家庭の窓
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モンテーニュの著したエセーの中に「しかめっ面のお医者がうまくいったためしがない」とあるそうです。患者は診察をしてくれた医者がしかめっ面をしているとよくない結果を読み取り不安になります。患者の気持ちが弱くなっていることを思いやることができないと,気づかないうちに小さなハラスメントをしでかします。医者は病気を治せばいいと思っているのかもしれませんが,病人を治すと考えるようにすれば思いやりを表すことができるはずです。
嫁の味付けが薄いという声があります。60歳を過ぎると味センサーである味蕾の半分を失うそうです。におい感覚も4割減退します。身体機能が変化しているのですが,そんなことは思いもしないでしょう。その思い違いの結果として味の薄いのは嫁のせいとあらぬ責めを口にします。自分のことを棚に上げるというのは陥りやすい弱さであり,そんなつもりではないはた迷惑というハラスメントがまき散らされます。汝自身を知れという知恵が他者への思いやりの前提になります。
国民の祝日の1つに「こどもの日」があります。1948年に定められた法律では、「こどもの人格を重んじ,こどもの幸福をはかるとともに,母に感謝する日」となっています。子どもにとってのこどもの日は,母への感謝を思い起こす日であり,母の愛を糧に育った自己を見つめる日です。育てられた自分,その強い認識があれば生かされている自分という人間観のページが開かれて,人を人として認める思いやりが登場することでしょう。
物事がうまく運ばなかったり,あるべき姿から逸脱しているときに,灯台もと暗しのように,その原因が自らにあることには気付きにくいものです。人の振り見て我が振り直せという言葉を思い出せば,人の不始末はよく見えるので,それを自らの反省とすることによって身を正すことができます。そのためには,先ず世間の不始末を見聞きするときに,他人のことと眺めているだけで,自分は大丈夫と自信過剰にならないように気をつけたいものです。
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