《有難い 言葉つないで 新世界》

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 平賀源内は無類のウナギ好きでしたが,貧乏学者の身ではいつも欲求不満気味でした。ウナギ屋で蒲焼き作りのアルバイトまでする始末で,ある日店の主人が「源内さん。このところウナギの売り上げが落ちている。パーッと売れるよい方法を考えてうまくいったらお腹いっぱいウナギをご馳走するよ」といわれていました。
 ある殿様から蒲焼きの大量注文が舞い込み,1日では作りきれないので,子の日,丑の日,寅の日の3日間せっせと焼きました。蒲焼きは土がめの中に密封され,床下に蓄えられました。ところが,納品日に出してみたら,子,寅の日に焼いた蒲焼きは傷んでしまっていました。丑の日に焼いた分だけはちょうど食べ頃だったのですが,これも気まぐれの殿様がキャンセルしてしまいました。
 損害を最小限に食い止めなければと迫られたとき,源内の頭にひらめくものがありました。土用の時期はみんな夏ばてしている。精力回復の効有りとして売り出してみようと考えて,「土用の丑の日,ウナギを食べて元気になろう」という売り言葉が誕生しました。
 お腹いっぱい食べたい一心という状況におかれて,一方で売れ残りそうなウナギという瀬戸際に面して,源内は「丑の日のウナギ」という新たな価値を創造した言葉を考え出しました。困った状況とは身動きが取れなくなることです。そこに,新たな視点による道案内が登場して1箇所が動けば,物事全体が動き始めることになります。「丑の日」と「うなぎ」という全く無関係な言葉をつなぐだけで,新しい視点が手に入り,私情と商売の窮状が救われたのです。
 安いお茶をいれると細いお茶の木が浮かびますが,それを「茶柱が立つと縁起がいい」という口上を考えたことで,お茶屋さんが売れ残りを解消できました。今では,科学的根拠がないとして否定されるでしょう。それでも,そう思ってうれしくなれるのなら,それでもいいでしょう。
 窮すれば通ず,といわれますが,その一つの道が,新しい価値を付与することです。お茶やウナギという飲食するものに,縁起や精力という別次元の価値を付加しています。当然にキャッチフレーズにするためには,それなりの言葉を使いますが,互いに何の関係もなかった言葉をつなぐことで,それまで無かった世界が構築されます。

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(2022年07月10日:No.1163)