家庭の窓
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「苗代は 肥えたる土に 風の淀 絶えぬ流れを 受けてこそよき」。稲が風にそよいでいるのは心和む風景ですが,稲はまっすぐ立っている方がよく,風が淀んで吹き抜けていかないところがいいということです。さらに,引き込んだ水が絶えずに流れていくのがよいというのです。
「日照りには 朝夕はらえ 畑の草 日のなか取るな 作りいたむぞ」。日が照っているときは暑いので,朝夕の涼しいうちに草を取れというのではありません。後の句が大事です。昼間は土が乾いていて,雑草を根から取ると,小さいながらも土にヒビが入ります。それが集まると,そこから水分が蒸発して,やがて不作になるという教えなのです。
「たね蒔時(まきす) 知らずば桃の 花に聞け 半ば咲きする 折が蒔きなり」。桃の花が半開の時が,苗代にはいいということです。年によって花の開きに遅い早いがあっても,花は正直ですから,その年の天候を教えてくれます。それに応じて苗代に種をまくのは,自然のことわりです。
八十八夜前後とか彼岸前など,暦を基準にして農耕の流れを考えてはいるのですが,暦はいわば絶対時間であって,実際の季節の移ろいはその年の気候によって差異が生じるので,目安にするのは草木の様子の方と理に適っているというわけです。
佐瀬与次右衛門が書いた「会津農書」は評判になりましたが,読んだ人から「書物は退屈するので,覚えやすいように日常使っている言葉の和歌にしてほしい」と薦められ,和歌にしたのが「会津歌農書」だそうです。
暮らしに端々で迫られる判断では,基準となる目安が必要になります。その都度資料を参照することもできますが,覚えていると即座に即効的に役立ちます。覚えやすい言葉と覚えやすい形,和歌の形が選ばれます。今でも標語は俳句調が主流です。
童謡や演歌の歌詞は5・7調なので覚えやすいのですが,最近の若者の歌は単純ではなく字余り気味なので,覚えられないといった気がしています。記憶力の衰えを字数のせいにしているのかもしれません。
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