《面倒な つきあい避けて 信薄く》

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 大陸からの冬将軍が波状攻撃をかけてきて,かつてないほどの長い雪景色をもたらしました。とはいっても,所詮は南のことです。規模はしれていますが,慣れないことなのでことさら大きく感じます。うっかりして,庭にある果肉のある植物は煮えた状態になってしまい,かわいそうなことをしました。ガス温水のパイプが凍り付いて止まりましたが,お湯をかけてあっさりと解消です。こんなこともずいぶんと久しぶりでした。
 そんなある日,出かけた連れ合いを迎えに車で拾いに行きました。雪道ということで早めに家を出たのですが,道路は濡れた路面状態ですんなりと到着し,待ち時間がかなりできてしまいました。雪の感触を味わうつもりで,歩道に積もっている雪をサクサクと踏みしめて歩いていくうちに,近くの駅まで歩きました。足跡を付けて歩く遊び心を楽しみました。
 ぐるりと廻る方向に建っている自転車置き場の建物に入り込んでみました。雪の日なので駐輪している自転車もなく,がらんとしています。放置されているらしいほこりの積もった自転車が数台あるだけです。中には部品をもぎ取られたものもあります。2階から降りるスロープを歩いていると,何かが落ちています。拾うとそれはラジオペンチです。一瞬,自転車の鍵を壊すのに持ち込んだ者がいて,暗がりの中で落としていったなと直感しました。
 普段だったら,目につく高いところに置いておくのですが,それがかえって悪さを誘うことになると考えて持ち帰ることにしました。自転車置き場からラジオペンチを持って出てくる不審な男を演じたわけです。人が自分を見かけたら,多分そう見て取るだろうなとついきょろきょろしてしまいます。人影はなく,その心配もありませんでしたが,なんだか落ち着かない一瞬でした。
 李下に冠を正さずという高校時代に学んだ漢文の一部を思い出していました。疑われる行為は慎まなければなりません。疑いの目で見られると,思いもしない罪を被されます。えん罪ということになりますが,いったんかけられた疑いを晴らすのはたいへんです。普段の振る舞いがきちんとしていると知ってくれている人であれば,かろうじて疑いの目を持たれずに済みますが,見ず知らずの人はそうはいきません。
 昔と違って,普段の生活空間でも知らない人に囲まれて暮らしています。例えば,通い慣れたスーパーでも,店員さんたちとは見ず知らずです。客と店員という役割以上のつきあいはありません。顔見知りではないのです。スーパーの袋を減らすために,買い物袋を持参するというキャンペーンがありますが,袋をぶら下げて店内をウロウロすると,万引きの疑いの目を招きかねません。そのつもりはなくても,そう見られる恐れを感じるはずです。便利な暮らしの陰に,信頼が希薄になっている怖さがあります。

(2004年02月08日号:No.202)