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リリーの同窓会


第13章 魔の集う塔

へーベル湖の西岸までたどりついたエルザとナタリエは、いったん馬を休ませ、対岸をながめやった。
鏡のように澄み渡ったへーベル湖の水面が、時おり吹きすぎる風に細波をたてる。一見、平和そうに見えるその風景には、しかし欠けているものがある。
いつもなら、水鳥の群れが湖面を泳いだり飛び立ったり、餌を獲りに行きつ戻りつしているはずだが、その気配はなく、水面に銀の鱗の魚が躍ることもない。
そして、湖を越えた先の森の中からそびえ立つのは、魔界への門があると言われるエアフォルクの塔だ。
「どっちから行く?」
ナタリエが尋ねる。
エルザはわずかに首をかしげて答える。
「そうね。馬はここに止めて、北から迂回して行きましょう。南からなら馬で行けるけれど、開けっぴろげの平原だから隠れる場所がないわ」
「了解」
ふたりとも、身の軽さ、素早さ、そして隠密行動には長けている。エルザは20年前に怪盗デア・ヒメルとして腕を磨いてきたし、ナタリエは現役だ。
魔物に関して、なにか重大な異変が起こっている・・・巡回修道女としての自分の体験と、ザールブルグで得たいくつかの情報からそう感じたエルザは、ナタリエを伴って、魔物どもの根拠地とも言えるエアフォルクの塔を偵察に来たのである。
ふたりは、森へ入りこむと、するすると木に登り、枝から枝へと伝って奥へ進んでいった。下生えをかき分けながら歩くより、よほど早く進める。
「そろそろだね」
樹齢百年は越えるかと思われる巨木のこずえに足をかけて、エルザが前方をすかし見る。
「この木のてっぺんまで行けば、塔を直に見られるんじゃないかな?」
言うと、ナタリエは返事を待たずに枝に手をかけた。
ナタリエの黒い服装とくすんだ緑色のマントは、木の上にいると葉叢とほとんど見分けがつかなくなってしまう。
その姿を見失わないように、丈の短い冒険用の修道服に身を包んだエルザが、枝をつたって登っていく。
「ぷはあ!」
厚く重なり合った葉を抜け、ナタリエは顔を出した。すぐそばに、エルザも現われる。
ごく間近に、その塔はあった。だんだんと先細りになって天空に向かってそびえるエアフォルクの塔の上半分が、森の木々の先に見えている。
茶褐色をした石の壁が、陽光を浴びて、よりいっそう不気味な雰囲気をかもし出している。
「なにか、見える?」
エルザもナタリエと同じように手で日差しをさえぎり、塔を見やる。
「いや、静かなもんだね・・・あ、ちょっと待った!」
ナタリエが小さな叫び声をあげる。
「・・・ほら、見えるだろ、あの窓! なにか動いてる!」
エアフォルクの塔には各フロアに石の壁をくりぬいた窓が設けられている。その最上階の窓に、たしかに黒い影がよぎった。
と・・・。
見る間に、その影は窓を通って姿を現わす。
コウモリのような黒くまがまがしい翼に、鋭い鉤爪とくちばし。
「アポステルだ・・・」
エルザがかすれた声で言う。
「だけど・・・何だよ、あの数!?」
ナタリエが言う通りだった。
奇声を発しながら空中に現われるアポステルの流れは、途切れることがない。次から次へと外へ飛び出してくる。こちらからは見えない反対側の窓からも、出てきているようだ。
「ひ・・・」
視線をふと下に向けたエルザが息をのむ。
下のフロアの窓からは、巨大な鎌を振りかざした黒いヴェールをかぶった姿が、あふれるように出て来る。ヴェールに包まれた頭部は、不気味などくろだ。
さらに下層からは、下半身がヘビの身体を持つ蛇女が・・・。
それら、塔からあふれ出た魔物は、壁を伝い、次々と地面に降り立っているようだ。しかしなお、塔の外壁は無数の魔物でおおわれ、まるで塔そのものが不気味に脈動しているかのようだ。
ふと気付くと、森の別の方向からも、オオカミの遠吠えや、マンドラゴラの叫びが幾重にも聞こえてくる。
塔からの魔物の群れの出現と呼応したかのようだ。
「ここまで見れば十分だ。一刻も早く、騎士隊に伝えないと・・・!」
エルザは言うと、馬を待たせてある方向へ戻り出した。
だが、ナタリエは動く気配がない。
恐ろしさにすくんで、身動きがとれないのだろうか。
しかし、ナタリエは落ち着いた表情で見返した。
「あんたは、早く知らせに行くといい。あたしは、もう少し残ってみるよ」
「どうして!? ここはすぐに危険になるわ。見たでしょう、あれだけの数の魔物よ、ひとのみにされてしまうわ!」
ナタリエは不敵な笑みを浮かべた。
「あたしだって、危険は覚悟の上さ。だけど、騎士隊が動くにしても、魔物どもの動きに関する最新の情報は必要だろう? 大丈夫、ほんとに危なくなったら、さっさとずらかるさ。あたしの素早さは、あんたの折り紙つきだろ、先輩」
「あなたって・・・」
エルザは言葉をのみこんだ。今はとにかく、行動しなければならない。
「わかったわ、じゃあ、情報収集、しっかりお願いね」
エルザは言い残すと、枝から枝へ飛ぶように走った。
あの魔物たちがザールブルグへ押し寄せて来たら・・・。
いや、絶対にそんなことにはならない。そんなことはさせない!
魔物の数に比べて、騎士隊の人数があまりにも少なすぎることは、努めて考えないようにした。

同時刻。
「秘密情報部から連絡! エアフォルクの塔に動きがありました!」
若い騎士隊員の叫びに、シグザール城の見張り塔に立っていたウルリッヒとエンデルクは、はっとして北東の方向に目を向けた。
ここからでも、天気がよければエアフォルクの塔はくっきりと見える。
今日は上天気なので、陽光に照らされた茶色い塔がはっきりと見えるはずだった。
だが、そこに異変が起こっていた。
「何だ?」
ウルリッヒがつぶやく。
エンデルクは無言で塔を見つめる。
塔全体が、黒い霧でおおわれたかのように見えている。そして、その霧のようなものは、塔の各階から湧き出し、脈動し、壁を流れ落ちているように見える。
エンデルクの口元が引き締まった。
「出たか・・・」
感情を押し殺した口調で、エンデルクがひとりごちた。
「報告いたします!!」
その時、階下からかけ上がって来た伝令騎士が、息を切らして叫んだ。顔色は青ざめている。
「秘密情報部より第2報!! エアフォルクの塔から無数の魔物が出現! その動きは今のところ不明ですが、ザールブルグへ向かってくる可能性もあるとのことです!」
「うむ」
ウルリッヒはうなずくと、エンデルクを見やった。
「騎士隊に出動命令をかけてくれ。市民への外出禁止令は徹底しているな」
エンデルクは軽く一礼した。
「は、直ちに。しかし、外出禁止令につきましては・・・」
「なにか問題があるのか?」
「は。一部の冒険者たちの間に噂が流れ、かれらも武器を取って街を守るために戦おうとしているようです」
エンデルクの言葉を聞き、ウルリッヒの顔に微笑が浮かんだ。エンデルクは怪訝な顔をする。
「騎士隊の人数も限られている。冒険者の手助けがあれば、これに越したことはない。それとも、騎士隊だけで十分だと?」
「いえ、決してそんなことは」
「では、命ずる。騎士隊は、冒険者たちとも連携して、事態の収拾にあたるように。場合によっては、冒険者を指揮系統下に組み入れても構わない。以上だ」
エンデルクは胸に手を当てて一礼し、下へ向かおうとする。
その背後へ、ウルリッヒのひとりごとが響いた。
「冒険者の間に噂が流れることも、あの人は計算済みだったのだろう・・・」

ウルリッヒの言葉に出てきた当人は、シグザール城2階の秘密情報部にいた。
ゲマイナーは、一方の壁を背にして机に座り、シグザール全土に放った密偵から次々に入る連絡を分析し、新たな命令を伝える。
次から次へと、様々な色の服を身に着けた密偵がゲマイナーの前に立ち、報告する。
「あのね〜、エアフォルクの塔から出てきた魔物たちはね〜、今のところ、ヘーベル湖の向こう側で止まってるよ〜」
「それからね〜、メディアの森から出てきたオオカミの群れがね〜、北の荒地の方へ向かってるみたいだよ〜」
「ヘウレンの森でね〜、ガイコツの群れを見たよ〜。うんとね〜、30匹くらいいたかな〜?」
「ヘイヘイ、ヴィラント山では今のところ、魔物の動きはないぜ、ベイビイ!」
「フッ、カリエル王国では、国境警護のための義勇軍が組織されたようだよ。マイレイディ、シスカも同行するそうだ・・・。なにか他にも情報がほしければ、いくらでもボクに頼みたまえ」
「カスターニェの方では、住民はみな、海竜が暴れるのを怖れて、船を出すのを控えているようですな。ミケネー島の魔物も活発化する気配はありません。これはつまり、魔の波動の源であるエアフォルクの塔との距離が遠いことに起因しているのだと思いますな。まさに、ボクの計算の通りですな」
「あ、あの・・・。報告、していいですか? ストルデル川の方には、魔物の姿はないみたいです・・・。あ、でも、見落としがあったかも・・・。あの、ボクとしては、ちゃんと見てきたつもりなんですけど・・・」
黒、茶、赤、橙、黄、緑、青、紺・・・と、色とりどりの服と帽子を着けた大勢の妖精が、現われては消えていく。子供のような外見をした妖精たちでごったがえしている様は、まるで幼稚園か保育園のようである。
しかし、こここそが、間違いなくゲマイナーが管轄するシグザール王国秘密情報部なのだった。
妖精には、どこにでも一瞬のうちに移動ができるという特技がある。ゲマイナーはそれに目をつけ、妖精の森の長老と話をつけて、緊急・秘密連絡用の通信手段として、また遠方への偵察手段として、妖精族を雇ったのだった。
また、のんびりしていて頼りなさそうに見える妖精だが、命じられたことはちゃんとこなすし、守秘義務もあるので、秘密が外部の人間にもれることもない。また、どんな人間でも、かわいらしい妖精には自然と気を許すものだ。その意味では、妖精は最高の諜報員とも言えるのである。
今、王国存亡の危機を迎え、秘密情報局は妖精を大増員し、情報収集と命令伝達にあたっている。
ゲマイナーの指示を受けると、妖精は『フェーリング陣』というアイテムを使って、目的の場所に瞬時に移動する。そうすることで、シグザール王国のあらゆる場所を調査したり、遠くにいる騎士隊員へ即座に連絡をとることができるのだ。
ゲマイナーは、伝声管を使って、見張り塔にいるウルリッヒに指示を送る。
「第1分隊から第3分隊までは北の荒地へ向かわせろ。第4から第8分隊は北ルートから、第9から第13分隊は南ルートから、それぞれエアフォルクの塔へ向かって進撃! 残りの分隊はザールブルグ守備隊として人心の安定にあたれ!」
即座に、城の外に整列している騎士隊に、命令が伝えられる。
ザールブルグの王室騎士隊には、21人の聖騎士がいる。20人はそれぞれ分隊長として10人ほどの騎士を率いる。そして、21人目の聖騎士が、騎士隊全員を束ねる騎士隊長エンデルク・ヤードだ。
聖騎士の腰には、新たに配備された銀の長剣が差され、他の平の騎士たちは、これも同じく今回調達された銀の槍をかついでいる。銀は、魔物に対して強大な力を発揮すると言われている金属だ。特に、エンデルクが差している長剣は、ファブリック工房のカリンが魂をこめて鍛えた白銀の剣だ。
エンデルクは整列した騎士隊の前に馬を進ませると、正面に立った。
低いがよく通る声で、手早くウルリッヒの命令を伝える。
そして、最後に言葉を付け加えた。
「各人、おのれのなすべきことをなせ。シグザール王室騎士隊としての誇りにかけて・・・」
「おおっ!」
騎士隊から一斉に湧き起こる、ときの声。
エンデルクは馬首をめぐらせると、右手を振り上げ、大きく振り下ろした。
「出撃!!」

酒場『飛翔亭』に、青黒い鎧に身を固めたひとりの男が入ってきた。
この時間、『飛翔亭』は閑散としていた。
マルローネから、ザールブルグに迫る危険について聞いた店主のディオは、注意深く相手を選んで情報を伝えた。それを聞いたハレッシュ、ルーウェン、ミューといった冒険者の面々は、それぞれ武器を取って街の外へ向かっていた。
カウンターの奥では、娘のフレアが不安そうに洗いものをしている。何度も同じ皿やグラスを洗っている。そうでもしていないと、気が紛れないのだろう。
店に入って来たのは、口ひげをたくわえた中年の男性だったが、その足取りは重い。ためらうかのように何度か入り口を行ったり来たりした末に、カウンターへ歩み寄った。
ディオが冷たい視線を向ける。
フレアは、男と父親を交互に見つめ、口の中でつぶやいた。
「クーゲル叔父様・・・」
クーゲルは、ずっと前に些細なことからけんか別れして絶交も同然の状態になっていた兄ディオに、おずおずと目を向けた。
「何の用だ。おまえに出す酒はないぞ」
ディオが冷たく言う。
クーゲルは、首を2、3度振ると、勇気を絞り出して言った。
「話しておきたいことがある」
ディオは反応しない。黙って、手もとのグラスをもてあそんでいる。
「噂は聞いただろう? ザールブルグを、魔物の群れが襲うかも知れないんだ」
クーゲルは早口で言う。だが、ディオの冷たい視線にさらされ、語尾は消え入りそうだ。
フレアは、心配そうな表情でふたりを見守っているが、何も言葉を口にすることができない。
「それで・・・? おまえはどうするんだ? ここには隠れ場所はないぞ」
ディオは感情のこもらない口調で言う。
クーゲルは、激しくかぶりを振った。
「いや、違う。わしは、これから戦いに行く・・・」
つと言葉を切り、視線を宙にさまよわせる。
フレアを見、そしてディオの視線を真正面からとらえる。
「この店を、守るためだ・・・。兄貴の店は、わしが守る!!
そう言うと、くるりと身をひるがえして、クーゲルは逃げるように店を出ていった。大きな音を立てて、扉が閉まる。
「クーゲル叔父様・・・」
フレアは、そっとハンカチで目元をぬぐった。
「あの、ばかが・・・」
ディオはつぶやいた。しかし、その瞳には、先ほどまではなかった、優しく暖かな、そして弟を気遣うかのような色が浮かんでいた。

「おう、おまえ、たしか・・・ルーウェンじゃないか」
鍬に身をもたせかけて畑仕事をひと休みしていたテオは、不意に現われた若い冒険者を驚いて見つめた。
ずっと走り続けて来たのだろうか、ルーウェンは息を切らし、大きくあえいでいる。
テオは腰につけていた水筒を放ってやった。
相変わらず、緑のバンダナに緑のマント、皮鎧という典型的な冒険者のいでたちをしたルーウェンは、一息に水を飲み干した。
「ふう・・・、はあ・・・、生き返った・・・」
大きく息をついたルーウェンだが、すぐに切迫した口調になってまくしたてる。
「テオさん、あんた、噂は聞いてないのかい? 魔物が大挙して襲ってくるんだそうだぜ! こんなところでのんびりしてていいのかよ? 早く、どこかへ避難しないと・・・。俺、それが気になって・・・」
テオは落ち着いた表情で、ルーウェンを見やる。
「噂は聞いてる。騎士隊じきじきに連絡があったよ。だがな、俺は避難する気はない」
「どうしてだよ!?」
「避難するって言ったって、どこへ避難すればいいんだ? どこへ行っても安全だという保障はないんだぞ。どこへ行っても同じなら、俺はここにいる。ここには、俺が守らなければならないものがあるからな」
と、テオは、周囲に広がるケシ畑と背後の農家を手で指し示した。
力んでいたルーウェンは、テオの言葉を聞いて、ふっと力が抜けたようだった。
ゆっくりと、あたりを見まわす。
今、この風景は平和そのものだ。
陽光を浴びたケシ畑は黄金色に輝き、涼しい風が吹きすぎていく。
だが、その風景のすぐ向こうには、危険で強暴な魔物が潜んでいるかもしれない。
ルーウェンは、決意した。
「その・・・、俺にも、手伝わせてくれないかな・・・?」
テオはルーウェンの目を見つめ、黙って先をうながす。
「俺、まだ冒険者としては未熟で、剣の腕も大したことないかも知れないけど、誰かを守れるくらい強くなりたいと思ってる・・・。その“誰か”っていうのは、今は探してる途中なんだけど・・・」
次の言葉を探しているルーウェンの肩に、テオの手が置かれた。
「よし、おまえの気持ちはわかった。いざという時には、手助けしてもらえると嬉しいぜ。だけどな、その前に、腹ごしらえしないか? 相変わらず、うちのメニューはベルグラド芋のシチューだけどよ」
テオは、ルーウェンの肩を抱くようにして、母屋へ向かった。

その時、ゲマイナーの元に凶報が入った。
「緊急連絡です。アーベント山脈の南東麓を、多数のアポステルが南下しているようですな。ボクの計算では、あと半日ほどで、ザールブルグ西方の農村地帯に到達すると出ています。もともと山中に生息していた群れが、魔の波動に呼応して活動を開始したものだと思われます。いやはや、これはまったく計算外の事態ですな」
虹色の光に包まれて戻って来た妖精のペーターが、いつも通りの理屈っぽい口調で情報を伝える。
ゲマイナーは、即座に伝声管を通して見張り塔のウルリッヒに叫んだ。
「1個分隊をザールブルグ西方に急派! 多数のアポステルが接近中!」
「うむ・・・。難敵だな。私が打って出よう」
落ち着き払ったウルリッヒの返答を聞いて、ゲマイナーは飛びあがった。
あわてて部屋を飛び出し、見張り塔に向かう。
既に、ウルリッヒは見習い騎士に手伝わせて、鎧を身に着けているところだった。
「待て、ウルリッヒ! あんたがここからいなくなったら、騎士隊への命令は誰が出すんだ!?」
「あなたが直接命令すればいい、ゲマイナー卿」
落ち着いた声でウルリッヒは言う。
「ただでさえ、戦える者の人数が足りないのだ。私は行かねばならぬ・・・」
「しかし・・・!」
言いつのろうとするゲマイナーを押さえるように、淡々とした口調でウルリッヒは続ける。
「わが剣で守ることができる命があるならば、その命を守る・・・それが、聖騎士の掟だ」
「だが、あんたはもう聖騎士じゃない!!」
「わが身、わが心に刻まれし騎士の魂は、永遠に消えることはない・・・」
言い残すと、マントをひるがえし、ウルリッヒは出ていった。
その後姿に、ゲマイナーは怒鳴る。
「ばかやろう! 命令違反で、軍法会議にかけるぞ!」
そして、心の中で、ゲマイナーは付け加えた。
(・・・だから、絶対、生きて帰ってくれよ)
秘密情報部の自席に戻ると、ゲマイナーは立て続けに命令を発し始めた。
あたふた、よちよちと駆けずり回る妖精たちの間に、ゲマイナーの指示が飛ぶ。
「ペーター、アーベント山麓の最新情報を持って来い! ピエールはエンデルクに伝令! ピコはウルリッヒについて行け! プリチェはヘーベル湖岸の第9分隊長から報告を持ち帰れ! ピノットは黒の森へ! パティーは北の荒地! ポピーは南の街道周辺だ! 急げ!」
シグザール王国秘密情報部は、大回転で活動を始めていた。

<ひとこと>
ついに、事態は動き始めました。収拾つくんだろうか(汗)。
初めて白日のもとにさらされたシグザール王国秘密情報部の実態、いかがでしたでしょうか。一応かなり意表をついたつもりなのですが。それにしても、ゲマイナーさん、エリーじゃないんだから、妖精さんの見分けがつかないはずなのに、なんで区別ができるんでしょう・・・? 答は名札を付けさせているからです(笑)。
それと、クーゲルさんを出演させてないことに気が付いたので、急遽エピソード追加。まあ、こんな仲直りのし方もありかな、と。
さて、次回いよいよ騎士隊と魔物が正面衝突します。ウルリッヒは間に合うのか? 他の冒険者たちは? ヘルミーナが作っていた秘密兵器とは?
「リリーの同窓会」、いよいよクライマックス!!


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