家庭の窓
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ジョージ・ワシントンがアメリカの初代大統領に選ばれたとき,その妻マーサは当惑しました。大統領夫人としての振る舞い方の前例が全くなかったからです。自身でしきたりを作り出すしかありません。
まず,大統領に夫が就任後,最初のレセプションで,マーサはお茶とお菓子で客をもてなし,気軽に客たちの間を歩き回って話をし,できるだけ質素で民主的な雰囲気を作り出すように努めました。すると「あれでは少し品がない」という批判が出ました。それではと,次のパーティでは少し贅沢をすると,今度は「王様の真似をするな」と非難されました。万事がこの調子で,マーサの気疲れも相当なものでしたが,なんとか夫の体面を傷つけまいと頑張りました。
また,マーサは飾らない気さくな性格で,政治問題にはけっして口出しをしませんでしたが,夫の仕事に無関心というわけでもありませんでした。ワシントンと副大統領のアダムスの間は,ともに自我が強いこともあって,とかくギクシャクしていましたが,マーサは親友のアダムス夫人アビゲールと協力して,それぞれの夫たちが仲良くするように力を尽くしていました。
こうして,マーサは次第に人々の愛情と尊敬の念を得るようになり,官邸を訪れる人たちが快いもてなしに感激するようになり,国の母となっていきました。
東京オリンピックの招致の際に,おもてなしが日本の歓迎の意としてのキーワードになりました。客人を迎える場面では,そこまでやらなくてもと控えれば気持ちが届かずに,そこまでやるかと頑張れば余計な勘ぐりを受けかねません。ほどほどのところで思いきって中くらいの快さを保つことが,おもてなしの誠意のようです。
客人の側について,抑えておくべきことがあります。控えめにして物足りないと言う客は,贅沢にしたときは何も言いません。贅沢にして過ぎると言う客は,質素にしたときは何も言いません。要はそれぞれ自分の期待と違う場合のみに,感想が表現されます。二つの意見は同じ客から言われているのではないのです。どちらの客にも満足のいくもてなしは無理なので,どちらの客に対してもこんなものかと気の済む程度にするしかないのです。
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