《目配りに 気配り添えて 手配りを》

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 「他人には優しく自分には厳しく」と言われることがあります。行動の指針として意識しておけば,社会生活はスムースに運ぶはずです。単純にそれを信じて実行すればいいのですが,自らの経験から導かれたものでない場合には,その効果が疑われます。先輩から若者や子どもに暮らしのテクニックとして伝えるためには,多少説明的に解説してみせる必要があります。そんなとき,たとえ話が有効です。
 夜中に入院患者の様子がおかしいので看護婦さんが自宅で就寝中の医者をたたき起こしました。大急ぎでお医者さんが病室に入ってくると,患者の様子は何事もなかったように落ち着いていました。申し訳なそうに恐縮している看護婦さんに,お医者さんは「よかった」と笑顔を残して帰りました。看護婦さんに優しいお医者さんです。この優しさは本当はどんな意味があるのでしょうか?
 寝ているのを起こされ無駄足を踏まされた医者が,不機嫌に看護婦の早とちりを責めて帰ったらどうなるでしょうか。順を追って考えてみましょう。まず看護婦に目配りすると,この次には医者をすぐに起こすのを躊躇し様子を見ようとするでしょう。次に患者に気配りすると,その遅れが取り返しのつかないことになる場合があります。最後に次への手配りとして,そうならないように,医者は看護婦に優しくすることで,無駄になっても気にせずにいつでも起こしていいよと伝えているのです。自分には厳しく相手には優しくすることが,事態を良い方に導いてくれることになります。
 相手への目配り,その周りの影響への気配り,事態を良くするための手配り,それを一言で言い表したのが優しさなのです。こういう理由で優しくした方がいいということを,その都度考えることは不可能ですし,無駄にもなります。単純に優しく行動することだけを心がける方がうんと楽にできます。優しさというコンセプトは社会生活のエッセンスが込められています。だからいつの世でも大事な生活キーワードとして受け継がれてきたのです。
 もしも自分の優しさに自信がないと感じることがあったら,そのときはじっくりと三つの配りについて考えてみることをお勧めします。

(2000年09月03日号:No.22)