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〜75000HIT記念リクエスト小説<HU7様へ>〜

アトリエ大王 Vol.2


Part−3 配役

公平に

「やったぁ! できたじゃない、脚本!! さっすがクライス!」
「・・・ったく。マルローネさんの無茶苦茶な原案をストーリー化するのに、どれだけ苦労したと思っているんですか」
「でも、あれってあたしの案じゃないよ。武器屋の親父さんの言う通りに伝えただけなんだからね」
「無茶苦茶なことに変わりはありません。・・・ところで、配役はどうするんですか?」
「ああ、主役以外は、全員くじ引きで決めればいいよ」
「そんないいかげんな・・・。だいたい、配役というものは、性別とか適性とかをしっかり考慮して決定しなければ、うまくいくはずがありません」
「いい? よく考えてよ。監督としては、配役については誰からも文句が出ないように、100%公平な手段をとらないといけないわけよ。私情がからむ余地をなくして・・・」
「要するに、考えるのが面倒なんですね」
「・・・・・・。はい、いいからいいから、くじを作ろう!」

アドリブ

「よぉし! 配役はこれで決定ね。あとは手分けして、台本を配って歩けばいいわ」
「あの、マルローネさん?」
「ん、どうしたの、エリー」
「本当に、これでいいんですか? 思いっきりミスキャストのような気がするんですけど」
「あははは、かえって面白いじゃない」
「面白がっている場合ですか。マルローネさんも少しは考えてください」
「クライス、なに頭をかかえてるのよ」
「大道具、小道具、衣装に音楽・・・。日にちが迫っているというのに、考えなければならないことは山ほどあるんですよ。だいたい、こんなメンバー構成では、合同練習のスケジュールさえ満足に組めませんよ」
「合同練習? そんなの要らないよ。みんな忙しいんだしさ。自分のセリフと順番さえ覚えてきてもらえれば、問題なし!」
「そんな無茶な・・・」
「ぶっつけ本番で、なんとかなる!!」
「どこからそういう確信がわいてくるんですか(汗)」

主役

「こんにちは〜」
「おぅ、マリーにエリーじゃねえか! 今回の芝居の件じゃ、世話になるなぁ。ま、よろしく頼むぜ!」
「はい、今日は台本ができたので、持って来ました」
「おぅ、これがそうかい。・・・なになに、タイトルは『アルケミィ・クエスト』か。冒険活劇ってやつだな。この勇者の役が俺ってわけか。くうう、燃えてくるねぇ!」
「違いますよ」
「何ィ!?」
「親父さんは、王女の役ですよ」
「何だとぉ!?」
「だって、主役といえばヒロインに決まってるでしょ。このお話のヒロインは王女だもん。だから、王女が主役ってことで、主役を演じるのは親父さんだから・・・」
「マルローネさん、それ、間違ってます・・・」

わがまま放題

「おいっ! 冒険活劇の主役と言えば勇者だろうが!?」
「はあ? そういうもんなの?」
「決まってるだろうがぁ!!」
「だって、『白雪姫』も『シンデレラ』も、主役はヒロインだよ」
「それは冒険活劇とは違うだろうが!!」
「はああ、仕方ないなあ。それじゃ、勇者役を親父さんに変更して・・・と。そうすると、王女様役は誰にしようかなあ・・・」
「ちょっと待て」
「はい?」
「王女の役ってのも、捨てがてぇなあ」
「へ?」
「よっしゃ、決めたぜ! ヒーローもヒロインも、両方、俺が引き受けてやらぁ! どっちも主役だもんな、がははは」
「でも・・・」
「何だよ、一人二役ってのも、有りだろ?」
「好きにしてください・・・」

降格

「あ〜あ、困ったなあ。親父さんがあんなわがまま言うとは、思わなかったもんなあ」
「ある程度、予想はつきましたけど・・・」
「エリー、あなたも考えてくれない? 一人二役なんて言い出すから、役者さんがひとりあぶれちゃったのよ」
「そういえば、もともとの勇者役は誰でしたっけ?」
「エンデルク様」
「うわ、適役だったのに・・・」
「仕方ないわね。クライスに言って、登場人物をひとり増やしてもらおうっと」
「そんなに簡単に増やせるんですか?」
「だいじょぶよ。『村人A』かなにかを追加すればいいんだから」
「いいんですか、それで?」

ラブラブ

「そんなわけで、エンデルク様には『村人A』の役をお願いします」
「うむ・・・。公演に関してはブレドルフ陛下の指示も出ているから、協力することにやぶさかではないが・・・。しかし・・・」
「は? なにか不都合な点でも?」
「この台本に書いてある『村人Aの妻』というのは何なのだ?」
「あ、夫婦役なんです。お相手は・・・ほら、あそこにいる金髪の聖騎士さんです」
「何だと!?」
「うふ・・・エンデルク様♪
「あれ、どうかしましたか、エンデルク様? なんか、顔色が・・・」
「いや・・・何でもない」

勇者パーティ

「やっほ〜、アイゼル〜!」
「もう、エリーってば! 学院内でそんなに大声で呼ばないでよ。恥ずかしいじゃない」
「あ、ごめんごめん」
「で、今日は何の用?」
「例のお芝居の配役が決まったので、知らせに来たんだよ」
「そういえば、あたしもこの前、くじを引いたわね。どんな役になったのかしら」
「あのね、あたしとアイゼルは、主役の勇者と一緒にパーティを組む騎士の役なんだよ」
「まあ、すごいじゃない。準主役ね。でも、あなたじゃちょっと役不足でなくって?」
「ただ・・・」
「ただ・・・何よ?」
「あたしの役が『貴族出身のプライドの高い騎士』で、アイゼルの役は『平民出身の野暮ったい騎士』なんだよね・・・」
「何よ、それ・・・」

おしとやかに

「おう、何してんだよ。相変わらずヒマそうだな」
「あ、ダグラス。どうしたの?」
「ああ、王室広報を届けに来た帰りさ。ヒマなお前らと違って、こっちは毎日忙しいんだぜ」
「あ、そうだ。例のお芝居の配役のことなんだけど」
「おっ、決まったのか。俺は役は何だ? 勇者か? 騎士か?」
「ええと、そうじゃなくて・・・」
「なんだよ、もったいぶらないで、早く言えよ」
「王女様の・・・」
「おっ、王女様の護衛の役か? ちょっと不満も残るが、まあ我慢してやるとするか」
「いや、あの・・・」
「だから、はっきり言えよ」
「王女様の、侍女の役・・・」


Part−4 稽古

模範例

「は〜い、開いてま〜す。・・・あ、アイゼル、いらっしゃい」
「何をのんびりした声を出してるのよ! あなた、ちゃんとお芝居の練習はしているんでしょうね」
「うん、やってるよ。でも・・・」
「何よ。公演には、うちのお父様もお母様も見に来るんですからね。へまをやってあたしの足を引っ張るようなことはしないでちょうだいね」
「でも、難しいよ。『貴族出身のプライドの高い騎士』って言ったって、あたし、貴族なんてなったこともないし」
「あたしだって、『平民出身の野暮ったい騎士』なんて、イメージ湧かないけど、一生懸命やってるのよ」
「あ、ふたりともお芝居の練習? 熱心ね〜、感心感心」
「あ、マルローネさん」
「いい? なったこともない役をこなすというのは、自分の新たな一面を見つけ出すことなのよ。可能性を追求しなきゃ」
「口で言うのは簡単ですけど・・・」
「それに、あなたたちの場合は、目の前に生きた見本があるんだから。お互いに、相手の普段の言動を参考にすればいいのよ」
「そこまではっきり言いますか・・・」

本性

『おーっほっほっほ!! これで姫の命はわが手に握ったも同然! 今に見ておれ、わが恨み、思い知るがいい!』・・・う〜ん、ちょっとしっくり来ないわね」
「ふふふふふ。研究そっちのけでお芝居の練習とは、いい気なものね」
「ヘルミーナ! 黙って入って来ないでよ」
「ノックはしたわ。聞こえなかっただけでしょ」
「邪魔しないでくれない? マルローネのおかげで、とんでもない役を押し付けられて、苦労しているところなんだから」
「ふふふふ、『悪の魔女』の役なんて、まさにハマリ役ね。あなたにぴったりだわ、イングリド」
「何を言ってるの。できることなら、あなたに回したいくらいだわ」
「そうかしら。さっきの笑い声なんか、あなたの本性がむき出しになっていたような気がするけど」
「ほほほほほ、まあ、大根役者のあなたには、とてもできない役でしょうけどね、おーっほっほっほっほ
「・・・適役だわ」

その他大勢

「そういえば、ヘルミーナ、あなたも出演するんでしょう?」
「ま、まあね」
「どういう役なの? マルローネに聞いたのだけれど、教えてくれなくて」
「どうでもいいでしょ。あなたに教える筋合いじゃないわ」
「あ〜ら、気になる言い方するわね。もしかしたら、とんでもなく恥ずかしい役とか?」
「そ、そんなんじゃないわ!」
「じゃあ、はっきり言いなさいよ」
「・・・とびぃ
「え? よく聞こえなかったわ」
『村人B』よっ!!」
「ま、恥ずかしい〜っ!」
「う、うるさい! ちゃんとセリフもあるんだからね!」

がんばります

『勇者さま、がんばってぇ〜!!』・・・ん〜、ちょっと声が上ずってるわね」
「ぷっ・・・」
『勇者さま、がんばって〜!!』・・・もう少し通る声にした方がいいかしら」
「くくくく」
『勇者さま、がんばってぇ〜っ!!』・・・感情のこもり方がいまいちみたいだわ」
「ほほほほほ」
「イングリド! 笑わないでよ!!」
「ぷっ・・・だって、あなたのセリフって、くくく・・・それひとつだけなんでしょ? なんだか・・・ほほほほ、おかしくって・・・」
「うるさい、黙れ!(怒)」
「イングリド! ヘルミーナ! 何をしているのかね。授業の開始時間はとっくに過ぎているよ。教室で生徒たちが待ちくたびれておる・・・」
「はっ!?」
「しまった!」
「やれやれ、困ったものだ・・・」

立場逆転

「陛下、お呼びですか?」
「ああ、勤務中にすまないね、エンデルク。実は、内密に相談したいことがあってね」
「は」
「実は、ぼくも例の公演に出ることになっているのだが」
「陛下も出演されるのですか?」
「ああ、マルローネに、ぜひにと頼まれてしまってね。それで、もらった役が・・・」
「・・・・・・」
「お城の『門番』の役なんだ。それで、門番の心得を、ぜひ教えてもらおうと思ってね」
「・・・・・・」
「あれ? どうかした、エンデルク?」
「・・・御意(汗)」

悪役

『よぉし、行くぜ、野郎ども! ぬかるんじゃねぇぞ!!』
「う〜ん、なんか迫力ないなあ」
「そうね、凄みに欠けるわね」
「だって、仕方ないじゃないか。ぼくが『盗賊の頭領』の役だなんて・・・」
「そうよ、ノルディスの責任じゃないわ。こんな配役をしたエリーが悪いのよ」
「アイゼル〜、配役を決めたのはあたしじゃないよ。マルローネさんが、くじ引きで・・・」
「そう。公平に決めたんだからね。恨みっこなしよ」
「ねえ、ノルディス、無理することないわよ。あなたみたいな人に悪役なんて、もともと似合わないんだから」
「あ〜らら、アイゼルちゃんは優しいですねぇ」
「マルローネさん! 冷やかさないでください!」
「いや、アイゼル、ぼく、やるよ。・・・『よぉし、行くぜ、野郎ども!』
「やっぱり迫力ない・・・」

疑問

「それはそうと、なんであたしがこんな役なんだい?」
「あら、ナタリエ。盗賊の役なんて、元デア・ヒメルのあなたにはぴったりだと思うんだけど」
「それは違うね」
「え、どこが?」
「いい? デア・ヒメルっていうのはね、闇を駆ける孤高の怪盗なの・・・。この台本みたいに徒党を組んで悪事を働くなんてことは、あたしの美学に反するんだよ!」
「まあまあ、それはストーリーの都合上ってことで」
「俺もひとこと言いたいことがある」
「どうしたの、シュワルベ?」
「盗賊を演じるのはいい。だが・・・」
「だが・・・?」
「なんで俺が『パシリ』なんだ?」

怪事

「ねぇねぇ、奥さん、聞いた?」
「ええ、聞きましたとも」
「夜な夜な、『職人通り』に不気味なうなり声が響くって噂でしょ?」
「怖いわねぇ、いったい何なのかしら」
「うちには小さい子もいるしねぇ。心配だわ、物騒なことにならなければいいけど・・・」
「まさか、魔物が街に入りこんで来ているとか・・・」
「いやだ、やめてよ、夜トイレに行けなくなっちゃうじゃない」
「王室騎士隊に届け出た方がいいんじゃないかしら」
「ねえ、ところで、その不気味な声って、どの辺から聞こえてくるの?」
「そうねぇ、たしか、あのへん・・・」
「ああ、武器屋さんがあるあたりね」

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