《蓄えた 知恵を磨いて 受け渡す》

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 最近,高齢者の方向けの講演を依頼されることが増えてきました。ある組織の副会長職を充て職として背負っていますが,会長が行政の長なので組織の共催する行事に来賓として招待されても公務のために出席できないことがたびたびあります。そんなときは副会長にお鉢が回ってきて,来賓代理として祝辞を述べなければなりません。そのような場にかなりの数の高齢者が出席されています。
 短い祝辞ですが,型通りの内容はそこそこにして,少しばかりアレッと思わせるような内容のお話を忍ばせています。聴く人へのサービスです。人が集まって催される行事では,来賓の挨拶ほど聞き流されるものはありません。聴いているようで,後になってみるとその内容はほとんど思い出されません。聴かされる身を味わっているだけに,話す立場になったときは何とか違ったものにしたいと思っていました。
 ささやかな抵抗ですが,それでも聴いて頂いた方には何かをお伝えできているようでした。そんなことから講演を頼まれるようになって,その輪があちらこちらに飛び火しているようです。そんなに面白くて笑えて楽しい話ができるわけでもないのに,聴いて頂けることはありがたいことと思っています。
 お話しする素材は,皆さんが既にご存じのものをなるべく使うようにしています。新しいものは情報化社会の中では掃いて捨てるほどあります。あらためて講演で聴かされても新鮮味はありませんし,心に残ることもありません。そこで,聞き手が既に持っている素材を使って,違った味付けで料理してみます。そうすることで新情報に対する拒否反応を回避することができます。
 高齢者の一般的特徴として程度は別にして物忘れしやすいことが語られます。しかし,一方で昔のことはよく覚えていて詳しくお話しされます。ということは,最近の新しいことを覚える記憶力が衰えているということです。物忘れではなくて,忘れる前の記憶ができていないのです。このような背景を考えると,新しい情報を提供しても,かえって高齢者の方を気分的に追いつめることになります。
 考えるまでもなく,高齢者の方はもう目一杯の知識を持っておれます。それを今の時代にも使える形に加工する方がよほど簡単で実りが大きいでしょう。知識は若い者に学び,知恵はお年寄りに学べといわれます。高齢者の持ち味は知恵であり,その知恵を磨き上げるお手伝いができたらと願っています。

(2003年11月02日号:No.188)