家庭の窓
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玄関に○○委員という札が,2枚並ぶことになりました。先任として法務大臣委嘱の委員の札があったのですが,最近連れ合いが厚生労働大臣委嘱の委員の札を持ち込んできたからです。御札が舞い込んでくるのはどういう風の吹き回しか分かりませんが,これも一つのご縁によるものかなと思っています。いずれも人様の厄介事のお世話をさせていただくお役目であり,下世話な損得勘定で言えば,引き合わないことでしょう。
ところで,その委員職を名誉職と錯覚される方もいるようです。大臣からの委嘱という御旗を振りかざし,高飛車に接遇されるそうです。委嘱とは,「あなたなら人のお世話を優しくしていただけるでしょうからよろしくお願いします」という依頼に過ぎません。人のお世話をするためには,責任が伴います。プライバシーの保護などの責任を果たすことが保証されるという,相談者に対する役目上のお墨付きに過ぎません。御札の重たさは本人だけが感じておけばいいのです。
世間には,意図するか否かを問わず,人を不幸にする所業が溢れています。ひどい場合には法的な救済や罰が用意されていますが,その網には掛からないことがたくさんあります。差別やセクハラ,ストーカー,オレオレ詐欺などはまだ分かりやすいのですが,いわゆる社会のひずみが一部の人に降りかかっていくこともあります。就職難やリストラなど,能力による選別がもたらす社会的な切り捨て,無神経さや無知から引き起こされる近隣トラブル,正直者が馬鹿を見るような不公平さ,運の悪さでは片づけられない,いろんな問題が個人につきまとっています。
訴訟による解決が効率的なのかもしれませんが,それでは暮らしが窮屈になります。もっとゆったりとした気持ちで暮らしたいと願ってきたこの国では,争いとはせずに話し合いで解決する方法を選んできました。双方の話を聞いて,「お互いの言い分は分かりましたが,そこの所は事を荒立てずに,こういうことで手を打ちませんか」という仲裁が必要なのです。もちろんのこと,その仲裁役はどちらからも信頼されていなければ務まりません。その信頼を保証してくれるのが,委嘱状という公的なお墨付きなのです。
訴訟の場合には法に基づいて裁判官が裁定を下してくれます。ところが,公的に委嘱された委員という役職が引き受ける権限は,相談を受けるという以上には持たされておりません。最終的な結論を出すのは,関係する当事者自身の決断です。委員はそのために必要な指導助言をする役回りです。その限界を弁えておかなければ,出過ぎた越権を犯すことになります。身近にいる相談役,かつては長老や古老が果たしていた役割を,公的な委員が肩代わりをしているのです。
そういう意味では,どちらかといえば世事については疎いほうであるという自覚を持つ身であれば,いささか荷が重いかなという心境にもなってきます。一つの試練として,精進をするしかないと覚悟せざるを得ないようです。
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