cello_repair6-1 側板が割れてしまったチェロの修復 1.  Oct. 09 HOME

側板が輸送中に割れてしまったが、どこも修理を受けてくれないので・・・、という神奈川の、Tさんからの依頼。

  ◇ 側板の割れ・その現状   
「側板の割れ」といっても、どのあたりが、どの程度割れているのか、メールに写真を添付していただいたものが次の写真。

コーナーからローア・バウツにかけて、ご覧のような変則の割れ。


しかも、以前にも一度、割れたことがあり、その修復痕が残っていたり、表板のエッジの出にもムラが見えている。 その後の打ち合わせで、その修復痕も割れた延長線がさらに進んでいることが分かった。
その他のこととして、エンドピンがガタついていることと、少し斜めに傾いてしまっていること。 その原因は、ピンのソケットがボディにしっかりと入っていないからだろうし、斜めになっていてぴったりと納まっていないことが分かる。
   ◇ 割れた部分の接着   
表板の、かつての修復の際に不手際があったせいか、表板のエッジの出にバラツキがあったことで、まず、表板を半分ほど剥がし、側板の割れた部分を丁寧に接合。

側板と、いったん剥がした表板の間には、パツキンとしてベニヤを一枚、半円にくり抜き差し込んでいます。

そして、上下から軽くクランプして側板の割れを圧着。

左右にヘラを差していますが、今回は、そこまで剥がしてあります。

   ◇ 接合部分の裏側からはパッチを貼って補強   
半分、剥がしたとはいっても、手が入るほどの隙間は空きません。

でも、要はニカワを塗ったパッチを、所定の位置に、的確にもっていき、軽く圧着できればいいのですから、ここは、エンドピンの穴から特殊にツールをつくり、その治具で対処することにしました。

そこで、ホームセンターで市販されている鉄のバーから、曲げたり、削ってつくったのです。

また、以前、表板の割れを修復した際の、ずれた接着も気になるところなので、その接合部分にペーパーをかけてならしました。

鉄のバーですから、それぞれの角は鉄工ヤスリですっかり面を取り、エフ字孔の周囲に触れそうな部分には、ビニル製の絶縁テープを巻いて養生しました。

先端部分だけを少し大きめにし、それに両面粘着テープを巻き付け、パッチを仮付けし、差し込むようにします。

なお、両面テープはそれほど強固なものは要りませんから、ここでは粘着(質)面の薄い事務用のものがいいでしょう。
カーペット用とか、ガラス接着用のものでは強すぎるかも知れません。

また、粘着力を弱めるために、何度か手で触り、すこし汚して接着力を弱めておきます。

つまり、パッチをその位置まで運び、貼ったら楽に剥がすことができることが肝要だからです。

必要なパッチは、あらかじめカットし、しかも、裏側からそっとあてるだけですから、ベンデイング・アイロンで所定の曲線に曲げておく必要があります。
一カ所ずつ、その位置に正しい角度で押しつけることができるかどうか、バーの角度を曲げて変えるために、エンドピンの穴の位置から、このようにして具合をチェック。
それと同時に、裏側からもニカワを塗りたいので、これには絵筆の柄をのばして対処しました。

軽く圧着するだけですから、貼る方、貼られる方、両面にしっかりとニカワを塗布するためです。
左の写真は、上からヴァイオリン用の手製インスペクション・ミラー、サウンドポスト・セッター、それに小型の懐中電灯ですが、ボディがおおきなチェロでは、これでは使い勝手がよくありません。
ミラーも、柄を長く、面積も少し大きいものを新しくつくり、これなら、両眼でポイント地点を立体的に視ることができますから、作業もずっとしやすくなります。

また、今回は、ついでに豆ランプを使った内部照明と、LEDを2個パラ接続したライトをつくり、夜でも、広い体積のチェロの内部も、よく見やすいようにしました。

上が最大直径が7mmの豆ビーム球、下が発光ダイオードを二つつないだもの。
ビニル・コードは、ほどよい太さのAC100V用の被膜コードを二つに裂き、不用な電線を抜き出し、その中に、アルミの針金(園芸用)と一緒に接続コードをおさめ、これも、グレーの絶縁粘着テープを巻いて仕上げたもの。

アルミの針金を入れることで、任意の曲線に、自由に曲げることができます。


この後、むき出しになっているLEDの接続コードも、ビニル・コードにおさめてあります。
さて、以上のような内部をよく見るための治具ができましたから、あとは、正確な位置に、それぞれのパッチをミラーで確認しながらあてがい接着。
ご覧のように、バーの根元には所定の重りをぶら下げて軽く圧をかけて、そのままで一昼夜、ニカワが乾くまでそっとしておきます。

表板にも、何カ所か修復痕とがあり、その接ぎ目にしても決してきれいなものではありません。

それらも、ペーパーでならしたり、部分的にはコクソで埋めたりもしました。
念のため、差し込んだバーには、マジック・インクでエンドピンホールの縁の位置に印をつけておきました。
それも、差し込む深さを、間違いない深さであることが簡単に確かめられますから、ずっと作業しやすいようにした工夫のひとつです。

重りには、上の、ライトの製作時に使った半田ゴテと、小型の懐中電灯。「近くのものは親でも使え」、です。
裏板とエンドブロックの接合に、ニカワが汚く吹き出しているようになっていました。あるいは、何かの理由で隙間が空いてしまい、それをゴテゴテとニカワで埋めたという感じ。
これもきれいに取り、隙間はしっかりとコクソで埋めて仕上げました。
このチェロ、なぜか側板の一部がバーズアイ・メイプル、製作者の気まぐれか? あるいは、その部分だけを修理で取り換えた際のものか?
最初は気がつかなかったのですが・・・、なんとも不思議?

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