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文字通り「総身創痍」のチェロの修復 U HOME
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裏板の板厚チェック オーナーのS氏とのメールのやりとりで、「全体が、重く感じている」と伺っていたので、 剥がした裏板の板厚をチェックしました。
案の定、裏板の全体が分厚い。
 
とくに中央部は9.9mm(標準ではおよそ7mm)もあり、周辺部は4mm強(標準はおよそ4mm)であったが、その薄い部分の幅が狭く、 使われているカエデ材の質も、古い上にやや固めだったりしたので、
もう少し、広い範囲が薄くていいのではないかと判断して削った。
この写真では、ただいまはダイヤルゲージが一周まわり、 つまり、10mm以上の厚さを表示しているのですが、これは、撮影のため、手を放して台の上に乗せたので、水平ではないためです。実際には、その場所は9.9mmでした。

さて、裏板の板厚に関してはオーナー氏と相談して、すべて、まかせていただくことになり、裏板も調整しました。
とくに、周辺部の4〜5mmだったのを4mmに、中央部は7mmに。
そして、なぜか裏板なのに表板の材であるスプルースの、分厚い切片のパッチが貼られていました。(キャリパーのすぐ下のもの。)

これは、多分、製作者のやった仕事、斜め上の、「割れ」の修復に貼ってあるパッチはカエデ材の薄いもので、こちらは、後のリペアー師の割れの修復の際に貼った仕事。
裏板の板厚チェック
795gありました。
当初、裏板全体で795gだったものを・・・、
744gまでダイエット
削った結果で744g、ほぼ50gほど、ダイエット。
中央の接ぎ目6カ所に、比較的、分厚いスプルースのパッチが貼ってあったが、削りついでに全部を剥がし(写真の現状)、その後、カエデ材でほどよい大きさでつくり直して貼りました。 大きなパッチも剥がし、小さく、薄いものに・・・、
剥がれているパッチ ともかく分厚く大きめのパッチは接着も不安定だったし、全部を剥がしまた、オーナーのSさんには、爪楊枝にたとえて説明。
つまり、パッチの目的は、ふたたび割れて開こうとする、左右に「引っ張る」力に対抗させるために貼るわけです。
例えば爪楊枝一本だけでも、平らな力で、左右に引っ張ったとすると、相当、大きな力を与えない限り、引きちぎれるものではありません。
ただし、爪楊枝やマッチ棒だときわめて細いので、折り曲げようとすると、すぐにポキッと折れてしまいます。

また、少しでもひねるようにした場合でも同じで、細い分、捻れや、剪断力は弱いのです。
つまり、木材は、単純な引っ張り力にはとても強いのです。

それは、古来から日本建築では吊り天井などの、ノブチ組を吊るのに、 カワラ桟程度の細い部材で、十分、天井を吊っているわけです。
また、木材は、圧縮力にも強いので、土台や柱にも使われています。

割れ目を、外側からよく見ると分かるのだが、当て木が大きすぎて、 必要な箇所に、パーツのそれぞれの部分が密着していないのです。

すき間を埋めるためにパテで埋めてありますが、それでは焼け石に水、実際の、パッチとしての効果は期待できるものではありません。
それらはすべて剥がし、必要十分の大きさ、場所に、貼り直しました。

ご覧のように、小さい面積でも、的確に、ぴったりと接着することで、割れの防止になるのです。
もちろん、固木であるカエデは、とりわけ引っ張り力は大きいわけです。
また、当たり前ですが、割れ目の筋に対して木目を直角にします。
パッチの木目と割れが平行では、それほど強いものではありません。
透いたパッチにパテまで・・、
Befoer
こんなに無様な貼り方でしたが・・・
After

Before & Afte.左の写真と同じ場所の楕円ですが、ずいぶんすっきりと・・!そして、ひとつひとつのものを、しっかりと圧着しています。
Before After
Before
パッチを貼る前には、下地の調整からやります。
下地が平らでないと、必要な接着力が得られないからです。
右下の少しおおきなものも、当初は四方にテーパーをつけましたが、
結局、剥がし、貼り直しました。
After
そして、細かなところですが、必要な箇所に、必要な大きさで、
これだけの数を貼りました。
小さくても密着性が良くなるように、4辺はみなテーパーをつけてます。
Before
最大の大きさがこちら、もうパッチとはいえずこうなるともう「添え木」?。
見るからに、「振動するな」と、ミュートをつけているようなもの。
After
すっきりと・・! ネックブロック近くの、右のものだけふたつ、長いのは、
平行して2本、割れ目が走っている部分をカバー。
全体もすっきりしました。 私が敬愛している、米国、オレゴン州の製作者、ヘンリー・A・ストローベル氏の著書『ヴィオラ・メイキング』の中で、『リブも振動するので、薄めに正しく削り、しっかりと施工しましょう・・・』と書かれています。

以来、私はリブの評価を変え、『リブでさえ、振動を助長させるためのもの』、という意識でやっています。それからすると、このチェロの、以前の修理はひどいもので、前述したように、見るからに振動を押さえるような添え木の貼り方でした。

それで、見るに見かねて、結局、気になるところは全部、取り替えたことになりました。
同時進行で、随時、更新していきます。

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