《算数を 上手に使い よく生きる》

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 どんなものであれ数量を使ってできる計算は加減乗除の四則です。多数決は足し算です。数の合計が多い方で決まります。人が身につまされる損得勘定は引き算です。黒字であれば御の字です。男女を掛け算すれば子どもが誕生し,長寿を全うすれば遺産は割り算です。
 88×96は? はは(88)に苦労(96)を掛ける(×)と読みます。問いかけ(?)は,どこにも計算しなさいとは言っていません。受け取る方が勝手に計算問題と勘違いする,他愛のない引っかけです。これに似たことは暮らしのあちこちに見受けられます。
 「お出かけですか?」。途中の道筋で知り合いに会うと尋ねられることがあります。あなたがすることに関心を持っていますよ,という親しみからの表現です。問われた方は,こちらの用件が相手にも何らかの関係がある場合には「例の件で今から打ち合わせに」などと答えます。相手は「それはたいへんですね。ご苦労様です」と見送ってくれます。相手と何の関係もないことであれば「ちょっとそこまで」とお茶を濁します。「そうですか,お気をつけて」と,何だか分からないままですが会話は滞りなく終わります。相手との間合いを考慮に加えているので,おつきあいという足し算です。
   「儲け話に乗りませんか?」。よくある詐欺行為ですが,勧誘に来た人が儲ける話ということです。あなたが儲けるとは言っていませんというわけです。どこの誰とも分からない一見の他人に儲けさせようという奇特な人などいるわけはありません。相手が儲けるならこちらは損をするのが引き算です。
 「美味しい?」。 夕食時に問われることがあるかもしれません。作った人が美味しいと思っているということです。あなたのために作ったのだから,と言いたげですが,それは表向きは柔らかですが芯は重たい押し掛けです。同意を求める口調のしつっこさに現れていて,大きなお世話という掛け算になっています。手間暇を掛けた分を取り戻そうとしているのかもしれません。手塩に掛けた子どもが恩返しをしないと愚痴るのも,ついつい掛け算にこだわってしまうからです。世話を掛けた,迷惑を掛けたと思わされる方には,気持ちに負担が掛かります。
 「せっかくしてあげたのに!」。気持ちの割り切れないことが間々あります。「してあげられることはした」,と割り切っておけば,相手に余計な気遣いを掛けなくて済みます。こちらが割り算をすることで,相手の掛け算を帳消しにできるのです。
 加減と乗除はそれぞれセットにしておいた方がいいようです。あれも食べたいこれも食べたい,その足し算の結果は肥満です。食べたら運動をする,その加減が大切です。金はないけど家族がある,仕事はきついがやりがいがある,器量はよくないが気持ちの優しさがある,着飾る衣装は持たないが健康美がある,それが足を知るという生き方です。足し算だけを追いかけていたら,引き算だけにとらわれていたら,破綻するのは当たり前です。

(2002年08月11日号:No.124)