《楽しみは ヒヤリ体験 解きほぐし》

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 1940年代にハインリッヒという人が経験則として,失敗の発生確率に関する法則を提唱したそうです。その内容は,「1回の大失敗の前には29回の小失敗があり,さらにその前には300回のヒヤリとすることが起こっている」ということです。NHKでの失敗に関する連続講座で語られていました。
 運転をしていると,ヒヤリとすることがあります。10回に1回はこすったりすることになりそうです。そういう失敗をする人が30人いれば,その1人は事故を起こすという確率です。予防するには,ヒヤリとすることがないように気をつけていることです。大したことにならなかったからと軽く見過ごしていると,ハインリッヒの法則が当てはまるようになるはずです。
 社会における失敗の発生についても,ヒヤリとしたこと,あるいは小失敗を共有して対策を講じておけば,大失敗に至る確率は少なくすることができます。確率的な法則は一般にそれぞれが無関係に起こるという前提があります。例えば,サイコロの目はサイコロに手を加えていないという前提で確率に従います。何らかの意図が絡めば確率的ではなくなり,制御可能になります。
 失敗から学ぶという姿勢によって,人はことが起こるための前提を見極めて適切な対応を考え出し,確率的に見える失敗を抑え込んできました。ところが,ある人の失敗による学びが伝わらずに,社会的には確率に支配されるようになり,ついには大失敗を招いてしまう場合もまれではありません。情報化社会の中で失敗の情報は伝えられているのですが,「関係ない」という拒否フィルターによって伝わらないのです。失敗の種は同じですが,その他の状況に紛れてしまい,見かけ上は違った形で現れるからです。
 世間には起こって欲しくない事象がたくさんあり,残念なことに途切れることがありません。自分には関係ないというフィルターを外して,自分のこととして学びをすれば,もっと不幸が減るのは明らかです。身近なところでは,飲酒運転など,誰でも危険の元だと知っているのに,自分は関係ないと拒否しているために,重大な悲劇がいっこうになくなりません。学びは学校だけでするものと置き忘れているのは残念です。
 昔話に登場するのはおじいさんとおばあさんです。おとうさんとおかあさんは登場しません。おとうさんとおかあさんはくらしの働きのために忙しいのです。子どもの傍にいるのは祖父母であり,年の功という失敗からの豊かな学びを,お話という形で次世代に伝えてきたのが昔話なのです。失敗しないための情報が,直接肉声で伝えられてきた仕組みを大切にしたいものです。おじいさんやおばあさんから聞く話だから,関係ないフィルターは脱がされているのです。
 失敗に限らず,いろんなことに関心を持ち,自分のこととして学ぶようにすれば,楽しくつつがないくらしに近づくことができるような気がしています。

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(2006年11月19日号:No.347)