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イングリドのアカデミー

〜ザールブルグのグレートティーチャー〜

作:マサシリョウさん


第二話 人形は発条羊(ゼンマイひつじ)の夢を見るか?の巻(その2)

王国暦301年 6月1日 午後
フローベル教会

医の女神アルテナ。
その前で祈りをささげる二人の男と一人の女。

「・・・珍しいですね。魔物討伐の時期はとっくに過ぎているというのに。
それにイングリドさん、あなたも一緒とは。」

祈りを終えた3人に声をかけたのはこの教会の神父さん
クルト・フローベル。(誕生日を過ぎているので当時38歳)
この教会で騎士隊が祈りをささげる時は魔物討伐の時ぐらいである。
その時期が過ぎている上に、騎士でもない私(イングリド)が
この教会を訪れるのだから不思議がるのは無理もない。

「あらクルトさん。私がお祈りしてはいけませんでしたか?」

「ははは・・・いえ。今は私も錬金術に理解がありますからね。」

「ほほほ。ごめんなさい。皮肉を言ったわけではないですよ」

彼は、錬金術に対してかなり偏見をもっていた。
リリー先生達の努力によって、その事はもう昔の話である。

「・・・・また、魔物が現れたのですね。それもかなり強力な。」

「・・・・」「・・・・」「・・・・」

3人とも黙ってしまった。言うべきだろうか・・・・あのことを。

「・・いえ。何も心配する事はない。我々騎士隊に任せてくれ」

「そうです。我々騎士隊にかかればどんな魔物が来たって大丈夫ですよ!」

クーゲルとハレッシュはそう言った。
・・・・今回相手にするのは、その騎士隊かもしれないのだ。

「・・・そうですか。・・・ああ、そうだ。
みなさんにこれを。」

神父はそう言って私達に何かを手渡した。

「これは・・・アルテナの紋章。」

「はい。この教会で作ったお守りです。みなさんにアルテナ様のご加護を。」

王国暦301年 6月1日 午後
ザールブルグアカデミー

「んー♪ふふっふふー♪明日は楽しい採集だー♪」

学生寮の一室。
ヴァネッサの部屋。
女の子の部屋らしく、
ベッドにはかわいいぬいぐるみ、窓辺には鉢植えが置いてある。
窓には明るい色のカーテンがしかれており
テーブルの上には花瓶とティーカップが1つずつ。
化粧台もある。引出しの中には香水やルージュなどの化粧品やアクセサリーが入っている
・・・・・・・・
だがドアの外からは死角になる所にある机には
調合に使ったガラス器具がそのまま放置され、大量の参考書が山積みにされており、
鉢植えに植えてある物は、ほうれん草や魔法の草、アザミなどの薬草類である・・・
花瓶の中にあるのはミスティカ。これも錬金術に使う薬草だ。花など一輪も無い。

「武器よし!!水筒(竹製)よし!!食料よし!!
カゴよし!!・・アルテナの水も3つぐらいでいいかな?」

・・・・ピクニック気分とはまさにこの事。

「さてと、準備はすんだし。先輩の所に行くとするか。
準備がすんだらすぐに来いって言っていたけど。
用事ってなにかしら?・・・・キャー♪」

そして彼女は久しぶりに化粧台の引出しを開けた。
・・・で、数分後。

「いらっしゃい。実験試料からヤバイ物(ブツ)まで・・・って、君か。遅かったな。」

学生寮の一室
マイヒルの部屋。
部屋の壁には飛行機かグライダーか良く分からない乗り物の設計図が貼ってあり、
部屋の四隅には本棚に入りきらない本が乱雑に置かれている。
もちろんその本はほとんど参考書だが、なぜか子供向けの絵本が混ざっていたりする。
部屋の床や壁の何も貼っていない所には
調合のレシピらしきものが殴り書きされている。
机の上は模型や竹製の玩具がいっぱい並べてある。
模型や玩具はどれもザールブルグでは売っていない物で全部彼の手作りだ。

「・・・・調合器具が全く無いですね。」

「ああ、全部工房に移したのだ。」

「・・・・あれって工房の模型ですよね。」

「ああ、シグザールのどこかにある俺の工房の模型。」

一見普通の模型だが、下の方に穴があいてあり
水がどんどん流れていた。ゲヌーク壷が仕込んであるらしい。

「・・ヘンな模型。」

「ふふふ。この模型の秘密、知りたい?知りたい?
・・・そーか知りたいかぁ・・・。
しょーが無いなぁ。よし、特別に教えてやろう。」

「・・・お、恩着せがましい・・・(別に知りたくもないし。)」

「この模型には貯水槽があるのだ。こうやって水位を下げてやると・・・」

屋根の所にある小さいレバー下げる
ザザー。瞬間、一気に水が流れる。
すると・・・

「わ、浮かんだわ!!」

ふわり。模型が宙に浮いた。そしてある高さで止まる。

「そして、このレバーを操作すると・・・」

カタカタ・・・後ろにプロペラが出てきて、
模型がゆっくりと前進する。空中で。

「ふーん。グラビ結晶と貯水槽を使って浮力を調節している訳かぁ。」

・・・・彼女はまだゲヌーク壷の存在を知らない。

「ひひひ。どうだ面白いだろう。みんなには内緒だぞ。」

「・・・こんなのを自慢する為に呼んだんですか?」

「こんなのって言うなよ!!結構設計に苦労したんだぞ!!
バランスとか・・・」

「はぁーあ・・・(もう!!目の前に化粧をしている女の子がいるのにこの人は・・)」

「大体話題ふったのお前だろ!!用事は他にあるよ。付いて来たまえ。」

「ふぅ。やっと話が進んだわ。」

彼に連れられて来た所は、アカデミーの校庭だ。

「ここで一体何をするんですか?」

「・・・ヴァネッサ君。キミは今まで何回俺を雇ったかな?」

「そうですね。2〜3回ぐらいじゃないですかね。」

「その間ずっと思っていたのだが・・・君は弱い。あまりにも!!
という訳で今日は貴様に戦闘訓練を施してやる!!
オラオラー!!ザールブルグアカデミーに腰抜けはいらねぇ!!」

「ひえー!!」

(ここで頭の中でBGM「倒せ!!極悪同盟!!」を鳴らしてくれると嬉しい。by作者)

「まずは基本!!攻撃と防御についてだ!!
ヴァネッサ君!!貴様の武器はなんだ!!」

「・・えーと・・一応木の杖ですけど・・・」

「よし。それで俺を殴ってみたまえ。」

「え゛っ、良いんですか?思いっきりいきますよ?」

ガツン。渾身(こんしん)の力で振り降ろされた杖がマイヒルの頭にヒットした。

「ゴフッ!!バカな!!この俺がぁぁぁぁぁぁあぁ!!」

吐血をしながら倒れるマイヒル。
口から出る血がどんどん地面を濡らしていった。

「キャー!!せ、先輩がぁ!!」

アカデミー生「うわー!!暴力事件だぁー!!」
アカデミー生「ヴァネッサがマイヒルを撲殺したぞ!!」

「い、いや・・いやよこんなの。イヤァァァァァ!!」

マイヒルの体の突っ伏してむせび泣くヴァネッサ。
だが、もう彼はなにも応える事は出来ないのだ。

イングリドのアカデミー

〜ザールブルグのグレートティーチャー〜

「・・・とまぁ、こんな感じで攻撃をするのだ。」

ムクリと起きあがり、開口一番いったセリフが↑だ。

「キャー!!生きてたー!!」

「こらっ後ずさりするな!!・・・全く。
生きてたら生きてたでこの騒ぎ・・・うるさいなぁ。」

「もう!!死んだと思ったじゃないですか!!」

「ふん。俺は不死身だ。ちなみに口から吐いたのは血のりだ。」

「なんでそんな事をするんですか!!」

「ヴァネッサ君。訓練には"リアリテー"が必要なのだよ。リアリテー。わかる?」

リアリティー(現実感)のことを言いたいらしい。

「バカ!!」

「先輩に向かって何だその口の聞き方は!!・・まぁいい。
これで攻撃はバッチリだ。モンスターが出てきても大丈夫だな。」

「・・・この出来事がトラウマになりそう。」

「次は防御!!普通は攻撃一辺倒で何とかなるが
たまにとてつもない攻撃をしてくるモンスターがいる。
その時はたいてい予備動作があるので、その時に使うのが防御だ。」

「予備動作?たとえば?」

「そうだなぁ。俺が必殺技を使う前は杖に手を掛けるだろ?
そーいうのを見たときに防御だ!!」

そう言って彼は杖に手を掛けた・・・

「――ッ!!ちょッ、ちょっと待ってください!!
アレを防御しろったって無理です!!死んでしまいます!!」

「あ、そうか・・・うーん・・・・じゃあこれだ。」

そう言ってゴソゴソと外套に手を突っ込むマイヒル
取り出した物は・・・

「わー!!銃だ!!」

「安心いたせ。みね撃ちでござる。」

パン!!発砲音がした後
ヴァネッサの胸に赤い液体が確認できた。
それを手に彼女は・・・・

「なんじゃあこりゃぁぁぁぁぁ!!」

絶叫した

「だから血のりだって。」

「解かってますよ!!あー!!服がベトベト!!」

「ちゃんと防御をしないからこうなるのだ!!
もう一回この「錬金玩具竹鉄砲(れんきんがんぐたけてっぽう)」で攻撃をするから
今度こそ防御をするのだぞ!!」

「・・・・なんなんですかそれ。」

「うむ。錬金玩具竹鉄砲。銃身は全て竹で出来ていて、
クラフトを発火材としてうにとかを発射するオモチャだ。
お求めはマイヒル商会まで!!お母様もぜひお子様にオススメ下さい!!」

「竹の中にクラフトなんかつめたら壊れるでしょ!!」

「そこが、魔法で強化された竹の凄い所!!」

素直に金属を使えば良いのに・・・マイヒルよ、なぜ竹にこだわる。

「・・・よし。今度はうまく防げたな!!これで防御は完璧だ!!」

「・・・ねぇ、そのオモチャ見せてくれません?」

「ん?欲しいのか?」

「タダなら。」

「ふざけんな!!作るのに苦労したんだぞ!!」

「あーあ。誰かさんのせいで服が台無しだー!!結構高い服なのになぁ」

「ふ。そんな事を言ってもムダだぜ。何故なら俺は"悪の天才"錬金術師だからな。」

「ちぇ。だめか。」

王国暦301年 6月5日
メディアの森・入り口

「リリー先生の話だと、この森のどこかに魔女メディアの墓標があるはずね。」

目前にそびえたつ木々。森の奥は闇が口をあけている・・・・
ヴィラント山へ向かう途中、何回もここを通ったが
今日ほど不気味に感じた事は無かった。

「黒の乗り手事件の時も、魔女メディアの冥福を祈る事で解決に近づいたそうですね。
今回もそれで解決すればいいのですが・・・・」

「そうね。・・・ところで少数精鋭でいくと言っていたけど・・」

「ああ、そう言ったが。」

「なぜこのメンバーなの?」

メンバーはイングリド(当時シグザール最強の錬金術士)、クーゲル(王室騎士隊員)、
そしてハレッシュ(準騎士隊員)。
この3人だけである。

「・・・なぜエンデルクがいないのかしら?」

「隊長は今ドムハイトの問題でこちらには手を回せないんです。
ほかの聖騎士も隊長と一緒だから・・・・・
いまザールブルグにいる王室騎士はクーゲルさんだけなんです。」

「こいつはこう見えてもなかなかの槍の使い手でな。
俺の見込み違いでなければ次に聖騎士(王室騎士)になるのはこいつだ。」

それを聞いても私は今1つピンと来なかった。
ハレッシュの言葉を聞いていると、なるべく戦闘をしたくない様子だったからだ。

「・・そう。ところで今後の予定だけど。私はどうしたらいいかしら?」

「はい、この森の中にあると思われる魔女メディアの墓標を探し出して
彼女に祈りをささげます。成功すれば行方不明者の捜索をして終わりです。」

「成功かどうかの判断は?」

「・・・成功していれば・・・恐らく・・・行方不明の皆は・・・
クッ・・皆はただの死体に戻っているでしょう!!」

「あ・・・・・・・」

私がハレッシュの返した答に戸惑っているのに気づいた彼は
力なく微笑んでこう言った。

「・・・・そうなってくれるよう、祈っていますよ・・・・」

「失敗した場合は、この異変の原因があると思われる
廃棄物投棄場所に行かなければならない。
生き残りの話が本当ならば、
奴らには刃物が通用しにくいらしい。その時はお願いします。」

「・・・・わかったわ。」

まずは彼女の墓標を探すのが先決ね。
今この森は危険だ。磁石も狂うこの場所で方角を知る手がかりは太陽だけ。
・・・日が暮れる前に見つかれば良いのだけれど。
こんな事ならリリー先生に詳しい場所を教えてもらうべきだったわ。

王国暦301年 6月5日
メディアの森・東部

メディアの森を東へ向かう二人組。
言うまでも無く、ヴァネッサとマイヒルだ。
彼らはこの森のどこかにある新しい採集場所へ向かっている。

「なぁ、ヴァネッサ。雇ったの俺だけなのか?」

「そうですけど・・・何か?」

「何か?って・・・君、酷い目にあったのに懲りてないのか?」

「ええ、おかげさまで新しい採集場所の情報が同級生に売れましたよ。
銀貨100枚の所を80枚にまけてあげたからみんな大喜びでしたよ。」

「おい・・みんなって・・複数の人間に売ったのかよ!!」

「うん。近道ルートも討伐隊が出ているときに利用できるからみんな大喜びですよ!!
今回の情報もみんなに売るの♪ほほほほほ。」

「こ・・こいつ・・あなどれん。」

「これでまた新しい参考書が買えるわ!!最近貧乏ですから困っていたんですよ。」

「君いつも貧乏じゃないか。生活切り詰めて参考書買って・・・ちゃんと全部読んでる?」

「読んでますよ。図書館の本だって読んでます。生きているアイテムについてとか
グラビ石でどんなアイテムが作れるかとか・・・」

「ふーん。錬金術を満喫しているな。」

「今は「グラビ結晶」とか「生きているナワ」ぐらいしか作れるものは無いですけどね。
イングリド先生の「空飛ぶホウキ」が作りたいわ!!レシピはどこにあるのかな?」

新しいアイテムの発見をレシピに頼っているところが彼女のまだまだ未熟な所だ。

「げ・・・グリ子の事は思い出したくないぜ。」

「かっこいいじゃないですか!!大人気ですよ!!特に女生徒に!!
雷落とす所が凄くカッコいいんです!!まさにザールブルグの蒼い稲妻!!
キャー!!シビレル―!!」

「・・・雷落とされるの俺なんだけど。」

王国暦301年 6月5日 午後
メディアの森・魔女の石碑

目の前にある魔女の墓標・・・・
ここを探し出したのはもうすぐ日が暮れようかという時刻だった。
かつてリリー先生は黒の乗り手にかけられた呪いを打ち消すために
この前で彼女の冥福を祈った。
・・・私達の祈りは彼女に届くだろうか。
・・・彼らにかけられた呪いを解く事ができるだろうか。

「(・・・魔女よ・・・)」

この森を荒しておいて勝手な事かもしれない。
あなたの苦しみや憎しみ・・・十分に理解できてないかもしれない。
でも、みんなを苦しめるのは止めて下さい。
・・・どうかお願いします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・どうですか先生。」

同じように祈っていたハレッシュが声を掛ける。

「・・・空気が変わった様子は無いわね。」

空気が変わった様子は無い。
この森に入る前にはあれほど感じていた不気味な気配。
しかしこの広場(ここは墓標を中心とした、いわゆる森の広場になっている)
へと近づくにつれどんどんと邪気は薄れて行くような気がしていた。
ここにあるのは(石碑以外は)音すらも存在しない空間だけであった。

「祈りが届いたのかしら・・・?」

「もう日が落ちますね。とりあえずここでキャンプを貼って・・
今後の事は明日考えましょう。」

夜の帳(とばり)がおりてくる。
枯葉や枝を集めて火をともす。広場が赤い光に包まれた。

「・・・静かね・・・・耳なりがしそうなくらい。」

昔はこの辺りにもオーレというモンスターがいたが、
今この周りには不思議な静寂に包まれている。木々のざわめきさえも聞こえない。
物音を立てる存在は・・・・

・・ザッザッザッザッザ・・・

「ん?この音は・・・」

静寂を破ったかすかな雑音。最初に気づいたのはクーゲルだった。
・・ザッザッザッザッザ・・・

「誰かが歩いてきているみたいですね。」

・・ザッザッザッザッザ・・・
段々と大きくなる音。近づいてきている。
クーゲルは聖騎士の剣、ハレッシュはズフタフ槍。
そして私は杖を手にした。

「人間だったら良いけど―――――」

・・結論から言うと、その願いは打ち砕かれた。

「――――――!!」

鎧を着た騎士が目の前に姿をさらした。
人の形をした・・・いや、
生きている人間の顔じゃない。
もはや一目で人間じゃない事が確認できるぐらいその体は崩れていた。
・ ・・リビングデッド・・・生きている死体。

「・・・・・・・・・・」

眼球があるべき所にある空洞がこちらを向いている。
唯一残った左手に持った剣を地面に引きずりながら、
ミシッ・・・・ミシッ・・・
こちらへ向かって足を引きずる。

「ああ!!、・・・・ああああ」

「ハレッシュ!!何ぼうっとしている!!」

相手の姿を一目見て、顔面蒼白の状態で金縛りにあったハレッシュの前に立つクーゲル。
そして。

「くらえ!!」

クーゲルの放った突きが鎧ごと相手を簡単に貫いた。
間には心臓があるはず。即死。これが普通の相手ならば。

「防御のすべも忘れたか・・・・」

「・・・・・・・」

狙うべき相手をクーゲルと認識した魔物は
刃を体に突き刺されたまま
持った剣をゆっくりと振り上げた。

「ぐ・・・剣がッ」

必死になって剣を抜こうとするクーゲル。
そしてその間にも凶刃が彼に振り下ろされようとしていた。

クーゲルさん!!手を放してすぐに離れて!!

「――ッ!!イングリド先生!!」

クーゲルが離れたのを見計らって必殺の呪文を唱える。

「シュタイフブリィィィィィゼッッッッッッ!!」

召喚された雷が振り上げられた刃を伝って体に流れる。
魔物は瞬時に炭化した。

「助かりました先生。・・・・しかし報告どおり恐るべき生命力を持った魔物だ。
奴らには剣が通用しないのか・・・」

「ハレッシュ。大丈夫?」

「・・・・・・・・・・」

「ハレッシュ?」

炭化した死体をみて彼は言った。

「・・・・・こいつは・・・俺の親友だった奴なんです。
一緒に酒をのんで・・どっちが先に聖騎士になれるかとか、
今度の隊長の活躍がどうだった・・とか・・
・ ・くだらない・話を・・一緒に・・・また・・一緒にできると思っていたのにッ!!
・ ・クソォッ・・チクショォォォォ!!」

絶叫。感極まった彼が今にも涙を流そうとしたその時。

「ハレッシュ。悲しみを隠す必要はない。今は泣け。」

「・・・いえ。今は勤務中です。泣くのはこの仕事が終わってからにします。
先ほどは自分の失態で危険な目に会わせて申し訳ありませんでしたッ。」

・・・魔女メディアよ。あなたの悲しみがどれだけ深いかは解からない。
だが、だからと言って相手を悲しませていい理由は無いはずだ。
・ ・・魔女メディアよ。あなたがこれほどまで怒りを覚える理由は何?
私達はその原因があると思われる「廃棄物投棄場所」を目指すことにした。

―――――そこには人が死んだ数だけ先の魔物がいるだろう――――――

王国暦301年 6月6日
メディアの森・捜索隊キャンプ跡地

「よし。この広場についたら、もうすぐだ。日が暮れる前に採集場所を目指すぞ!!」

「あれ?誰かここでキャンプをはっていたみたいですね。」

「まぁキャンプを張るにはちょうどいい場所だからな。珍しくもない。」

「でもちょとおかしいですよ・・なんか数日間ほったらかしにした様子ですし。」

「帰ったんじゃないの?」

「テントを張ったままですか?それに見て下さいよこの鍋・・・・。」

「・・・・うわぁ。中身がかなりヤバクなっているな。間違い無く賞味期限切れだ。」

「食事の途中だったんですよ。どう考えても異常事態です。どうしましょうか・・・」

「ほっとこう。」

「え?」

「え?って・・・たぶん動物に襲われたんだろう。骨探すのだって困難だ。
もしかしたら急いで逃げたのかもしれないし。特に俺らにできる事はないよ。
ま、できる事としたら騎士隊に通報する事ぐらいだろ。」

「・・・騎士隊・・・・?」

・・ザッザッザッザッザ・・・

「ちょっと、待ってください・・・騎士隊・・・・
私達の目的地・・・産業廃棄物が採集できる場所・・・・・
廃棄物投棄場所・・・・?―――――――――アッ!!!」

・・ザッザッザッザッザ・・・

「酒場の噂話!!」

「・・・なにそれ?」

「知らないんですか?ゴミを捨てに行った騎士隊が行方不明になって
捜しに行った捜索隊も全員帰ってこなかったって言う・・
・・・ゴミを捨てに行った所は私達の目的地。このキャンプ跡は・・」

・・ザッザッザッザッザ・・・

「捜索隊のキャンプ跡。って訳か。なるほどね。
じゃ、謎が解けたって事で目的地に急ぐと致しますか。」

「ちょっと待ってください!!噂では正体不明の怪物が徘徊していて
ごみ捨ての騎士隊も捜索隊も全滅したって・・・
キャンプのこの有り様だって・・きっと食事中になにかに襲われたんですよ!!
もっと慎重に行動しないと!!」

「正体不明の怪物?・・・バカバカしい。今までそんな気配はなかったぞ。
一体どんな怪物だよ。」

ガサッッッッ!!
茂みからキャンプ場に踊り出たそれを一目見た二人はつぶやいた。

「・・・あ・・・あれが・・・騎士隊を・・・?」

賞味期限切れか・・・あーあ。アレじゃあ調合材料になりゃあしねぇ。」

・・・念の為に言っておくが、彼に男色の気はない。

「せ、先輩ッ・・・!!」

存在するはずの無いものを見て恐慌に駆られた彼女は
マイヒルにしがみついた。

「ヴァネッサ。下がってろ。」

自分の後ろへ彼女を追いやり、杖に手を掛けるマイヒル。
そして・・・

「魔力(まりき)ッ!!地獄の業火(じごくのごうか)ッ!!」

杖の先端からでた炎がそれを包む。
それは炎に包まれながらもおぼつかない足取りで
二人ににじり寄って来たが・・・・たどり着く前に灰に帰した。

「はあー。助かった――――。」

そうつぶやいてその場にへたり込むヴァネッサ。

「さて、消し炭でも頂くか。」

上機嫌で死体に近づくマイヒル。・・・・彼は完全に油断していた。
死体の前にかがんだまさにその時。彼の近くの茂みから・・
ガサッッッッ!!
無防備な所を取られてしまった。
相手はすでに刃を振り上げている。

「仲間がいたのかッ!!」

マイヒルが振り向くが速いか、
振り下ろすのが速いか・・・

次の瞬間

ぼとり。

マイヒルの首は

地面に

落ちた。


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