家庭の窓
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代表を務めている福祉関係の組織では,資格取得のための実習生を受け入れています。最初の挨拶の際に,簡単な課題を提供するようにしています。大した意図があるわけではなく,出会いのエピソードの一つになればというだけのことです。先月の実習生には「体温の熱は体のどこから発しているのか?」という問いかけをしました。その背景には,ある思いがありました。
福祉を「ふ」つうの「く」らしを「し」あわせに,と読み解いていますが,その普通の暮らしは見えていません。見えていなければ、関心を持つことができずに,幸せも探すことができません。そこで,普通の暮らしを見つけるポイントとして,生きている上で最も大事な健康,その状況判断としての体温に着目することにしました。
体温を一定に保つことは健康である要件ですが,常日頃人は体温の存在を意識していません。なんとなく熱ぽいなというときに初めて「普通じゃない」と気付いています。では,普段の体温はどのように維持されているのでしょうか? 体温の仕組みは健康の仕組みなのです。その生きるための仕組みを理解することが,健康を維持する前提になります。そこで,先ずは「体温の発生源は?」という疑問の扉に案内をしたのです。
実習生の回答は、どうだったのでしょう? 課題の提供が不完全であったのでしょう,問いの意図が伝わっていませんでした。「心の持ち方ではと思います。思いやりといった気持が温もりとなっていくのでは」といったような回答でした。質問の体温という言葉を人の温かさと受け止めてくれたようで,温かい人には思いやりの心があるという回答になったようです。
説明が必要のようでした。
1.そもそも「体温」とは何か?
体温とは,体内で生じた熱と外部に放出される熱のバランスによって決まる温度のことです。私たちの身体は,外気温が変化しても体温をほぼ一定に保つ仕組みを持っています。人間の体温は約36.5〜37.5℃の範囲で維持されています。個人差はありますが,これは体内の酵素や代謝が最適に働くための温度です。
2.なぜ一定の体温が必要なのか?
私たちの体には多くの酵素が働いており,これらの酵素は適切な温度でないと正常に機能しません。体温が下がりすぎると,酵素の働きが鈍くなり代謝が低下し,体温が上がりすぎると酵素が変性し機能しなくなり,熱中症のリスクが高まって意識障害を引き起こします。
3.体温を生み出す仕組みとは?
私たちの体が熱を生み出すためには,エネルギーを使う必要があります。そのエネルギーは,主に基礎代謝・筋肉の活動・食事によって生み出されます。基礎代謝とは,生命維持のために最低限必要なエネルギー消費のことです。体の60〜70%の熱は,肝臓・心臓・腎臓・脳などの臓器によって生み出されています。 筋肉の活動による熱産生も体温維持に大きく貢献します。運動をすると筋肉が動き熱が発生します。寒いときに体が震えるのは,筋肉を小刻みに動かすことで熱を生み出し体温を上げるためです。さらに食事誘発性熱産生があり,食事をすると消化・吸収の過程でエネルギーが消費され,熱が生み出されます。 特に,タンパク質は熱産生効果が高いため,寒い季節には積極的に摂るのがよいとされています。
4.体温を調節する仕組みとは?
熱を生み出すだけでなく,適切に放出することも重要です。体温が高くなりすぎると,熱を外に逃がす仕組みが働きます。体温調節の中枢は脳の視床下部にあります。ここが体温をモニターし,暑いときは熱を放出し,寒いときは熱を維持するように指令を出します。
体温を下げるメカニズムには,発汗(汗をかく)があり,汗が蒸発するときに熱を奪い体温を下げます(気化熱)。また,血管拡張により皮膚の血管を広げ,熱を外に逃がします(顔が赤くなるのはこのため)。
体温を上げるメカニズムには,筋肉の震え(シバリング)により,無意識に筋肉を動かして熱を生み出したり,血管収縮のより皮膚の血管を収縮させ,熱を体内に閉じ込めたりします(寒いと手足が冷たくなるのはこのため)。
食べ物と酸素を取り込んで,生きる活動をするエネルギーを使うから熱が発生しています。寝ていると筋肉は休みますが,その他の生きる活動が休みなく働き続けているのです。身体の組織はそれぞれの機能を発揮し,全体で連携した活動を生み出しているから,生きているのです。その様子が体温として現れています。
普通に生きているから体温というぬくもりがあるように,社会における普通の暮らしでは,それぞれが何らかの役割を途切れることなく協働しているから,ぬくもりが生まれてくるのです。さらに体温が一定に保たれるように,社会のぬくもりも一定に保たれるようにしなければなりません。程の良さが大事なのです。
それでは,社会のぬくもりの具体的な活動,機構とはどのようなものと想定すればいいのでしょう。その考察が,実習生が今後歩んでいく中での課題になります。
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