2 その占いの結果は、高校三年間のうちに出ることはなかった。
そもそも、婚姻は男子は満18歳と法律で決まっているわけで。園と占い師と同学年なわけで。
そしてそもそも一番の理由としては、あの占い以来、園と占い師は一度の接点もなく、卒業の日を迎えたわけで。
そういうわけで、あの占いの結果はまだ出ていない、というわけで。
しかし、あの占いは確かに、園の高校三年間の運命を決定したのだ。
卒業証書の入った筒でぽんぽんと肩を叩きながら、園はため息をついた。
卒業アルバムにはすでに、溢れんばかりのお祝いのコメントでいっぱいだ。
ご婚約から、ご結婚、ご出産おめでとうまで。
みんなして、勝手に人の運命を決めつけるのはやめてほしい。
例えば、憧れの先輩との恋とか。
両思いなんて贅沢なのじゃなくてもいい、失恋だってよかった、ただ、普通の女子高校生をやってみたかっただけなのに。
園は苦々しく、校門前に立っている、どことなく冴えない男子生徒を見つめた。
彼は、東京の某大学に進学するのだと、おせっかいな人の便りで聞いた。
大学にいっても、占いの勉強を続けるのかどうかとか、プライベートなことはまったく知らない。
だから、例えば今、占い師としてのなけなしプライドにかけて、とか。
そんな理由で、滑り込みプロポーズされたら、さあ、どうしてやろうか。
物騒なことをいくつか思い浮かべながら、先月誕生日を迎えめでたく満18歳になったらしい、佐久有志に声を掛けた。
「私に何かご用ですか?」
卒業式でも、無駄に長い前髪のうっとおしさは相変わらず。
「占い師として、あなたのこの先の未来について少しアドバイスできたらと思って」
「アドバイスって、あんたねえ……」
「うん、あのね」
あるとき、偉人は呟いた。
「花枝、園さん」
「……はい?」
「運命とは二度出会うものです」
「…………はい?」
「正確には、占われた運命とは、なんだけど」
意味のわからなそうな顔をする園に、そのときまでに考えておいて、と佐久有志は不気味に笑った。無責任だった。
そして、すっと手を差し出した。
「卒業、おめでとう」
園はもう、占い師と握手するとろくなことがないとわかっていた。
ので、代わりに卒業証書の筒を差し出した。
佐久有志は無駄な前髪の向こうで少し驚いてから、苦笑して、その筒の先を握った。
「……卒業記念に、私からも、あなたの未来に一つアドバイスをあげるわ」
「え?」
「前髪、切ったほうがいいと思うよ」
佐久有志は、やけに透きとおったきれいな目をぱちぱちとさせた。
少なくとも、前髪を切らないうちの結婚はありえないな。
そもそもありえない仮定をしてしまっていることには、気づかなかったふりをして。
「ありがとう、考えておく。じゃあ、元気で」
それが、園と占い師との高校生活の最後になった。
卒業証書の筒で握手する仲が、いったいどうやって結婚してしまう仲に発展するのか。
ぜひとも、運命とやらに問いただしてみたいものだと園は思った。
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