、とくに振幅の小さな高音域が減衰してしまいます。

足を削る方法としては、鉛筆を使って表板の曲線と平行させて描き、その線にしたがって削る方法がひとつ。
愛用している駒関係・ツール ドイツ製のブリッジ ジャック という駒・ツール
足を切るときには、あらかじめ平彫刻刀でだいたいのところまで切り落としておき、
リペアー・ナイフかデザインナイフで、 ときどき曲線に合わせながら少しずつ削っていきます。

上の写真・左は、筆者が愛用している駒削りツールです。

左上は、駒の標準的なカーブゲージ、透明のプラスチックでつくってありますから、
その曲線がはっきり写真で分かるように、上の部分だけにマジックで黒く塗って写しました。

道具の、右から2本が、丸と三角の細い鉄工ヤスリ、
黄色い柄のものがデザイン・ナイフ、平と三角の彫刻刀、それとリペアー・ナイフです。

丸ヤスリは細い穴の肉そぎに、三角のものは弦の溝彫りなどに使います。

また、市販品の駒ツールとしては「ブリッジ ジャック」 という、ドイツ製で、
駒を外しても弦をそのまま張った状態にしておけるツールもあります。(上の写真・右)

これは、弦を全部ゆるめてしまうと魂柱が倒れてしまうほど、
魂柱がゆるんでいる方とか、微妙な高さ調整などに便利です。

弦の高さは上のネジで調整しますので、どんな楽器にも対応できて、
駒を外したり差し込んだりすることが非常に簡単です。

もうひとつ、初心者向けの方法として、ストップの位置におよそ6センチ角ほどの
粘着式のペーパーを貼り付け、そこに脚の裏をこすりつけて曲線に合わせて削る方法もあります。(下の写真・左)
粘着式のペーパーを軽く貼り付けてこする 駒をネジでハサミつけ、表板の上を転がすようにしてペーハーにこするフィッティング・ツール
ただしこの方法は、よほどしっかり垂直に立てたままでこすらないといけません。
グラグラさせてこすると、足の裏が平らにならず、丸みおびてしまいます。
もし、丸みおびてしまったら、その個所を少し舐めて木をやわらかくしておき、
カッターナイフの刃をスクレーパーがわりにしてこすることで、平らにすることができます。

写真・右がこれ専用の工具で、インターネットのオークションなどでも市販されていますが、
慣れると手加工でも楽にできるようになります。
 ◇ 駒の調整・肉そぎ 

上述したように、駒は重すぎても、また、薄過ぎても軽すぎても的確な振動は伝えられません。

そこで、厚さ、高さ、形が決まったら、最後は余分な肉をそぎ落としてやります。

さりとて、音の振動が伝わる通路にあたるところ(左右の穴と中央のハート型の中間部分)は、そのまま残しておきます。

リペアーナイフで削りますが、細い木工用の平丸や丸ヤスリでも楽に削ることができます。

未加工のものと削り上げたものとを比べると、どれほど削ったかよく分かると思います。

左右の穴も、ハートの穴も大きくなっていますよね。このようにして肉そぎします。
 ◇ 魂 柱 
写真のいちばん上、サウンドポスト・キャリパー(魂柱の長さを調べる工具)のすぐ下においてある茶色の棒が、本器の外した魂柱。

直径5.5mmと、現在の6.0mmから比べると、やや細め。

その下の白っぽい棒が、スプルス材の端材で筆者自身がつくった直径6.0mmの魂柱。
既存品より、板を少し削った分、ほんの0.5mmほど長目にカットして納めました。

魂柱材料の下が、中に転がった魂柱を拾い出す取出棒サウンドポスト・セッターです。
 ◇ 出来上がり 

駒が削れたり、ペグも調整し終わり、テールピースとあご当てを付ければ、あとは弦を張って仕上がりです。
ニスの色もやや赤みを加え、明るい色にしましたし 、気になっていた穴もコクソの補填で、分からなくなるほどに埋まりました。
スクロールのいびつだったところなど、丁寧に削りなおしましたことと、
面をとって彫りを深く見えるようにしたことで、ずいぶんスマートですっきりしたと思います。

ペグには貝の象嵌があるものがついていましたから、それの露出する部分だけに同系色のニスを一度塗り、そのまま使いました。
あご当てとテールピースには、黒檀のヒル・モデルを使いました。
当初は、同じモデルのローズウッドにしようと考えていましたが、古いものの格調の高さをかんがみ、ここは黒檀としました。


すっかり完成した表側と裏側です。
 ◇ 音は・・・? 
いつの場合でもそうですが、いろいろと想像しながら制作に励んでいるのですが、
やはり、いちばん気になるのが仕上げたときの音の出来映えです。

では、本器の出来映えは?

残念というか、実にくやしいのですが、自分で新作としてつくったもの以上に、よく響いてくれました。

それは、木そのものが古くて枯れていることと、それに、自分自身の技術も、
自分がつくったとき以上に少しずつは向上しているためではないかと思います。

ともかく、気にしていた低音部分も、手を入れる以前よりずっと向上してよく鳴りますし、高音の響きも悪くはありません。

というわけで、昨日の日曜日(4/25)には、2、3時間、左の鎖骨にアザができるほど、気持ちがよくて弾きまくっていました。

最後に、この一連のレポートを、本器をわたしの手にたずさえてくださった神奈川のI..Kさんに、心より献呈したいと思います。

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