オーナーさんには、当初、メールで「裏板を外して板厚の調整をする」と書きましたが、
バスバーを取り替えなければならないことや、思いの外、楽にネックを外すことができましたから、ここでは表板を外すことにしました。
外してみると、ニスはいっぱい垂れているし、削りのノミ痕もそこかしこ残っているし、実におおざっぱな削りでした。
しかしながら、この表板は非常に晩材(年輪)が発達した、しっかりした板であることが分かりました。
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ご覧のように、ビシャビシャの刷毛で色ニスを塗ったものでしょう。
しかも、そっとなでるように塗ればこのようなことはありませんが、
場所をわきまえず、刷毛をこすりつけるような、しごくような刷毛さばきで塗ったものでしょう、
すっかりエフ字孔から入り込み、裏側にもこのようにいっぱい垂れていました。
しかも、削りが荒いのです。
本来なら、ブロックギリギリまで削るべきだと思っていますが、ずいぶん削り残していました。
それに、スクレーパーを使って削ったような形跡がなく、ノミとカンナだけで仕上げた物のようで、
ボクなんかは信じられないほどノミ痕が痛ましいほどでした。 |
◇ 特殊なバスバーのこと
驚くべきことに、本機のバスバーは通常とは違い、表板本体からの一刀彫だったのです。
つまり、あとから貼ったものではなく、表板と一体になっているのです。
これを、半丸反りカンナで平らに削り、新しくつけることはそれほどたいへんな作業ではありませんが、
これは、バー全体を成形し直しするものの、そのままおくつもりです。
なぜなら、この方法はいままでどんな資料からも、見たことも聞いたこともないものです。
でも、理屈で考えても「響板である表板と一体のバー」というのは魅力です。
それに、この表板は晩材(固い年輪のこと)がよく発達した素材ということもあります。
通常、そんなことをして削るのは非効率的だから、後から貼っているのです。
「年輪がつながっている」ということは、結果として「振動の伝達効率がいい」といえます。
ニカワいう別素材が中間にあるより、きわめて直接的だからです。 |
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この写真なら、年輪がつながっているのがお分かりいただけると思いますが・・・。
さて、ドイツ語で、「ハーゼ」という言葉があります。これは、「蝶が舞う」という意味だとか?
ときおり木の育ちや生まれで、年輪が真っ直ぐではなく、
クチュッと、途中で捻れたような(あるいは急激に曲がっている)部分が出てしまうことがあります。
でも、マニアックな人は、それでさえ、その部分が固いわけですから
『天然のバーだ』といって、珍重するぐらいなのです。
そうしたこともふまえ、これはやや短いものではありますが、あえて取り替えない方がいいと確信しています。
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◇ バーの長さと弦の圧力に対する抗力と、表板の板厚
いちばん手前のものが、現代の標準のバー、長さが27cm。
つぎが、
ヨーロッパ製の古いものから取り外したもので、本器のものとほぼ同じ長さ。
なお、この写真の段階では、内側を少し削ってあります。
というのは、やはり垂れたニスは嫌いだし、三枚上の写真に説明を書きましたが、ブロックの付け根まで削れていないのです。
これは、できるだけ内容積を大きくすることで、ヴァイオリンよりヴィオラ、
ヴィオラよりチェロというように、低音域の特性がよくするためのつもりです。
削ることに関しては、当然、板厚のチェックはしています。
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下部の周辺部で、ノミの彫り痕のいちばん深い(板厚のいちばん薄い)部分で計っても3.54mmを指しています。
周辺部でも、厚いところは5〜6mmあったところもあったほどでした。
ちょっと、ピントが悪かったり、数値がはっきり見えませんが、ごめんなさい!
本来、この周辺部の部分は2.5mm程度にしないと、低音の振動によくありません。
この、いちばん薄いところでも、あと、少なくとも1mmは薄くしますが、このことについての詳細は後述します。
ということで、もともと、低音の振動を駒から受け、それを表板全域に伝える、という役割をもったバス・バーですが、
相対的な見地から、この一体化したバーをそのままにしても、周辺部の板厚調整により、低音域を十分なものにする可能性が増します。
また、このアーチにしてこの晩材をもった素材であり、
なおかつ、これで160年耐え続けてきた実績を持っていることは事実。
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◇ アーチングの修整
いままで、二度にわたって、ボクと同様な稚拙なアーチだと評価してきました。
とくに表板が顕著で、上の写真で1mm薄くしたいのだが、まだ、内側は削ってはいません。
表板に関しては、とりわけ指版の下あたりが、急にもりあがり、下部も急激に下っているのです。
その辺を、1mmなだらかにするだけで、かなりやわらかな表情になるはずです。
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裏板にも、チャンネル彫り(パフリングの出っ張りを削りながら少し溝をつけること)の刃物の切れがよくなくて、
ささくれたところが残っています。
これは、あとからついたものではなく、オリジナルのキズです。
ということは、おでこがでっぱっているようなアーチングを修整しながら、結局、
当初の予定にはなかった表面のニスまで全部剥がし、塗り替えることをMさんにご理解いただいた次第です。
部分レタッチでは、冒頭の、剥がした指版の下のようになり(最初の写真2枚)、それではいけませんからね。
それは、「最上級の部品」を使って欲しいといわれたものを、「上級品」や「普通品」に落とした差額で補えるものだとお考えいだき、
さらに、いくら手をかけても、決して当初の予算を超えることのないよう約束しました。
そのことはメールで丁寧に説明し、セットアップ部品のような「後から、いつでもでもできるもの」と、
今回のような、「この機会でなければできないこと」でもあるからです。
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ここで、参考のつもりで使っているアーチング・ゲージは、標準的なストラド型のものです。
今、当てている方が表板(Top)側、上が裏板(Back)側の削り出しに使うものです。
ご覧のように、上下(写真では左右)からゆるやかに盛り上がり、駒のあたりがいちばん高くなるようにつくられのが普通です。
ところが現物は、左右から急に盛り上がり、中間がほぼ水平になっているアーチでした。 |
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その、「おでこ出っ張り」と「垂れた尻」部分を中心にして、できるだけきれいなアーチになるように削りました。
とはいっても、当然、裏側から削る「標準的な表板の板厚」を保持しなければなりませんから、
まず、前述したいちばん薄い3.5mmのところが2.5mmになるまで表側から削り、それから裏側を仕上げていきます。
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分厚いところだけは、いちばん小さな豆カンナを使ったけど、ほとんどスクレーパーで削りました。
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