+お隣さん+
1 今朝もそこは、花でいっぱいだった。 赤、白、黄色、どこから見てもキレイだった。 |
むっとするような濃厚な甘い匂いに、低い鼻をつまむ。 そこは、風の通り抜ける小高い丘の上だった。 黄緑色の葉っぱがゆらゆらと揺れていても、そのど真ん中に立っていても、ぴくりともしない。 目の前にあるのは、縦に長く四角く冷たい、ただの石だった。 短い足をできるだけ高く振り上げて、どかっと蹴りをくらわした。 もっと、広い視野を持って、世界を見回してみようじゃないか。 そこにだけ、まるで他と同じ世界ではないのだと線引きするように、色とりどりの花が揺れている。 ……誰の仕業かなんて、名探偵のお呼びの必要のないくらい明確だ。 犯人は、お隣さんだ。 |
遠くのほうで、チャイムが鳴っている。 実際、まだ遠い。ここから短い足を目一杯稼動させても、少なくとも15分はかかる。 地面に置いておいたぺしゃんこの鞄を拾い上げ、ゆっくりとその場を離れる。 一陣の風が吹き、濃厚な甘い匂いに襲われる。 |