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リリーの同窓会


第14章 戦いの行方

北の国境地帯。
シグザール王国とカリエル王国を隔てているのは、どこまでも広がる深い森と、その合間に顔を出すごつごつとした岩場だ。
その岩場の影に身を隠しながら、シスカは静かに森を見守っていた。
真紅の戦鎧を身に着け、腰には長剣を差している。
シスカの背後には、それぞれに思い思いの武器を持ち、戦支度に身を固めたカリエル王国の兵士たちが身を潜めている。カリエル王国には正規の軍隊と呼べるものはなく、町の治安を守る自警団があるだけである。そのため、今回集まった兵士たちも、自警団を中心として、あとは木こり、農夫などから志願した種々雑多な義勇兵だ。
その中には、剣術指南役ヘンリーの私塾で剣術の修行をしている少年たちもいた。
かれらは、シスカを通じてシグザール王国秘密情報部から届いた異変の報告に呼応し、国境を警備するために出動してきたのだ。
そして今、木の上や木陰、岩陰にうずくまるようにして、南の森に全神経を集中している。
エアフォルクの塔から大量の魔物が出現した・・・その第一報は、シスカのもとにも届いていた。
「えっとね〜、それでね〜、ヘウレンの森を通ってね〜、ガイコツがたくさんこっちに向かって来ているらしいよ〜」
シスカの傍らに現われた青妖精のピーポーが、のんびりした口調で報告する。
「ガイコツか・・・」
シスカは口元を引き締めた。
振り返ると、すぐ後ろにいた少年に、耳打ちする。少年はうなずくと、背後の森へ消えていった。
「こちらの準備はできているわ。国境は絶対に越えさせないと、長官に伝えて」
シスカはピーポーにささやきかける。
「うん、わかったよ〜。それじゃまたね〜」
虹色の光に包まれて、ピーポーは消えた。一瞬の後には、シグザール城のゲマイナーのもとに着いているだろう。
その時、シスカは大気に異変を感じた。
ぞくり・・・と、背筋に寒気が走る。
(来たな・・・)
シスカは心の中でつぶやき、左手を掲げた。
森の中に潜むカリエル義勇兵たちも、指揮官であるシスカの一挙一動を、息を詰めて見守っている。
前方の森の茂みが、風もないのにぞわぞわとうごめく。
それとともに、気分が悪くなるような、なにかが腐ったような臭いが、空中にたちこめる。
そして・・・。
不意に地面が盛り上がったかと思うと、下生えをかき分けるように、異様な姿が出現する。
ぼろをまとった人間のように見えるが、かれらに肉はついていない。その頭部は茶褐色に汚れたどくろで、ぼろぼろになった衣服の裾から突き出されている手足は、白骨そのものだ。
その数は、目が届く範囲で十数体。だが、森の奥にはもっといるだろう、とシスカは思った。
葉叢に被われた森から、開けた岩場に出てきたガイコツどもは、ゆるゆると両手を上げ、獲物を追い求めるかのようにのろのろと前進する。ぽっかりと空いた眼窩の奥に、血のような妖しい光が宿っている。
シスカの左手が、大きく右に振られた。
「発射!」
シスカの鋭い命令の声とともに、背後の森から次々と矢が放たれた。それぞれの矢の先には油に浸したぼろ布が結び付けられ、火が点けられている。
森や原野で狩りをすることが多いカリエルの住民たちがもっとも得意としている武器が、弓矢だった。
赤い炎の尾を引いて、次から次へと飛ぶ矢は、狙いたがわず、ガイコツに突き当たる。ガイコツには肉がないので、突き刺さることはないが、ぶつかりさえすれば、炎がガイコツのまとうぼろに燃え移る。
岩場のあちこちで、炎の柱があがった。
火をかけられたガイコツは前進を止め、もがくように両手で顔をかきむしるが、炎は容赦なくなめるように白骨の上をおおっていく。
しかし、森の中からは、やむことなく不気味なアンデッドの群れが湧き出してくる。
「矢がなくなりました!」
後方から、兵士の声が響く。
燃え尽きて灰の山となった先発のガイコツの遺骸を乗り越えて、新たなガイコツの群れが迫る。
「歩兵、突撃!」
剣をすらりと引き抜き、立ちあがったシスカが号令する。
「おおっ!!」
岩場の影から、森の中から、斧や鉈など、てんでに得意な武器を持ったカリエル義勇兵が飛び出してくる。
「みんな、隊形を維持して! 深追いはしないように!」
シスカがよく通る声で叫ぶ。戦いに慣れていないカリエルの市民に、シスカはもっとも単純な陣形を教えた。それは、ふたりが一組になり、ひとりが攻撃、ひとりが援護するというものだった。
ふたりずつ組となったカリエルの兵士は、動きののろいガイコツに突進し、鉈や斧を思いきり叩きつける。ガイコツの首がぽろりと落ち、首をなくした胴体はくしゃりと崩れる。
「よっしゃ! 俺も行くぜ!!」
シスカの背後で興奮した叫び声がした。シスカは振り返ると、熱い炎を宿した、その少年の青い瞳をまっすぐに見つめた。ヘンリー道場いちの暴れ者、ダグラスの目を。
「ダグラス! あなたはわたしを援護して! 行くわよ!」
返事を待たずに、戦場へ飛び出す。
ダグラスは、
「おい! なんで俺が援護なんだよ!」
怒鳴ったが、すぐにシスカを追う。
「とぉっ!!」
シスカは森から現われたばかりのガイコツへ突進すると、長剣でなぎ払った。刀身から炎が飛び、胴体を両断されたガイコツは大地に崩れて灰の山となる。
(やっぱり、アンデッドには火の力よね)
シスカの長剣は、ファブリック工房へ特注したもので、火属性の力を持っているのだ。
すぐに身をひるがえし、次の敵に向かう。
その様子を間近で見ながら、ダグラスは思った。
(ちぇ、自分だけいいかっこしちゃってよ・・・)
だが、見ているうちに、あることに気付いた。
(おいおい、それじゃ、背中ががらあきじゃねえかよ)
たしかに、シスカは後ろをまったく気にしていない。ただひたすらに前進し、ガイコツどもを打ち倒している。
不意に、脇の茂みから出現したガイコツが、シスカに迫った。
「こん畜生!」
ダグラスが駆けより、一撃でしとめる。
一瞬、振り返ったシスカが言った。
「それでいいのよ」
「お、おう」
答えたダグラスは、ようやく気付いた。
シスカが背後をがらあきにしても気にしていないのは、援護する者を完全に信頼しているからなのだ。
自分が、元シグザールの聖騎士であるシスカに、信頼されている!
ダグラスの全身に、熱いものがこみ上げてきた。
「ちきしょう! 嬉しいじゃねえかよ!」
血がたぎってくるのがわかる。
「わかったぜ! バックはまかせてくれ!」
少年の叫びを聞き、剣を振るいながら、シスカは微笑を浮かべた。
(これで、またひとつ成長したわね、ぼうや・・・)

同じ頃・・・。
ヘーベル湖北部をおおう森に入った聖騎士隊は、エンデルクの指揮のもと、森に群がるマンドラゴラの群れとの戦いに突入していた。
騎士たちの叫ぶときの声、切り裂かれたマンドラゴラがあげる断末魔の悲鳴が、途切れることなく森に響き渡る。
森の下生えから不意に頭をのぞかせる魔法植物マンドラゴラは、大きく上体を振ると、黄色い花粉を騎士たちにあびせかける。また、地の下から根を伸ばして、馬の足にからみつき、騎士を落馬させる。
花粉を浴びた騎士の中には、錯乱して仲間を攻撃し始める者もいた。
この森に突入したのは、エンデルク自身が率いるシグザール王室騎士隊の5個分隊50人だ。聖騎士も、エンデルクの他に5人いる。また、ベルグラド平原で出会ったエルザも同行していた。
エンデルクは叫んだ。
「一刻も早く森を抜けよ! 我々の目的地はエアフォルクの塔だ!」
しかし、森は深く、蔓植物がからみつき、馬の前進を阻む。通れるのは、獣道と大差ない細い踏み分け道が1本だけだ。
(騎馬をこの森に乗り入れたのは失敗だったか・・・)
エンデルクは後悔していた。歩兵で突っ切るか、あるいはこのルートを避け、第9分隊以下の5個分隊と同様、ヘーベル湖南岸の平野部を進んだ方がよかったかも知れない。
いや、違う・・・。エンデルクは思った。この森の魔物を掃討しなければ、ザールブルグが危ない。
その時だ。
「危ない!」
悲鳴のような叫びとともに、小柄な影が馬上のエンデルクにぶつかってきた。もんどりうってエンデルクは下生えの中に倒れる。
と、次の瞬間、馬上の、それまでエンデルクが占めていた空間を、鋭い音を立てて矢が通りすぎた。
エンデルクは、鎧の重さをものともせず起き上がると、傍らに立つ少女を冷静な目で見つめた。
黒ずくめの服装に緑のマント。赤茶色の髪の毛を三つ編みにして後ろにたらしている。
「へへへ、ごめんね。とっさのことだったんでね、あれしか方法がなかったんだ」
ナタリエは、身を寄せるとささやきかけた。
「この先は危ない。エルフの大群がいるんだ」
「なに!?」
エンデルクはあらためて、うっそうと茂る木々の葉叢を仰ぎ見た。先ほどエンデルクを狙って飛んできた矢は、斜め上方からのものだった。
重なり合った木々の葉がざわめく。
背後では、まだマンドラゴラと戦う騎士の叫びや魔物の悲鳴が聞こえてくる。どうやら、騎士の半数はまだマンドラゴラと戦っているようだった。残りの騎士たちは、エンデルクのすぐ後ろに従っている。
不意に、エンデルクは叫んだ。
「散れ! 木の陰に隠れろ!」
そのとたん・・・。
前方の森から、無数の矢が騎士隊の頭上へ降り注いだ。
「ぐわっ!」
「げぇっ!」
逃げ遅れた騎士の、鎧に覆われていない足や腕に、矢が突き立ち、あちこちで悲鳴があがる。
矢の雨は、つと途絶えた。
この時、エンデルクを先頭にした騎士たちは、ゆっくりと近付いてくる気配をとらえた。もう、敵は身を隠そうともしていない。
下生えの影から、こずえの上から・・・。木々に紛れやすい緑と茶のチュニックに身を包んだ、耳のとがったエルフの姿が、湧き出すかのように現われてくる。
それぞれが背中に矢筒を背負い、手には矢をつがえた弓を構えている。
エンデルクの背後では、矢を浴びた騎士たちのうめき声と、手当てをして励ますエルザの声が聞こえてくる。
エルフたちは、寸分の隙もない動きで、木の上と地上から、半球形に騎士隊を包囲していた。
剣を構えたエンデルクは、身じろぎもしない。
その時、ひとりの聖騎士が金髪を振り乱して、エンデルクの前に飛び出した。
「エンデルク様! ぼくが楯になります! お守りします!」
頬を赤く染めた金髪の聖騎士は、身を震わせて叫んだ。
エンデルクはその肩を左手でむんずとつかむと、無造作に脇へ放り出した。
「邪魔だ・・・。離れていろ・・・」
「そんな・・・。エンデルク様、ひどい・・・」
身をくねらせて、金髪の聖騎士はつぶやいた。
エンデルクは、それ以上その騎士には構わず、全神経を研ぎ澄ましていた。
エルフの弓が、一斉にゆっくりと引き絞られる。
次の矢が放たれた時が、勝負だ・・・。エンデルクは思った。どんな方向から矢が飛んでこようと、この剣で跳ね返してやる・・・。その矢の雨をくぐりぬければ、勝機はある・・・。接近戦にもっていけば、こちらが有利だ。離れて戦ったのでは、どうしようもない。
「全員、近接戦闘準備。次の矢とともに突っ込む」
エンデルクは小声で指示を伝えた。次の攻撃で、半数の騎士は倒されるかもしれない。しかし、ここで逃げてもエルフの矢は追いかけてくる。戦って、突破するしかない。
(しかし、勝算は三分七分か・・・)
エンデルクは冷静に分析した。
(とてもではないが、有利な戦いとは言えぬな・・・)
息をのみ、矢が放たれる瞬間を待ち受ける。
エルフの矢が、まさに放たれようとした、その時。
側面から、無数の石つぶてがエルフを襲った。
狙いを狂わされた矢は、見当違いの方向へ飛んでいく。
「何事だ!?」
エンデルクが叫び、見守る中・・・。
エルフの背後から、涌き出るように現われた人の群れが、エルフに襲いかかった。その数、数十人。
新たに現われた男たちは、いずれも地味で薄汚れた服装をしているが、動きは素早い。手に手に思い思いの武器・・・棍棒、短剣、山刀などを握り、エルフたちの動きを封じていく。
男のひとりが叫んだ。
「マイヤー盗賊団、参上!!」
エルフの頭に棍棒の一撃をくらわせた、別の男が叫ぶ。
「ザールブルグの市民は、みんな俺たちの獲物だ!」
木の枝からエルフを蹴り落とした盗賊が、呼応する。
「魔物に獲物を横取りされて、たまるかってんだ!」
木の間を縫うような素早い動きで、エルフを切り倒した男が、エンデルクの脇に立った。ヴェールで頭と顔の下半分をおおい、灰褐色のマントをまとっている。氷のように冷たい視線が、エンデルクをとらえる。
エンデルクは小さくうなずくと、言った。
「フ・・・。ザールブルグが魔物にやられたら、盗賊稼業に支障が出る・・・そういうことか」
「そういうことだ」
無表情な声で、ぽつりとシュワルベが答える。
「行け。ここは、俺たちが抑える」
エンデルクは口元に、微笑とも苦笑ともとれない笑みを浮かべた。
「フッ・・・。借りができたな・・・」
「貸し借りは無用だ」
シュワルベは短く答えると、再びエルフの姿を追って、森の中の戦闘に飛び込んでいった。
マイヤー洞窟の盗賊たちは、接近戦でエルフどもを圧倒している。
情勢を見極めると、エンデルクは叫んだ。
「騎士隊、集合! 負傷者は後方に待機させ、残りは前進! 馬は残し、徒歩で突破する!」
そして、エルザとナタリエに、
「負傷者の世話をお願いする」
と言い残すと、エンデルクは先頭に立って、森の奥へと突き進んでいった。
ヘーベル湖北岸の戦闘は、マイヤー盗賊団の介入によって、人間側の勝利に終わりつつあった。

ザールブルグ西方。
森から不意に出現したアポステルの群れが、テオの農場を襲っていた。
どす黒い肌の色をし、コウモリのような翼、を持った魔物は、奇声をあげながら宙を飛び、舞い降りては、鋭い鉤爪とくちばしで攻撃してくる。
「くそ、こいつあキリがないぜ!」
テオは叫んだ。
ルーウェンも奮闘し、ふたりで既に十匹あまりを倒していた。しかし、アポステルは次から次へと現われる。さすがにテオも、体力がつきかけていた。
自分には、守らなければならないものがある。自分がここで負けたら、村は、家族は、どうなる・・・? その思いが、気力だけが、テオを奮い立たせていた。
しかし、目がかすみ、剣を握る手の握力もなくなりかけていた。
背中合わせになって身構えているルーウェンも、バンダナを汗と血でぬらし、大きく肩で息をしている。
「もう、ダメかもしれないな・・・」
ルーウェンがつぶやくのを聞いて、テオは叫んだ。
「ばかやろう! 最後まであきらめるな!」
だが、心の中では、時間の問題だろうと思っていた。
頭上から降ってきたアポステルの攻撃に、ルーウェンががくりと膝をつく。
「くそ、ひるむな!」
ルーウェンをかばって応戦するが、襲いかかるアポステルは数体に増えている。
ついに、激しい鉤爪の一撃で、剣がもぎ取られた。
(やられる・・・!)
必死に頭をかばって地面に身を投げたテオは、地を伝わってくる振動を感じた。それは、急速に近付き、大きくなってくる。
(これは・・・騎馬の足音!)
テオは、大きな影が自分のの身体を飛び越えるのを感じた。
同時に、肉を断ち切る不気味な音が響き、目を上げると、すぐそばに怪物の頭部がぐしゃりと音を立てて落ちてきた。見事なまでに鮮やかに、両断されている。
テオは起きあがった。
「あんたは・・・!」
「どうやら、間に合ったようだな・・・」
馬首をめぐらせたウルリッヒは、魔物の頭を断ち切った剣をマントでぬぐい、テオに一声かけると、すぐに次の魔物に立ち向かった。
ウルリッヒが率いてきた騎士の一隊が、アポステルの群れに襲いかかる。銀の槍がきらめき、急所の腹を貫くと、魔物の血が次々と大地を濡らしていく。
ところが・・・。
上空に、新たな影が舞った。
「なに!?」
ウルリッヒが愕然として頭上を見上げる。
今度の群れは、先ほどまでの群れの数倍は大きかった。
百匹あまりのアポステルが、旋回しながら、次第に地上へ近付いてくる。
対して、騎士は10人たらずだ。
「くっ・・・」
ウルリッヒはくちびるを噛んだ。騎士一個分隊では、とうてい勝ち目はない。
馬の後ろにしがみついて震えている妖精に声をかける。
「ピコ、情報部に連絡を。多数の敵を相手に苦戦中。援軍を送られたし。以上だ」
「は、はい」
ピコは馬から転げ落ちるように下りると、虹色の光に包まれて、消えた。
しかし、今すぐに援軍が出発したとしても、ここまで半日はかかる。
(それまでは持ちこたえられまい・・・)
ウルリッヒは冷静に判断した。
(ここが、私の死に場所だったのか・・・)
背後に視線をめぐらす。
テオと、もうひとりの若い見知らぬ冒険者は、再び剣を手に取っていた。
ふたりは、まだあきらめてはいない。
ウルリッヒは、剣を握る自分の手を見た。
(わが剣で守ることができる命があるならば・・・)
ウルリッヒは思い直した。
手綱を引き、部下の騎士たちに叫ぶ。
「各員、自分の身を守ることを第一に考えよ! その上で、各個撃破! 援軍が来るまで、持ちこたえるのだ!」
「おおっ!」
槍を振り上げ、騎士たちが呼応する。
ウルリッヒはゆっくりと剣を構え、接近してくるアポステルの鉤爪に立ち向かおうとした。
その時・・・。
頭上の高みで、なにかが爆発した。
大気の温度が、急激に下がるのが感じられる。
翼を氷におおわれ、自由を奪われたアポステルが、ばらばらと地上に落ちてくる。
(これは・・・!?)
ウルリッヒは不意に、20年前の日を思い出した。あの悪夢のような、伝説の『黒の乗り手』と対決した日のことを。そして、冷却爆弾を使って『黒の乗り手』の行動を封じていった型破りの女性のことを。
今も、あの時と同じように、空中に飛散した冷気の固まりが、アポステルを襲い、動きを封じこめている。
「今よ! 攻撃して!」
張りのある、凛とした声が響き渡った。
地上に落ち、動きの鈍った魔物どもへ、槍を構えて騎士たちが突っ込む。一気に形勢は逆転した。
ウルリッヒは戦いに加わらず、頭上を振り仰いだ。
なにかが見える。
風にはためく、長方形の布が、空中に浮かんでいる。
その上に、すっくと立ったひとつの人影。頭巾をかぶり、ふたつに束ねた栗色の髪を、風になびかせている。青い上衣が、陽光を浴びて輝く。
テオの叫びが、背後から聞こえた。
「姉さん・・・!!」

<ひとこと>
ん〜・・・。すみません、1回延びます。回数追加です。あと1回ではとても収拾がつきません(汗笑)。予定していたタイトルの「真昼の決闘」まで行き着きませんでした。「決闘」は次回へ繰り延べです。
今回も、前回と同様に徹底して燃える展開です。「お約束」だろうと、「ご都合主義」と言われようと、とにかく燃える展開。確信犯です。
あ、あと、いつかルイーゼさんの酒場でつぶやいていた、「リリーのレギュラーメンバーにはひとつずつ見せ場を用意する」というお約束、守れそうにありません。ほんとは、今回テオを助けに駆けつけるのは西の方からやってきたイルマのキャラバン(と、便乗していたヴェルナー)の予定だったのですが、ウルリッヒさんが熱血してしまったせいで、こういうストーリーになってしまいました。従いまして、イルマとヴェルナーの出番はエピローグまでお預けです。「そんなのやだ!」という方がいらっしゃいましたら、酒場で叫んでみてください。そうしたら、ストーリーが変わるかも知れません(そんないいかげんな・・・(^^;)


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