3 違う理由がすごく分かった気がした。
私のせいだ、って思った。
加味遼平くんが付き合ってって言って、小嶋和枝がいいよって答えた。
そこから何も変わってなかった。
私がダメだったんだ。
あの時、加味くんはそれでもいいよ、って言ってくれた。それにしがみついたんだ。
朝だからキラキラしているのか、キラキラしている朝だったのか。微妙だった。
分からなかった。
でも分かった気がする。
「加味くん」
夏のうだるような暑さが染み付いてきたテニスコートで、朝練を終えた彼にタオルを手渡した。
地面に座りこんだまま、さんきゅ。って彼が笑った。
「別れよう」
上からかぶせる様に和枝が言った。
一瞬、驚いて淋しそうな顔をして、それでも、分かったって短く加味くんは答えた。
どうしようもない気持ちになった。泣きたくなった。
和枝はへなへなとテニスコートに座りこんで、加味くんと目線を同じにした。少し泣いてた。
「私」
彼の顔は見られないから、テニスコートに向かって呟いた。
「私、加味くん、好きじゃなくてもいいよ。って言ってくれたから、付き合ったの。いいはずないのに、好きなわけじゃないのに、付き合ったの。ごめんなさい」
周りには同じく朝練を終えた他のテニス部員もいたけど、気にせずに続けた。それは加味くんもそうだった。
「なんかキラキラしてて。加味くんの周りキラキラした世界だった。テニスコートも屋上も、朝も昼も。すごくキラキラしてて眩しかった」
今だってそうだった。キラキラしてる。
「私のことを好きだって言ってくれて、なのに私がこんなんじゃつりあわないから」
「それって……」
少し遠い位置から、他の部員が口を挟んだ。和枝が不意を付かれたように顔を上げると、その言葉の続きを手を上げて加味くんが遮っていた。
その時初めて私は加味遼平を見た。
(ええ?)
耳まで真っ赤だった。受け取ったタオルを首に巻いて、視線をゆっくり上げたから目が合った。
「すごい自惚れてると自分でも思うんだけど、好きって言われているような気がする……」
「……へ?」
「マネージャーがオレのこと好きだって言ってるような気が、したりする」
立ち上がって猛ダッシュしたくなった。けど。
腰が抜けてしまったようにその場を動けなかった。
私が加味くんを好きって。
「そう言う風に聞こえた?」
恐る恐る尋ねたら、他の部員が揃って頷いた。
目の前がキラキラしてる。
眩しくて、頭がクラクラする。
朝だからキラキラしているのか、キラキラしている朝だったのか。
分かった気がする。
「付き合って、ってもう一度言ってもいいかな」
付き合うってどういうことなんだろう。こういうことかな。本当かな。
恐る恐る手探りに答えた。でも割りと即答に近かったかな。
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