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 舌の上にもう一度転がり落ちてきて。
 さっきまではトゲトゲとしていたのに、今は丸みをおびて滑らかな感触がする。
「……ん……あま、い……?」
 ナオの口から零れた言葉に、うわ、と小さな悲鳴を上げて先生がその場にしゃがみ込んだ。

「…………。先生?」
 何してるんですか、とナオが聞く。
 ものすごく長い沈黙のあとに、ザンゲ、と三文字返って来た。
 そしてそのままザンゲを続行してるのか、顔を上げてくれない。
 しょうがないからナオのほうがかがみ込んで同じ目線になる。
 黙々と、床に散乱したコンペイトウを拾っていた。
「先生?」
「だから立ち入り禁止って言ったんだけど……」
 どうやら先生はまだ少し、怒っているようだった。
 また何かしたかなって、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
 先生と一緒になって、コンペイトウに手を伸ばす。
 床の掃除しておいてよかったな、とか。

「ええと、先生ってコンペイトウ、好きなんですか?」
「好きだよ。町田の次くらいに」
 雑談のついでに、すごいこと言われたような。
 固まっていると、くっくって抑えた声で笑われた。
 時々、先生はすごく年相応で。ずるい。

「朝、町田がこんぺいとう食べてたからびびりました」
 びびりました、って変な日本語で。
 笑ったついでに言ってしまえという感じで、先生が告白を始める。
 頭のすみっこのほうで、今朝、昇降口のところで、先生がほっとして、ぎょっとしたのを思い出した。
 なんでですか、とナオは首をかしげる。

 そしたら急にコンペイトウを拾うのをやめて。
 先生がすごく真剣な、らしくない顔をしてこっちを見た。 

「……二倍、いとおしくなったから」

 学校とか関係なくなりそうで、まずいなと思って。
 だから立ち入り禁止だって言ったんだけど。って。

 聞いてるうちに、ぽかんと開いたナオの口の中に、ひょいとコンペイトウが放り込まれた。
 甘くてびっくりした。
 それを見て、先生がまた嬉しそうに笑った。

 

 風邪これ以上悪くするといけないからもう帰りなさい。それから今日こそは早く寝なさい。
 あったかくして。
 先生みたいなこと言うの、あんまり先生らしくなくて。
 変だった。

「……ええと、なんだかよく分かんないけど……先生元気になってよかった、です」

 そう言って、ぱたんと閉じたドアの向こう側で、先生がまた深くザンゲしたことをナオは知らなくて。
 家に帰ってから、ナオがドキドキしすぎて眠れなかったことを先生は知らない。

 

 

 

 

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