《よろこびは 言葉の戸籍 解けるとき》

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 会議の冒頭で役職上果たさなければならないのがあいさつです。その機会を利用して,出席者へ言葉のお土産を届けています。普段何気なく使っている言葉がどのような意味合いであるのか,そんなどうでもいいようなことに関心を持っているので,なんとなく気にかけているのですが,そんな中で見つけたことで改めてそうなのかと学んだことを,折に触れてお伝えしておこうと思って始めたことです。
 先日の懇親会の冒頭のあいさつの中でお話ししたことは,あいさつ言葉についてのものでした。出かける前のわずかな待ち時間に吉村達也著「その日本語が毒になる!」(PHP新書)という本を読んでいて,教わったことです。芸能界でのあいさつは朝昼夜を通して「おはようございます」と言うそうです。どうしてそうなるのかと,以前からちょっぴり不思議に感じていたのですが,業界の慣習に過ぎないのだろうといった程度に考えていました。ところが,その本に理由が説明されていました。
 縦の関係がうるさい社会では,あいさつの言葉にも気を配らなければなりません。丁寧な物言いが不可欠です。朝は「おはようございます」とあいさつします。ところで,昼のあいさつは普通には「こんにちは」,夜のあいさつは「こんばんは」ですが,この二つには丁寧な言い方がありません。「こんにちはございます」とは言えません。だからといって「こんにちは」という言葉を先輩や上司に向けて使うのは憚られます。丁寧な言い方は「おはようございます」しかないのです。英語であれば簡単なのですが,日本語では言葉に不完全さがある,そういう説明が書かれていました。その話を伝えました。
 先人たちが暮らしの中で作り伝えてきた言葉を何気なく使っていますが,言葉が生まれた背景を知っているのと知らないのでは,使い方に微妙な違いが生じます。たくさんの言葉の背景をすべて知り尽くすことはできませんが,一つ一つ出会うごとに拾っていこうと思っています。その中から選んで会議の席でお渡ししている言葉のお土産は,喜んでいただく方もいて,元手がいらないというメリットもあり,続けていくつもりです。
 役職がいくつかあるので,言葉のお土産が重複しないように,記録しておく必要があります。基本的には使い回しはしないので,どれも一回きりで,重なる心配はありません。ただ,同じ会合でもメンバーが入れ替わっている場合には,思い出しながらお届けすることもあります。
 かつてはキュウリは黄色く色づいてから食べていたので黄瓜=きうり=きゅうりと呼ばれていた,バレイショは山道を歩く馬が熊を避けるために首に付けていた鈴=馬鈴に似ている甘薯ということで馬鈴薯と呼ばれるようになった,そんな他愛のないことを面白がっています。場が少し和めばいいかなという,ささやかな試みです。

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(2008年07月13日号:No.433)