家庭の窓
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ドイツ人医師のゴアリッツが担当する患者の中に,部分麻痺の若い士官がいて,いつもリハビリのための散歩に付き合っていました。あるとき散歩の途中で急用ができて,患者は一人で残りの道のりを歩くことになりました。覚束ない足取りで歩いている患者を見て,医師の愛犬エクセルシオールが病院に駆け戻り,患者の杖をくわえてきました。医師が戻ってきたとき,エクセルシオールが患者をゆっくり先導して病院の前の芝生を横切っているところでした。
ゴアリッツ医師は,犬がこれほど利口なものなら,訓練しだいで視覚障害者の先導もできるのではないかと考えて,実験を提案しました。第一次世界対戦終了後,政府の援助を受けて,ポツダムに訓練センターが常設されました。盲導犬の誕生です。
盲導犬は目的地まで連れて行ってくれるのでしょうか? そう思っている人もいるかもしれませんが,盲導犬はカーナビではないようです。「郵便局まで連れて行って」と盲導犬に言っても,盲導犬は困ってしまうだけです。それでは,どのようにして利用者と盲導犬は目的地まで行くのでしょう。利用者が目的地までの地図を頭の中で描きながら,盲導犬に指示を出します。一方で,盲導犬は主に5つのお仕事をしてくれます。それぞれが役割を分担しながら,協力して目的地まで行くのです。
盲導犬の仕事は大きくわけて5つあります。「道の端を歩くこと」,「道にある自転車やすれ違う人などの障害物をよけること」,「十字路などの道の角で停まること」,「階段など段差の手前で止まること」,「人の指示した方向に進むこと」です。つまり,地図上の直線を誘導し,方向転換の角を教えることです。どちらに向かうかは利用者が指示することになります。
人を支援するときに気をつけておくことは,決めるのは本人であるということです。良かれと思って代わりに決めてやることは,余計なお世話になります。人の日常はたくさんの選択があります。最も基本的なものは「するか,しないか」です。朝の目覚ましの助けで、起きるかどうかの選択を迫られます。時間の経過の中で,朝食をとるかどうかの選択もあります。天気予報を見ると,傘を持って出かけるかどうかの選択があります。
便利になった世間とは,いろんな手間を提供して助けてくれます。ただそれをどのように受け止めていくかは、それぞれが決めなくてはなりません。自分は何をしようとしているのか、どのように生きていこうとしているのか,その道筋に沿って、その都度の選択をすることになります。目的を持って決める,それは任せるわけにはいかないのです。
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