家庭の窓
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身分制度があった昔,歌舞伎役者は士農工商の下の地位でした。ところが,歌舞伎の人気が高まってくると,幕府は良民身分と認定して,役者も表通りに居を構えることができるようになりました。表通りの家は商家と相場が決まっていて,役者は菓子屋,小間物屋などをはじめて,商家の仕来りにしたがい屋号で呼び合うようになりました。歌舞伎役者が屋号で呼ばれているいわれです。
江戸時代,歌舞伎は日没前に終演しており,長い出し物は早朝開演でした。そこで,役者や裏方が顔を合わせるのは朝方になり,挨拶は「おはようございます」となります。この「おはようございます」の挨拶は伝統として残ったそうです。
この話には追加もあります。世間では,昼のあいさつは「こんにちは」,夜は「こんばんは」ですが,芸能界のような厳しい縦社会では,先輩に「こんにちは」と対等な言い方はためらわれます。「おはようございます」だけが,唯一丁寧な言い方なので,芸能界では昼でも夜でも夜中でも,「おはようございます」と挨拶するようになったそうです。
世間の端々には他者によかれと願う暗黙の了解があり,意図して伝えなければ,廃れていきます。人は時に他に悪かれと思うことがあります。「誰も思考のかどで罰を受けることはない」というローマ法起源の格言があります。何を思っても自由であるというのは,人権の基本の一つです。たとえ悪しき思いであっても,それ自体を咎めることはできずに,具体的な行動になればそこで罰が発動します。
どうすればいいのでしょう。その問題に応えてきたのが,先人が産み出してきた仕来りです。悪しき思いを良き思いで上書きするということです。それが伝統を受け継ぎ,文化という暮らし方に幸せを紡いでいくことになります。
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