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4 特大のため息は、教室の前のほうから。 机と机の間の通路を、ぺたんぺたんって近付いてくる気配に、レーダーが反応する。 (どうしよう) ナオは椅子に座って、膝の上できゅっと拳を握った。 (どうしたらいいんだろう) 答えが出ないうちに、隣の席、たぶん今ごろグランドでサッカーをしているはずで、不在の持ち主に律儀に断りを入れて、座った。 その手を。腕のあたりを、伸びてきた先生の左手につかまれた。 「お願いだから、逃げないで」 そして、レーダーのスイッチを、切った。 |
とても長い沈黙。 教室の一番見やすいところに壁時計があって、だからなおさらそう思った。 授業時間は50分。あと残り30分。 繋がったままの手が、熱い。鎖とかの代わりのつもりなのかな。 単に離すの、忘れてるだけなのかな。 「先生」 隣からびくっとした気配、手から直接伝染する。 「先生、何かしゃべって」 机の上でさらに沈黙して、宙を見て言葉を探してた。 「ごめんな」 また、謝られてしまった。 「何が、ですか」 たぶん、泣き笑いみたいになっていたんだと思う。 「オレ、馬鹿なんだよ。一緒にいられるだけでじゅうぶん、って納得してたはずだったのに」 いきなり手の中に飛び込んできたからびっくりして。 あーあ、って言う先生が、本当にくやしそうに見えたから。 「先生はどうして、あたしのこと好きなんですか?」 「……それって、正直に答えていいの?」 「触って、抱きしめてキスしてセックスしたい、かな」 それは、シンプルイズベスト、な模範解答だった。 がたっとドアが不自然に鳴った。 先生とそういうことをするのってあんまり、想像しにくいことだった。経験値が足りないせいかもしれない。 ……って。あれ、なんでないんだろ。 「うん。それ以外のこともたくさんしたかったな。町田と、一緒に」 繋いでないほうの手で、河合くんの机に頬杖ついて、幸せそうに目を細めてる。 ……自覚あったんだ。と失礼なことを思う。 「…………」 うわ、町田ウソつきました。ぜんぜん平気じゃなかったです。 ダメダメで。決定的で。 「好きだから、これ以上町田を困らせたくないし、泣かせたくない。だから、約束するよ」 「え、なんで?」 目を丸くして先生が固まる。浮かしかけた腰をもう一度椅子に戻しながら。 「直感、です」 ナオは答えた。シンプルイズベスト。でも正解じゃなくてもいい。 「先生はずっと好きって言ってていいよ。何でも、先生のしたいようにしていいよ」 先生はいまいち分かってない顔。 「あたしが言わないから。先生が好きだなんて絶対、言わないから」 だから。 「…………だから?」 「先生はずっと先生でいてください」 平気です大丈夫です。ダメダメで決定的になっても。 言わないから。 「……うん。じゃあオレは、ずっと町田のことを好きでいることにする」 |
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