《有難い 身振り手振りに 思いやり》

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 「行ってらっしゃい」と声を掛けながら,出かける人を手を振って見送ります。この手を振ることの意味は何でしょう。そんなことを知らずに手を振っていては,気持ちがこもらないことでしょう。
 奈良時代の女性の衣装には薄い布のヒレがあり,振ることで神の霊力を招き寄せるまじないがありました。そこから袖を振って旅立つ人に神の加護を仰ぎ安全を祈る習わしになりました。その思いやりの気持ちが袖が無くなっても手の動きに残されているのです。
 手をかざすといえば,おまわりさんの敬礼がありますが,あの形は何を意味しているのでしょう? 中世の騎士は覆面付きの鎧を着けており,すれ違うときに悪意のないことを示すため,覆面を挙げて顔を見せ合っていました。覆面を挙げるためには手を顔の前に持っていかなければなりません。この騎士の作法が鎧を纏わなくなっても残って,敬礼となって受け継がれているということです。
 エチケットや作法という言葉は消えてしまい,形を無くしてしまうと込められていた思いも失われていきます。向き合ってお辞儀をした後に身体を起こすとき,早すぎても遅れても落ち着きません。作法では,身を起こすとき途中で止めて,相手が身を起こすのを待って一緒に顔を上げるようにします。作法はお互いを気遣う心配りの表れです。
 面接相談の際に,相手の目を見つめると威圧感を与えることになり,失礼になるということもあります。小笠原流作法では「目通り・乳通り・肩通り」が勧められます。上辺が目の辺り,下辺が乳の当たり,左右辺が肩の辺りの四角形の中を見るということです。
 暮らしの中に受け継がれてきたお互いに対する敬意を示す仕草を身につけると,人との関係がまろやかになるのではないでしょうか。コロナ渦の中でフィジカルディスタンスを保つときに,身振り手振りの気持ちの伝え合いを思い出しています。

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(2021年01月17日:No.1086)