家庭の窓
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母校のアマースト大学に講師として勤めていたクラークは,南北戦争が始まると,リンカーンの奴隷解放政策に共鳴し,3年間義勇軍の一兵士として戦場に赴き准将まで昇格しました。その後,復職した同大学で初の日本人留学生として同志社大学を創立した新島襄と出会い,その新島の紹介を受けた日本政府がクラークを招聘しました。
クラークといえば,滞在8か月で日本を去るときに,「Boys Be Ambitious! Like this old man」(この老人のように,君たち若者も野心的であれ)という名言を残しています。アンビシャスという言葉は「野心」の意味合いが強いそうですが,翻訳した人が若者には「野心」よりも「大志」の方がふさわしいと気を利かせて「大志を抱け」としました。
帰国したクラークは大学を辞職し,ニューヨークに移って洋上大学の設立を画策しましたが,生徒が集まらずに断念します。その後,知人・縁者から資金を集めて鉱山会社を設立しましたが,あっけなく倒産しました。裁判に敗れショックから心臓病を患う羽目に陥り,日本から帰国後9年,59歳で亡くなります。葬儀は「山師」という悪評のためにひっそりと執り行われました。
アンビシャス,野心を持っていた老人がたどった顛末を思うと,若者に野心を持てと言うことはためらわれます。翻訳者の言うように,野心ではなく大志の方が,激しさは削がれますが堅実に思われてきます。どのようなキーワードを選んで使うかによって,行動の色合いが左右されるようです。
乱暴は言葉を使っていると,行動も乱暴になっていきます。穏やかな言葉に馴染んでいると,行動も穏やかです。言葉は人間関係をつなぐ手段ですが,その基本的な機能は分かり合うということです。乱暴な言葉と穏やかな言葉が交わされても,分かり合えません。乱暴な言葉は乱暴な言葉と共鳴しやすく,類は友を呼ぶと言われるように,行動の似た者が連んでいくことになります。
乱暴な言葉と穏やかな言葉の違いは,自制が効いているかどうかの違いです。わがままを表現すれば乱暴になります。欲望を控えることができれば,穏やかに言葉を選んでいきますので,優しくなれます。優しさは他人への気配りに転換するので,お互いの心が開かれていくので,分かり合おうという気持ちになります。言葉は表現と言われますが,それは人間関係を紡ぐ基礎になる材料です。選んだ言葉によって,人との関係模様が大きく異なっていきます。
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