《よろこびは 拾った言葉 紡ぎ終え》

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 手元にあるメモ用紙に《答が出ない。それは問が悪い。「こまったな,どうしよう?」という問では答えはない》と書いてあります。何から書き取ったのか記し忘れていますが,文書類からではないようです。急いで書き留めた字面だからです。おそらく,テレビを見ていて聞いた言葉のメモです。
 このメモの内容にはそれほど新鮮みを感じてはいません。普段から言ったり書いている内容だからです。それなら何故わざわざメモをしておいたのでしょう。「そうそう」という共感に誘われたもののようです。メモを取るのは,「アレッ」という驚き,「ソウカ」という発見,「ヤッパリ」という共感をしたときです。
 共感をしたメモには,新しい知恵という意味はありません。ただ同じ考えを持っている者がいるという保証になり,自分の考えを補強するデーターです。実のところは,再確認できたということになります。
 メモを取るときには,自分のフィルターを通します。取捨選択をするのです。フィルターはとても個人的なものなので,同じ情報を聞いていても,人によって受け止め方が違います。「アレッ」という驚きを感じても,他の人はそうは感じないでしょう。それでも人は今の自分にとって,新しいもの,異なものに反応することで,知恵の蓄えを増やしていくことができます。
 メモはとても短いものです。小さな意味しか表してはいません。それでも思考の補助線の機能を果たし,大きな転換を誘起します。ニュートンがリンゴの落ちる風景に触発されて思考を発展させたのも同じパターンです。知識の断片である言葉群が,一つのキーワードによってバタバタと結びつけられていくとき,まとまった知恵に組み上げられていきます。その転換点となるメモを取ることができれば,小さなメモは大きなよろこびを生み出してくれます。
 どの言葉がキーワードになるかは,人によっても違うのは当然ですが,同じ人に対しても時と場合によって違ってきます。今この時に浮かんでいる言葉群が千変万化しているため,材料が異なっているからです。少し古くなったメモを読み返していると,どうしてこんなメモを取ったのかと思うことがあります。反応できないのです。メモは受け取る側とマッチしないと機能を発揮しない弱点を持っています。早いうちに反応を完結させておかないと,効果は消えていきます。
 メモには賞味期限があるので,メモは処理が終わるまで,常に目の届く所に置いておくことにしています。目に入っているとメモのリフレッシュができるし,片付けないといつまでもメモがぶらぶらして邪魔にもなります。きちんと整理しなければと訴えるようなメモの声に応えられたとき,一つの仕事が済んだというささやかなよろこびがあります。

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(2008年02月24日号:No.413)