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クライス空白の時間 Vol.4

作:マサシリョウさん


#1.アカデミーショップ前

「姉さん。」
「あら、クライスじゃない。マリー達と一緒じゃないの?」
「なぜ私が彼女の荷物持ちをしなければならないのですか? それに私にはするべき事があります。」
「なによそれは?」
「事件の捜査ですよ。」
「彼女達と一緒にすればいいじゃない。」
「冗談じゃない。ルーウェン君はともかく、彼女と一緒に作業をしようものなら、足を引っ張られるに決まっています。」
・・・犯罪捜査は常に危険と隣り合わせだ。
“彼女を危険な目に合わせたくない”
と言うのが本音だが、今の彼にはまだその結論は出せなかった。
決して荷物持ちをサボりたい訳では・・・それもあるか。

「それに、今の段階では聞きこみぐらいしかする事が無いので、私一人でも大丈夫でしょう。」
「・・・クライス。マリーをちゃんと信用しなさい。さもないと、友人を失う事になるわよ。」
「・・・姉さん、友人というのは、対等の立場にある者の事を言うのです。少なくとも、彼女と私では、私の方が立場は上です。訂正してください。」
もちろん本気で言っているわけではない。
「・・・さもないと、唯一の貴重な友人を失う事になるわよ。」
意地悪な返事をするアウラ。美人でもクライスの姉だ。
「・・・・・・」
そして、言い返せないクライス。(←おい。)

「で、聞きたい事は、何?」
「まずは・・・事件が起きたのはいつですか?」
「そうねぇ・・・最初に気づいたのは2週間前かしら? それから5回、2、3日おきね。」
「詳しい日時を教えてください。」
話を聞きながらメモに記入をしていくクライス。
「それと、出来れば盗まれた品物を教えてくれませんか?」
「えーと、それは・・・」
話を続けるアウラ。それを聞いた彼は、
「・・・・なぜそんな物を。」
盗まれた物は、『魔法の草』、『ズユース草』、『へーベル湖の水』、『フェスト』、『カノーネ岩』
いずれも初等錬金術材料である。しかも・・・
「そうなのよ。しかも一度に盗み出す量と言うのが・・・」
少量だった。小さなかごに入るぐらいの量らしい。
「犯人の動機がさっぱりわかりません。まぁ、普通ならわからない方がいいでしょうが。」
犯人の動機を示す重要な手がかりを得たクライス。

思わず顔がすこしほころぶ。その時。
「にゃーん。」
「えっ?アカデミーになぜ猫が?」
「あっ、それは・・・(また説明するのね・・・)」
マリーに言った事をクライスに話す。
「そうなのですか・・。姉さん、あまりわがままなことはしない方がいいですよ。そんな事だから、アカデミー当局に目を付けられるのでは・・・?」
「違うわよ!これは職員も同意の上だし、それに目を付けられている理由は別よ!」
普段の彼女からは考えられない剣幕で答えるアウラ。
その時アカデミー内の時が止まった事に、話に夢中の二人は気づかなかった。

「そういえばなぜ・・・動機から見ても、姉さんが犯人ではない事は明白なのに。」
「それは犯人の侵入ルートよ。」
話はこうだ。
アカデミーのショップは1日の店じまいをする時、施錠をし、その鍵を職員に預けるのだが、店の鍵が壊された形跡が無かった。しかもアカデミーの鍵も・・・
「ひどい。それでは侵入ルートがわからないから疑われているようなものじゃないですか!!」
怒りに震えるクライス。その時、第三者の声が。

「あのー」
「はい?」
姉弟揃って返事をする。
「買い物をしたいんですが・・・」
見ると、お客さんが並んでいる。
「すっ、すいません、今すぐにっ・・・。クライスっ、そう言う訳だから、またあとで・・」
「わかりました。姉さん、邪魔をしてすいませんでした。また来ます。」
他の場所へ行こうとすると、ふいに後ろから・・・

「クライスさーん、がんばってアウラさんの無罪を証明してください。応援してまーす」
「俺も応援するぜっ!!」
「私も応援するわ!!」
「まぁ、貴様は気にいらんがな・・・アウラさんの為だ・・・」
「どーでもいいけど、俺をうたがうなよ!!」
いろいろな所から湧き上がる声。
「あっあのー、皆さん?もしかして今までの会話・・・」
「聞こえていたよ。」
その場にいた生徒全員の声がハーモニーを奏でる。
・・・いきなり第3者に捜査情報が漏れるこのありさま・・・
こんな事で捜査がうまく行くのだろうか?
そんな不安に駆れながら、クライスは次の場所へ行く。

この時点でのクライス捜査メモ。
1.犯行日時、時刻。
2.そのとき盗まれた品物、その量。
3.『アカデミーショップの鍵が壊されていた形跡が無い』と言う事実。

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