《有難い 思いそれぞれ 分かり合え》

Welcome to Bear's Home-Page
ホームページに戻ります

家庭の窓にリンクします! 家庭の窓


 慶應義塾大学の創設者である福沢諭吉は,大の酒好きで,とりわけ当時は珍しかったビールがお気に入りでした。「西洋衣食住」に「ビィールと云う酒あり。是は麦酒にて,其味至て苦けれど,胸郭を開く為に妙なり」と書いています。飲みニケーションには最適の酒ということでしょう。一方で,健康面を気遣って何度も禁酒にも挑戦しています。
 ところが,挑む禁酒は失敗の連続で,禁酒で口寂しくなって,タバコを吸い始めてしまいます。あれこれがあったその揚げ句,ある言葉を残して禁酒に成功をしました。「ビールは酒にあらず」。ビールはアルコールではないと豪語し,強引に禁酒に成功したことにしたのです。
 禁酒中も酒ではないビールを毎日飲み,メーカーに味のことでクレームの手紙まで出していました。分かっていながらも止められない自分に対して,無理矢理に納得させてしまう諭吉。誰のせいでも,誰に及ぶものでもなく,我が事限りとして,見事に完結しています。
 ビールは酒にあらずとは,口ではなんとでも言うことができます。もちろん,この言葉は正しくはなく,他人と共に住む世間では通用しません。言葉は言っている人に拠るので,私にとってビールは酒にあらず,となります。大事なことは,自分だけの言葉であることを自覚していなければなりません。
 コミュニケーションの研修などでは,メッセージは,アイ(I)メッセージとユウ(You)メッセージに分けられると教わります。言葉は話す人に拠るので,基本はアイメッセージですが,それを意識しないままにユウメッセージにして使うから,混乱をしてしまうことが起こります。私はこう思う,考える,感じると表現し,あなたはそう思って,考えて,感じているんだと聴き取るようにすることが,今の時代の特徴である多様性に通じる作法になります。
 私は悲しい。悲しいのはあなたであって,私は悲しくない。私はこう思う。あなたはそう思うのであって,私はそうは思わないで,ああ思う。今日は寒い。あなたは寒いようですが,私も寒い,と言う場合もあります。私のことをそれぞれに言っている間はいいのですが,あなたはこうだと言うことは余計な言い方です。あなたと私は違うと言うのはいいのですが,あなたは間違っているというのは,越権となるお世話です。誰であっても私のことをあなたにとやかく言われる筋合いはないのです。
 私はこう思う。あなたがそう思うように,私もこう思う。そういう同じ言葉でつながる人がいても,別のことでは違うというのが普通です。全てのことで同じ言葉になる人はいるはずもありません。一人の人の中でも多様性が現れるのです。自分に向けては,どんな風に言葉を向けてもいいかもしれませんが,他者に向けては言葉を突きつけることがないようにしたいものです。

ご意見・ご感想はこちらへ

(2023年10月29日:No.1231)