家庭の窓
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ある個人病院でのお話です。お医者さんは隣接する自宅に住んでいます。夜中に若い女性看護師さんからの緊急電話でお医者さんがたたき起こされました。急いで病室に入ると,心配をよそに患者さんはケロッとしています。看護師さんは身を縮め目で謝っています。お医者さんは文句の一つもいいたい所でしょうが,決して叱らず「よかった」とニコニコして帰って行きました。
若い看護師さんは得だなという下世話なセクハラまがいの感想は別として,この話は大切なことを教えてくれます。もしお医者さんが無駄足を踏んだということで嫌な顔をしたら,また同じ事態が起こったとき,看護師さんはお医者さんをすぐに呼ぶことをためらい「もう少し様子を見てから」と待とうとするでしょう。その静観する時間が致命的な遅れになる可能性もあります。
病院は患者さんを優先すべきなのに看護師が医者に気兼ねをするようでは困ります。だからお医者さんはニコニコと笑顔を見せて,患者さんの無事,患者さんの人権を優先する態度を示していたのです。
会社に限らず様々な組織で働いているとき,ともすれば身内の人間関係を優先して,組織が本来優先すべきである顧客を後回しにすることがあります。それは結果として,組織の存在を脅かす不祥事となって現れ出てきます。お客様は神様であると言われたりしましたが,お客の人権を守るという風に考えてみることも,仕事に対する気構えをする縁になるかもしれません。ただ,お客になる方が自分は神様であると勘違いするのは,筋違いなことはいうまでもありません。
コロナウイルスへの感染を怖れて,医療に従事している方々や関係する人たちを排除しようとする動きが現れました。お互いに対して余計な気遣いやささやかな邪推などをしないで,共に病気に向かい合うことが大事だと思えるようになりたいものです。ソーシャルディスタンス=社会的距離を保つようにしようといわれていますが,幾分意識過剰になる危険性があります。人間的なつながりを断つという差別までに行き過ぎてしまうのです。人としてのつながりは保ちながら物理的な間隔を保つということで,フィジカルディスタンスという方が無難なようです。
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