《その話 テレビが昨日 言っていた》

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 一仕事を終えて飲む一献,五臓六腑に染み渡ると嘆じられます。飲む嗜みがないので,さして実感が湧きませんが,なんとなく分かります。ところで,五臓六腑とは何でしょうか? 五臓とは,肺臓,心臓,脾臓,肝臓,腎臓であり,六腑とは,食べたものの通り道であり,胃,大腸,小腸,胆,三焦,膀胱です。昔にできた言葉ですから,正確ではない部分もありますが,ほとんど合っていることの方が感心させられます。ところで,膵臓というのがあったと思うのですが,膵臓は消化腺の一つで臓器ではないようです。また,六腑のうちで胆は胆嚢のことであろうと考えられ,三焦は不明ということです。つまり,五臓六腑のうち一つは存在しないものなのです。
 九州に住んでいますが,何が九つなのでしょう。単なる名前と思っていて,九つの意味は?という疑問を持つこともないまま暮らしています。改めて問われても困るということでしょう。四国は四県だから分かりますが,七県なのにどうして九州か? 筑前,筑後,肥前,肥後,豊前,豊後,日向,大隅,薩摩の九つです。
 言葉は分かって使うのと,分からないで使うのとでは,重みが違ってきます。自分の言葉に納得しているから,自信が持てます。普段の会話で意見を語る場合もありますが,それがテレビや新聞などの受け売りであることが多くなっています。皆が聞いて知っているので,そうだと受け取ってもらえます。分かり合えているような気持ちになりますが,自分の言葉でないので,世間一般の意味をなぞっているだけです。
 本音は違うんだけど,こう言っておけば間違いないということでしょう。自分の中にある言葉を使い,語り合い,対話の中で意味を確かめ合って,言葉を磨き上げるプロセスが少なくなってしまいました。それは違うよ,そう言えて言われて,自信のある言葉が増えていきます。それは言葉を鍛えるプロセスです。でも,それが辛いから世間に認知されている出来合いの言葉で済ませておこうと逃げています。
 コミュニケーションの世界が細分化して,世代ギャップがひどくなってきました。異世代の会話が途切れることで,同じ言葉さえ意味の乖離が起こっています。それだけではなく,大人社会でも言葉遣いが混乱しています。環境ホルモンという言葉がありますが,何か役に立っているもののように思われています。外因性内分泌攪乱化学物質のことであり,人に害になるものなのです。売春なのに援助交際と誤魔化していますし,毒なのに麻薬と呼んで薬扱いです。
 言葉を軽く扱っているマスコミの影響が,言葉を流すものに変えてしまいました。人は言葉を蓄えることで知恵を獲得しているのですが,言葉が軽くなっているので知恵も落ち着かなくなっています。読書が低迷しているのも,文字で表記された言葉の重さを受け容れる力が衰えているせいです。ますます,言葉が絶滅し,消えていきます。おしゃべりはいくらでもできるのに,ちゃんとした話をしたり文章を書くという素養が衰えているのは,とても恐いことです。真面目にお話ししても聞く耳がないということでもあり,人と人が分かり合えなくなるからです。

(2004年03月21日号:No.208)