cello repairing 4-2
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首が折れたチェロの修復 Part U-2 Sep. 2008

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とまぁ、自信をもってお送りしたのでしたが、先方からただならぬメール。件名が、「届きました☆でも・・・」とあり、
本文は、「ところが、直して頂いた部分が・・・割れてしまっていますどうしましょう・・・もう一度お送りして良いですか
写真、貼付しましたので見て下さい・・・宜しくお願いいたします」と書かれていました。

これは、いままでわたしの修復歴にない不祥事?です。
ただ、お送りした際のこちらからのメールには、今後、なにかありましたら遠慮なく・・・と
書き添えてありましたから、早速、送返していただき、再び、接ぎ直しさせていただくことになりました。
お子さんの使用ということで、駒を立て、弦を張った状態で、しかもソフトケース。

宅配のお兄ちゃんが飛び出してきた猫に急ブレーキでもかけたのでしょうか?
その、張った弦の上に、何か重い荷物でも落ちたりしたら・・・?
重力の加速度と共に、何倍かの加重がかかったのかも知れません。
一方で、集配所の荷物置き場に西日が当たり、
ケースごと温室効果になって中がむれてしまい、ニカワがゆるんでしまったためか?
あるいは、自分の接着に、何らかの根本的な問題があったのが原因か?
ともかく、剥がれてしまったことは事実です。

   ◇ 予期せぬ出来事   
お送りいただいた写真には、ご覧のように、ばっかりと継ぎ目が空いていたのです。

入れてあった6mmのダボは、小型のノコでカットし、バチ・バールという表具用の特殊なバールで、割れ目にキズをつけないように注意深く外しました。

穴に残ったダボは、小さな直径のドリルビットと彫刻刀の半丸を使い、徐々に大きくしていき、ともかく一旦は穴を元通りの大きさまできれいにしました。

それから、私のもっているドリルビットで、大きいものから7mmのものを選び、穴空け再開。

ダボも、極力、接着の相性がいいように、今度は竹ではなくカエデ材を使い、角材から削りだしてつくりました。(蓋の上のもの)

ニカワでは、蒸れや熱による同様の恐れも考えられるので、ここではエポキシ系・30分タイプの接着剤にしました。(下記に注釈)

このタイプの接着剤は、メーカーの仕様書では実用強度が1時間と、早いのが利点といえば利点です。



ただし、エポキシ樹脂の接着剤には「弾性タイプ」というものがあり、これは割れたタイルの接着のような場合には 多少のクッション効果があっていいでしょうが、ここでは、がっちり、しっかり貼りたいところ、通常の「硬化型」を選ばなくてはなりません。

ホームセンターには、オープンタイム(乾燥時間)も、速乾性の1分から、各種いろいろと用意されていますが、当然、作業手順を考えて選ぶ必要があります。 冬場の室温では、その時間も大きく変化しますから、よく注意書きをお読みになってお使い下さい。

また、この接着剤は、当初、スイスのチバ社が開発したもので、エポキシ変性樹脂「アラルダイト」という商品名で売られていたものです。
たった1平方センチの接着面積で、当時のスバル360の軽四輪をクレーンで持ち上げるCMが流されたことを、ご記憶している諸兄も多いと思いますが、最強の接着剤として有名なものでした。
それに、その真偽のほどは分かりませんが、例えば、貨物船の、船のプロペラ・シャフトを接合しても、十分耐えるということもいわれていたほどの接着剤だったのです。
若いとき、わたしは一時期ラジコン飛行機にはまっていた時代もあり、エンジンの取り付け部分や、強度が要求される場所には、このタイプの接着剤は、昔からよく使っていたという経緯もあります。

ニカワについても、熱と水分で溶けるという欠点はあっても、それが逆に修理が可能という利点でもあり、それなりの強度があることは、十分、承知した上での今回の選択でした。
とき前後して、私の先生からの依頼で、「折れた弓」の修理にも、接着面積が少ない分、竹串のダボとこの接着剤を用いてつなぎました。


スティックのいちばん細い部分だけに、ダボ穴を空ける際には特殊なお手製の治具で固定し、
穴の位置が左右の中心であり、真っ直ぐに空けることが肝要になります。
(マクロで写したのですが、ピントが悪くてゴメンなさい。)

◇ ダボ・強度の再検証

こうした事態になったため、ダボを8mmにした方が丈夫になるだろうと考えていましたが、穴の深さと、ネックがボタン方向に行くにしたがって細くなっていくので、そちらで弱くなることを考慮し、結局、穴は7mm、長さを65mmにすることで落ち着きました。
前ページのような、単純な接着面積だけの計算でも、7 × 3.14 × 65mm (の長さ) = 1,428平方ミリ × 2本ですから、何もせずに接着することを考えると、これで、およそ3倍の接着面積になります。

さて、完成してお送りする際、宅配便だと、またということも考えられますから、神奈川のお宅まで持ち込むことも考え、メールしましたが、丁度、敬老の日の連休。お子さんに工房を見せたいから取りに来るということに・・・なりました。
お引き渡しする際、また、もし何かでまた剥がれるようなことになったら、今度は、所詮、塗り物の指板。 指板側から穴をあけ、ダボの左右から長目の木ビスで固定する方法もあることを示唆し、安心していただくことになりました。塗り物の指板を外すのは割れやすくて非常に危険だし、作業もたいへんです。 むしろ、穴を空けても、それこそ、ダボで埋めるとか、
コクソで埋めて塗り直せばほとんど分からなくなります。

最後に、私も修理のいい勉強をさせていただいたことになりますが、チェロの先生の紹介で、その種のところに相談に行かれたそうですが、「新しく買った方がいい」と、体よく断られた経緯があったことも話していただきました。ですから、この楽器でレッスンを受け、間近に発表会があるというとき、「できれば使い慣れた楽器で」というお子さんご自身や、ご父兄にはたいへん喜んでいただいたことを付記しておきます。



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