Old_Italian_Violin3
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古いイタリア製のリペアー V  Dec.12. 2007 HOME

◇ 表板の接着
表板を貼る前に、着色を・・・
◇ ネックの接合 演奏の操作上も、音響的にも重要な場面。
◇ ネックのニス ネックのニスも変化を・・・。
◇ ニスの塗り重ね 薄く何度も塗り重ねる。
◇ 完成まで いよいよ完成に向けて。
◇ その他。弓の曲がり修復や毛替え等 曲がった弓の修整など。
◇ 色、いろいろ・・・ 筆者の着色ポリシー

◇ 表板の接着

表板をニカワで貼るわけですが、ニカワが少しでもついていると、 そこにはニスがのらず、色むらになるのが嫌で、ボクはよくこの段階で目止めがわりにアルコール系の着色ニスを薄く塗っておきます。

でも、リブやネックの元の色に合わせたアンバー系の色です。

◇ ネックのニス

上が元のままの状態、ただ、全体にくすんだブラウン系のニスを塗ってあるだけです。

下は、元の上に、薄くアルコール系の着色ニス「レッド・ブラウン」を一度のせ、さらに、出っ張っている角のニスを削り落として面を出しました。

これは、よくイタリア系の作者が使うテクで、ずっと立体感がでます。
また、ボディの周囲も、これと同様の仕上げにするつもりでいます。

現在、角の木地が白く出ていますが、ここには薄いイエロー系統の色をつけ、
あとから全体をオイルニスで仕上げます。

これから、何度も、何度も薄いニスを乗せますが、その都度、この面の部分は綿棒のようなものに溶剤をつけ、この角は拭き取ります。

手間はかかりますが、断然、彫りの深い表情の塗りになります。

美人の化粧でいうと、鼻を高く見せたいときや、ほほをふっくらみせたいときなどに、白っぽいファンデーションをぼかして塗るようなものと同じです。

少し赤みが出ただけでも、華やかな雰囲気になり、違って見えるでしょ。

◇ ネックの接合
表板を、しっかりと側板に貼ったし、 側板と表板や裏板は接合面が少なく(小さく)、外側からも内側からも乾くので、 一晩で、十分、実用強度に達します。

クランプを外し、つぎはネックの取り付けですが、この段階までに、ボディには目止めのほか二度、カラーニスを塗り、ペーパー掛けしています。
ですから、表板の輪郭が、美人のマスカラやアイシャドウのように、シャープに見えるでしょ。

とりわけ、面板のニスは、晩材の発達している木目を活かしながら、古さを出すような塗り方に・・・を目標にしています。

その後、薄くしたオイル・ニスを何度か塗り重ねています。


前に説明したとおり、ニカワの接着は、接合面はきれいでなければなりません。

そこで、ニカワくずを取り去ってあったネックを、ホゾ穴にしっかりはめ込んでみると、 なんと、やはり0.5mmほど、いい加減な付け方だったことが分かりました。

溶けないニカワ粒でもあったのか? 信じられません。だから、指版も下がったのでしょう。

いっぱい差し込んだ状態で、ご覧のように、ネックより、裏板のボタン部分(半円のところ)が、少し出っ張っちゃっています。
(受け口状態といったらいいか、デベソになっているといった方がいいか・・・・。)




まさか、このまま貼るわけにはいきませんから、ネックと 同じカエデ材で、ごく薄い経木をつくり、それをパッキンにすることにしました。

平行して、指版やサドル、ナットもも削ってつくっておきます。

指板の取り付けは、ただ接着すればいいというわけではなく、指版とともにネックの角度も調節します。

もちろん、駒に対する高さに対する角度と、中心線とは真っ直ぐであるべきですから、その両方をここではチェックしますが、指板はまだ仮の固定です。

指版の先に、ヘンな木片をおいてありますが、これは、ボクが指版を貼る際にずっと前から使っている立派なツール。
指版を、所定の高さに安定させるためのものです。

というのは、上からクランプで強く押しつけますから、そのままでは、その圧力でちょっと下がり気味になってしまうこともあるからです。

ニカワついでに、サドルも現状のものが形がイマイチでしたから、新たに削り、同時に貼っています。

◇ ニスの塗り重ね

ニスにしても、ベースは既存の色ですが、多少、変化をつけたいと思っています。

この段階では、まだ、リブとネック部分はほとんど触っていません。
(当初より、ネック部分は触る必要なしと判断していました。)

それと、リブもほぼそのままです。(アルコールで、汚れをかなりしっかりと落とした程度。)

現状のニス色がよくないのと、ボクの目からは、ただ、塗りっぱなしという状態でしたから、とくに、古いものだけに『格調高く』、『彫りの深い表情にする』ということを念頭に置いてすすめました。

おおむね、現在、Mさんが愛用されているドイツ製のものに、色味としては近い感じがいいとも思いますが、地の色が色ですから、もう少し重く、古っぽい感じにしようと思います。

表板は、晩材を引き立たせるようにしながら、エッジと中央部、それに右上(左手が触るところ)を少し明るい目になるようにしています。

裏板も同様、パフリングの内側から、アーチの昇りにかけてぼかすようにして、彫りの深さを強調するようにしています。

◇ こまかな調整



当初、エンドピンのセンターが右に何ミリかずれていましたが・・・、

新しい、太めのエンドビンを使い、丁寧に、丸棒ヤスリで穴の左側だけを削り、
なんとかセンターに納めることができました。
◇ 完成


ペグ、エンドピン、テールピース、スポアーはセットのローズウッド。


◇ その他。弓の曲がり修復や毛替え等
◇ 弓

弓は、よくよく見るとなかなかいい弓でした。 昔から、細い弓はいい弓だ、なんてことが言われていますが、それだけ細くても、しっかりしたバネがあるということになるのでしょう。

スティックには、銀銅線のいいものを巻きました。( いいもの = 細い = きれいに巻くのが面倒! )
皮も新しいものをはりました。。 

なお、既存のフロッグの端には割れ目があり、 いちばん張るような状態にネジを締めると、そのワレが広がるのです。

それは、スライド部分の金属片がなかったこと、それに、固い黒檀は割れやすい、などが原因でしょう。 ですから、古いし、汚いので、フロッグも交換しました。

スティックの先端が左の方向にカーブしていましたから、修整しました。
なお、持っているのはフェルナンプーコ・弓用の原木。

◇ 色、いろいろ・・・

ボクの場合は、今まで書いてきたように「その楽器の来歴」や、できるだけ使われている「素材」を活かしたり、
自分が考える「ベター」や「ベスト」の方向にやっていくことがポリシーといえるでしょうか。

大手メーカーでは、「シェィディング」と称してオールド風なニス仕上げがあるとか。
もともと、「シェィディング」にしても、絵画的な言葉として「描影法」とか「明暗法」という意味になるでしょう。

この楽器に対しても、ボクは、アンバー、ブラウン、レッド・ブラウン、ダーク・ブラウンなど、それを単体、
もしくはほどよくブレンドして塗りました。

同じ絵画の言葉に「マチエール」という言葉かありますが、これは、いろいろな色を塗り重ねることによる、
色の変化の面白さ、筆はこびや塗り具合のことをいいます。

ときには、いったん塗ったものをパレット・ナイフで削り落とし、残った部分に、さらに別の色を塗り重ねていく。
例えば、その際使用する絵の具を全部、パレット上に出し、よく混ぜて塗った場合、それはそれで、規定の色にない、
独特の色を出すことができます。でも、それではあくまで単色。

そうしないで塗り重ねたり、削ったりして塗り重ねることで、それ以上の、思った以上に深みのある色や、
予期せぬ変化に富んだ色にもなるのです。

それは、「マチエール」のほか「グラデーション」と呼ばれていて、単一の色ではとても出せない濃淡や、面白い変化が出せるのです。
これは、絵画では印象派以降のことで、白い色や白い光も、プリズムで分光すると7色になるという根拠から生まれたものです。
その代表が、後期印象派の点描法です。筆使いを点としてしか描かず、すべていろいろな色の点で描いているのです。

テレビのブラウン管をルーペで見たことがあるでしょうか。遠くから見たら白いところにも、青や赤、黄色も入っているのです。
光(加色法=いろいろな色を加えていくと白くなる)や、
絵の具(減色法=いろいろな色を加えていくと黒くなる)の違いはあっても、基本的な考えは同じです。

そのように、ボクの場合のニス仕上げは、自分の体験的な「絵画的な塗装仕上げ・・」とでもいいましょうか、
塗り重ねることがベターだと考えているのです。。


07.12.12up

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