《有難い いじわるな目を 自分にも》

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 昭和初期に多彩な才能を見せた北大路魯山人は,名声と実態の間に隔たりのある文化人を嫌って,「だいいち,面が貧相だよ。食うもの食ってない証拠だ」と罵倒していました。食に絶対の自信を持っていた魯山人は,ビールはある会社の銘柄一辺倒で,拮抗しているビールは,それを造っている会社の社長も含めて大嫌いでした。
 日本の古美術の理解者で,愛陶家でもあったスウェーデン人のトルエドソン夫人がこのことを知って,ある日,魯山人を招待してビールを出しました。「ソノビール,オイシイデスカ」と問われた魯山人は,「ビールはこの銘柄に限ります」と答えて,うまそうに飲み干しました。ところが夫人は,「アナタニハ、ビールノアジガワカリマセン」と言って,種を明かしました。実はそのビールは,びんは魯山人の好みのビールのビンでしたが,中身は彼が一番嫌悪していた会社のビールだったのです。
 幽霊の正体見たり枯れ尾花。思い込んでいると,事実を見間違えたり,見えなくなります。込み入った話をしているとき,寄り添うつもりでつい話し手に肩入れしていきます。相手方があるときには,一緒になって憤慨することもあるでしょう。その思い入れを持ったままで相手方と話すことがあると,事情を聞き間違えるかもしれません。中立的第三者の立場でいるためには,冷静な判断を心掛けて,思いという心情的なフィルターを外すことが肝要です。偏見に基づいた予断にとらわれることがないように留意しなければなりません。
 さまざまな環境や集団から垂れ流すように溢れている情報に囲まれて生活するうち,私たちは知らずしらずのあいだに自分の意識に刷り込まれる「価値観の偏り」を持たされてしまいます。それを「アンコンシャスバイアス」,直訳すると「無意識の偏見」といって,コミュニケーションの問題として話題になっています。その一つのパタンに,ハロー効果があります。好感を抱いた人物の考えや行動を,疑うことなくすべて肯定してしまうことを指します。
 好感を抱いた人の行いを肯定することは自分自身を肯定する気持ちにもつながりやすく,たとえ違和感を抱いたとしても「この人が言うならば間違いない」「この人を疑うのは間違っている」という気持ちで,違和感を押し留めてしまいがちです。その結果,思考が相手に大きく依存し,主体的に判断することをしなくなってしまいます。
 ハロー効果を回避するためには,「この人がどのような背景を持ち,どのような立場にあるのか」「どのような意図をもってメッセージを発しているのか」「その行動を通じて,何を達成しようとしているのか」といった洞察の気持ちを持って向き合うことが大切です。もちろん,自分自身にも同じ目を向けていくことを忘れてはいけません。相手を見る目と自分を見る目が同じでないと,偏りを消すことはできません。

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(2022年07月03日:No.1162)