家庭の窓
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ご飯をつぐ,ご飯を盛る,ご飯をよそう,普段どのように言っていますか? 本来の言い方は,ご飯をよそうです。よそうは装うであり,ご飯に対する感謝の気持ちから生まれた言葉です。器にただ入れ込めばいいというのではなく,形美しく整えてあげるという気持ちが添えられています。「ご飯を装う」という言い方を意識すれば,きっとご飯がおいしくなることでしょう。
今日のお昼は何を食べようか? 考えるのは「おかず」のことです。ところで,おかずとは主食の米のご飯があって,味噌汁以外の料理を言い表す言葉です。ご飯のない洋風の料理をおかずとはいいません。また,おかずは御数と書き,たくさんあるという意味があります。その他大勢といったニュアンスもあるので,ステーキがあってもその他大勢の一つという脇役でしかありません。食材が片寄らないように気配りが込められた言葉です。
「腹八分に医者いらず」と食べ過ぎを控える言葉があります。これには続きがあって「腹六分で老いを忘れる」と,高齢者への気配りもあります。さらに,ゆっくりよく噛んで食べることも勧められます。満腹感は食事をはじめて20分ほど経過しないと出てきません。少し控えめに,そして20分以上の時間を掛けることで,適量の食事をすることができるのです。早食いはからだの毒なのです。
人が生きていく上で大事なことが,ありふれた言葉の中に込められています。何となく使っている言葉を時々きちんと意識してみることも,生きる姿勢を立て直すきっかけになるかもしれません。
食事には箸を使います。箸の語源には諸説があり,棒の端(ハシ)の方でつまむので「はし」に,鳥の嘴(クチバシ)に似ていたから,挟む(はさむ)役割から転訛し「はし」に,「橋」などの見た目から「はし」になったということです。
ナイフ,フォーク,スプーンのように,それぞれが切る・刺す・すくうの単一の機能しか果たさない「道具」に対して,箸は二本一組の「一膳」で「つまむ,はさむ,押さえる,すくう,裂く,のせる,はがす,ほぐす,くるむ,切る,運ぶ,混ぜる」といった12もの機能を果たすことのできる「器官」なのです。他人に自分の箸を使われるのを嫌うのは,箸が指先・手先以上の働きをする第二の器官としてとらえる民族性が今も受け継がれているからと考える人もいます。
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