《楽しみは できることだけ 惜しみなく》

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 ラジオを聞いていて,一つの話を拾いました。ハチドリのひとしずくという話です。森が火事になりました。動物たちは皆逃げるのに懸命でした。そんな中,ハチドリが火事に向かって飛んでいきます。火の真上から,水をひとしずく掛けているのです。その様子を見て動物たちは笑いました。「そんなことをしても無駄なのに,どうして?」。ハチドリは答えました。「自分にできることをしているだけさ」。お終いです。
 できることをする。簡単なことなのに,しようとしないものです。世間は小さな力が結集することで動きます。一人ひとりが無駄なことと諦めてしまうと,世の中は動かなくなります。確かにひとりの力は微々たるものであり,どうなるものでもありません。無駄だ無駄だと思えば,できることをしなくなり,無為の人になり,生きている感覚さえ失っていきます。できることをする,それは生きている証なのです。
 人に対してできることをする,それは優しさであり,親切になります。できることをする,それは社会に対する責任の取り方です。身内に対しては,愛情表現になります。できることをしないから,人と人の仲は壊れていきます。人間関係の基本は,お互いができることをすることです。悲しみに直面している人に対して,何もできませんが,傍に寄り添っていることはできます。こんなことしかできなくごめんね,その小さな行為をするかしないかで,人の温もりは違ってきます。
 人との関わりを面倒だと思う人が増え続けています。その結果,身の回りから誰もいなくなり,孤独という氷の壁に包まれています。人の温かなつながりが途切れた後には,冷たい闇の世界が忍び込んできます。ご近所のトラブルにしても,日頃のつながりがないから不信感が先立ち,いきなりカチンと過剰反応をします。自分にできることを少しだけ人にお裾分けをしさえすれば,人を信頼する向きに心は開かれていきます。人のことを事ある毎にあれこれ咎め立てする人がいますが,そんな人はできることをしていないようです。してもらうことだけです。
 人は相手に応じたつきあいをするものです。自分を信頼してくれている人には,信頼で応じます。不信の目で見られると,疑いの目で見返します。できることは自分を変えることです。自分を変えれば相手も変わってくる,つきあいは鏡と同じということを気に掛けて,できることをした方が楽しく生きていけると思っています。

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(2006年02月19日号:No.308)