AF PWM AMPと電源トランスで試すAM変調(Oct 13〜. 2014)
昨年、サウンドハウスのオリジナルブランド、CLASSIC PROのオーディオPWMパワーアンプDCP1100を購入したとき、その効率の高さとコストの低さに仰天した。
効率110dB/w/mの高能率大型スピーカーを100〜200W程度のアナログアンプで駆動していた30余年前の状況は、今や効率97dB/W/m程度の小型スピーカーを1KWもの電力で駆動する時代になっている。それもアンプはPWM処理だから出力デバイスはONとOFFの2値しか取らないため発熱は非常に少ない。電源と出力LPFさえしっかりしておれば相応の出力が取り出せる仕掛けだ
さてこの状況を黙ってみている必要は無い。昨今流行のAM変調(A3)をハイパワーでやってみたくなるのは人情。真空管によるRF終段に、プレート変調を掛けるために数kΩ負荷の駆動を目的としたKW変調機の可能性を、PWMアンプと7F71R用ヒータートランスの組み合わせで探ってみた。またFETアンプへのドレイン変調についても考えてみる。
写真はヒータートランス(4V:100V/300W連続)を載せたDCP1100。右奥に1KHz信号源の低特、中央奥にトランス出力監視用オシロスコープ。 手持部品の関係でダミーロードは1.6KΩとしたが1000V(RMS)を供給出来る。このときのトランス出力は625Wに達する。ただし、これ以上入力レベルと上げると瞬時にプロテクションが働き、自動的に出力を軽減する。
ヒータートランス(西崎電機製)は100V/4V(80A)=25倍のステップアップだが、Z比は巻数の2乗に比例するので625倍。この状態ではトランス入力Z=1.6KΩ/625=2.6Ωなので4Ωから見るとかなりオーバーロード。4Ωにするためにはダミーロードは2.5KΩとなる。
なおプロテクションが働いても働かなくてもオシロスコープが表示する波形にはクリップは感じられない。7F71Rのヒータートランスを1次100V/2次4Vを逆接続しているが、本来なら4V側を1次側(内側)で巻いて貰う必要がある。波形の変化は殆ど見られないので磁気回路には未だ余裕があると思われる。周波数特性は未確認なのでこれは要調査だ。
現在前述の如くダミーロードが適正値ではないためプロテクションの掛かりが早い。適正負荷を用意して更なる実験を進めることにする。
最初の実験の印象は、500W超出力が容易に得られスゴイ。適正負荷を与えかつDCP1100をブリッジ接続(BTL)すれば容易に出力1KW超えが期待できそうだ。
なおトランスの出力側は1000V/625Wものオーディオ信号が発生しており、この後さらに上昇する方向だ。半導体回路との絶縁やサージ対策が求められて来よう。
プロテクションの機能がどのような回路で行っているのか分からないが、過変調制御に使えるかも知れない。
いやちょっと待てよ…1KWキャリアに100%変調掛けるにゃ被変調波形(電圧)のピークは倍になるから、電力は4倍になるってことか…。瞬時だとしても結構大掛かりになりそうだ。高周波回路の耐圧・対電力も上がるし…。もっとも基準点を決め、それ以上は傾斜特性にして100%以内に収めなきゃいけない。 

やや路線変更して半導体HPAで試すことにした。10月28日に富士市のサムウエイ社からDXV501Lが届いた。帰宅して早々に内部を確認するも、仕事で長時間ドライブのため力が入らず通電に至らず、翌29日、帰宅後通電を行いALCなしで7MHzで動作テスト。
とにかく軽い、AC100V直清流で電源トランスなるモノが無いのだ。出力を内蔵メータで600Wにすると、エキサイタ(IC-7600/CW)のドライブ電力は約35W程になった。これでしばらく連続送信を試みる。いわゆる連続キーダウンだ。普通のアンプだと30分もやると出力低下を招くばかりでなく筐体もパネルもそこかしこがチンチンになる(持たない場合や壊れる場合もある)。それが1時間やっても出力計に変化は無く、温度は殆ど上がらない。エキサイタの方が熱くなり、一体どうなっているのかと心配になるくらいだ。
ここまで確認できれば後はドレイン電源に変調トランスの2次巻線を挿入し変調を掛けたくなるのは人情。はやる気持ちを抑えきれずに、手持ちにあった0-60-80-90-100-110V:40-30-0-30-40Vの電源トランスをベンチに上げた。Z比4:1(巻数比2:1)にするために0-110Vと30-0-30Vを使って変調トランスを構成する。前者はドレイン電源に挿入し、後者はPWMアンプへ接続した。DXV501Lは500W出力時、Vd=125VでId=6A程度と思われるので、Rl=125V/6A=21Ω…この辺りをターゲットにし、PWMアンプの出力を5Ω前後に見込み、その4倍の20Ω前後での結合を想定する。
PWMアンプに1KHzを入れて変調をかけた変調波が写真。トランスの1次または2次の波形には正弦派を確認できたが、写真では変調波のピークやボトムがリニアに伸びていない。一体これは何。当初から予想はしていたが、トランス2次側にはドレイン電流が流れコアが直流磁化されるため、電流波形が歪んでいるモノと推測している。トランスは普通の電源トランス(640VA)なので、変調については全く考慮されていないハズ。 しかし、PWMアンプには余裕があり、600W程度の搬送波を容易に100%変調までスイングする。真空管アンプでこれをやろうとしたら、相当な規模になり容易ならぬことだろう。PWMアンプ様さまである。
さて、PWMアンプで容易に500W搬送波の100%変調が可能であることが分かった。この後の展開だが、変調専用トランスを用意する前に、ドレイン電流は別チョークトランス経由とし、コンデンサで変調トランスと結合して傾向を確認することにする。
因みに変調トランスや出力トランス等の磁気回路には、ギャップ(EIコアのEとIの間に)が設けられ、直流磁化の影響を押えているが、電源トランスの場合は重ね合せなのでその影響も考える必要があろう。旧知のトランス屋さんからは、物によって違うがこの場合はコアを分解してEIにし紙を1枚挟む程度で良いのではと軽くいなされた。
写真上は作業風景。右は見るも無残な変調波形。オシロの2目盛位置が500W出力ライン。波形は様々な物理現象をひっくるめて表示しており、問題解決のための情報や可能性を示していると言えないだろうか。
この波形を見て、当初はFET(STC2450×6個/3パラレルプッシュプル)のVd-Id特性が不揃いかと思ったが、搬送波レベルを半分以下に落としても傾向は変わらなかった。
また、トランス2次側に1〜2.2μFのフィルムコンを並列につなぐと、ピーク伸びる傾向を示すが、波形全体のイメージは変わらない。コンデンサにより低Q共振による補正を期待したが本質的な改善にはならない。 (2014.10.28-30)

電源トランスによるチョーク経由で電源を供給し、今までのトランスからC(1.5〜8μF)結合したが、波形に劇的な変化は無かった。
DXV501Lは上蓋を閉じ、ドレインラインはケースの吸入口からリード線で引き出した。トランスレスなので、シールドの取り扱いをする場合は注意する(フレームとDC−GNDが異なる)。
PWMアンプを多機種に変更してみる。写真はDCP1100の上にBEHRINGERのパワードミキサーPMP1680S。1chあたり600W/4Ω(BTLなら1200W/8Ω)の出力がある。
現状で音声プログラムによる変調を試みる。BEHRINGERのパワードミキサーにマイクをつなぎ変調波形を見るが、Voiceだと1KHz変調の様なはっきりした波形の崩れが確認し難い。1KHz時よりピークは伸びるが、キャリアレベルの倍までは至らない。
ところでこのPMP1680Sと最初のDCP1100は、プロテクションのかかり方が違う。PMP1680Sはの方が振幅方向の伸びが良く、DXV501Lのドレイン電流制限が働きやすい。(2014.11.3)
劇的な変化を求めて伊勢の西崎電機へ変調トランスを発注。1次0-4-8Ω、2次0-8-16-24-32Ω(DC重畳7A )、通過プログラム電力500W。 (2014.11.5)

伊勢の西崎電機にお願いしておいた変調トランスが届いた。
1次:0-4-6-8Ω、2次:0-8-16-24-32Ω、通過電力500W、2次直流磁化7Aで巻いてもらった。1次の6Ωは当初予定していなかったが、西崎電機さんが気を回してタップ出ししてくれたもの。心配りに感謝だ。
早々につなぎこんでテストするが変調波形に大きな変化は無かった。内心ガッカリな面もあるが、エレクトロニクスの不思議さに新たな思いでいる。 (2014.11.8)

真空管ならどうなんだろうと言う疑問が沸いた。
よせば良いのに思い付いたら早い。2000年製作のGU-74Bアンプを取り出した。
このアンプ、実はファストン端子で電源とタンク回路の切離しが可能で変調実験には格好。
端子を延長し変調トランス(100V:4V/300W)のHi-Z側に、Low-Z側はPWMアンプにつなぐ。
しかし送信直後にタンク箱で強烈なスパークがありNFBがトリップ。
ろくな確認もせずに送信してしまったのだ。
トランスの100V巻線を並列で使うべきところを直列につないでいた。
さらにPWMアンプは100%変調を超える出力だった。
Ep=2KV程度のところに、ピークで3KV超の電圧が加わったと思われる。
瞬時だが5KV程度に達し、GU-74Bアンプは電源が耐えられなかった模様。
それにより高圧整流器は短絡・・・余計な仕事を作ってしまった。
ややトホホだったが、深夜までに復旧させてしまうから困ったもの。
トランスで絶縁されているとしても、高圧やスパークによるサージの影響も避けられないので、このテストは暫く中断。 (2014.11.09)

新たな展開。ドレイン変調を考察する。ドレイン変調の方式は、大きく以下の2つが考えられる。
@終段デバイスの非直線部分を利用し搬送波と変調波の積算(掛け算)で生成するもの(従来の変調)
A搬送周波数で変調波をスイッチングして基本波のみをBPFで取り出すもの
現状の波形は飽和している訳ではない。終段デバイスの動作が、@もしくはAの領域でさまよっている様に見える。
たとえば完全にAの状態にしてしまう等の工夫が必要と思われる。
搬送波周波数でデバイス(FET)が変調信号を完全にスイッチング(ON/OFF)できるレベル(搬送波の2倍?)が必要か・・・。(2014.11.12)
DXV501Lの500WキャリアをBEHRINGERのパワードミキサーPMP1680Sで変調した様子。
ここで初めてVoice(アー音)による変調波形を紹介する。MicはCM-2000でLBは使用せず、PMP1680Sのプロテクションが働く範囲内で駆動している。
ちなみに2目盛が500Wのライン。同じピークまで1KHz正弦波で変調した時の変調トランス(4Ω:32Ω)2次側の電圧は115V/RMS(テスタで測定)に達した。これ以上のレベルで変調すると波形先端の飽和が始まる。
本来のAM変調なら、500Wのラインの倍までスイングされるべきであるが、現状は1.5倍程度に留まっている。一方逆方向はゼロラインまでスイングできている。
キャリア電力を700W程度まで上げるとピーク値は伸びるが、キャリアレベルに対する比率は変わっていない様に思える。
一見しただけでは、正弦波での波形を想像できないが、如何だろう。スペアナのゼロスパン時の復調音はあまり悪い感じはしないのだが・・・。
なおこの実験のために、DXV501LのIdプロテクション設定(VR3)を緩くしている。700W付近で長時間のテストを行ったが、このDXV501Lは涼しい顔で熱くならず、全く顔色を伺う必要が無い。(2014.11.15)

そんなこたぁないと分かっていても、状況が打開されないと人間て理屈に合わないことをやり出してしまう。
写真はDXV501Lの出力が広帯域トランスのため、真空管回路でやるような共振回路を入れたらどうなるだろうかと、出力にチューナー(秋葉斎藤電気のKit)を入れてみたもの。
当たり前だけど波形の縮みには変化は無い。フライホイール的な動作を期待したかったのか・・・。
手前は500Wの変調トランス。EIコアにスペーサが挟んである様子が何となく判る。上に乗ったチューナは1988年頃に製作した500W級もの。電監検査の直前に3.5MHzアンテナ用に挿入した記憶がある。

余談だが、ドレイン電流(Id)を揺すってやればAM変調など簡単に出来ると思っていたが実に奥が深い。昔やっていたUY-807に6BQ5プッシュプル変調器のTxって、一体どんな波形をしていたのだろうかと思いが馳せる。何しろオシロスコープなど有る筈もなく、せいぜいNe管の変調インジケータしかなかったのだから。当然受信機はあったけど、コモン・ノーマル輻射丸出しの強電界の中では、Voiceは確認できても何を聞いていたのか自身が無い。(2014.11.16)

ここでDXV501LのFETを飽和点で動作させるために、Vdを大幅に低下させて動作させてみた。出力電力は考えないことにする。
写真は外部トランスでAC電圧を62Vまで低下させて動作させた様子。
 AC:62V
 Vd:75(スタンバイ時)→10V(送信時)
 Id:0A→0.5A
 Input:0W→50W
 Output:50W未満(BIRD2.5KWレンジで読み取り誤差大)
出力は低く殆どATT状態だが面白い現象を確認できた。Vdが送信時に急激に落ち込む。このとき変調レベルを可変すると変調波形先端は見事に伸び、キャリアの2倍の振幅を得ることが出来る。
Vdをこれより少しでも上げると送信時のVdは落ち込まず出力が増大(250W程度)する。この場合は先に紹介た如く縮んだ変調波形になり、変調レベルを下げても、キャリアレベルを下げてもその形は変わらない。
波形の上端変調信号に酷似して来たが、下端は何となくギザ付いている。これは、未だFETのスイッチングが十分に行われていない瞬間があると考えられる、何となく状況がつかめてきた。写真の2目盛がキャリアレベル。上端が2倍なので本当なら下端はゼロまでスイングしたい。(2014.11.20)

再び真空管HPAを変調する。今回は5T31(450TH)の3極管GGアンプだ。4極管はEpの変化より、Esgの変化の方がIPに与える変化が大きい。この事実も手伝い試してみることになった。
プレート回路に、変調トランス(7F71Rフィラメントトランス4V:200V)を介してPWMアンプをつなぎ、500Wキャリアへ変調を掛ける。容易に50〜60%程度の変調が掛かり、1KHz変調波形も見た目には綺麗な正弦波だ。
ところがここで、再び失態。5T31アンプはスタンバイ(送信停止)で、変調器入力に1KHzを入れたままにしておいたら、暫くしてプレート電圧が異常上昇、カットオフしていた筈の5T31が自己発振を伴い生き返ってしまう現象が発生。5T31アンプ内部や無関係と思われたPWMアンプ内部まで猛烈な放電が持続。スタンバイSWは既に送信停止状態にあり、この事態はアンプ電源を切って停止させるしかなかった。
@5T31アンプはIp/Epメータ振れないが動作OK
APWMアンプは動作NG
B5T31アンプのEpマイナスリターン線断・放電
C同EpメータのマイナスSW接点放電・溶解
Dトランス内放電で高圧側巻線溶断、PWMアンプへサージ浸入・放電
再び余計な仕事が出来たが、この組み合わせは有効だった。(2014.11.24)

これまでのテスト結果と今後のテストについて以下表にまとめてみた。
No.1〜3までがこれまでのもので、No.4〜5が今後の予定。取り敢えず現状の持ち物でテストして、最終的にAM送信システムとして形にしたい。
なおNo.5については、エキサイタで低電力変調したAM信号を、FETリニアアンプで1KWまで増幅する計画。奇しくもMFR150x32の工業用高周波電源HPAの入荷があり、試してみることにしている。電源は3相200Vが必要だが、商用受電契約が無いので発電機で対応する。
実験機材の容量不足で思わぬトラブルにも遭遇しているが、本日までに回復または復旧の目処が立っている。(2014.12.03)