《宴席の 料理かなしや 酒が敵》

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 密封してある袋を開けるために包丁で切れ目を入れようとしましたが,歯が立ちません。軽く当てて引くと切れるはずだったのですが,全くのなまくらになっています。連れ合いはさぞかし調理に要らぬ力を使っていたことでしょう。切れ味は毎日少しずつ鈍くなっていくので,気がつかないのでしょう。さっそく砥石を持ち出して軽く研いでみると,袋はスッと切れるようになりました。夕方になって台所にいる連れ合いが「包丁,研いだでしょ?」と聞いてきましたが,手加減の違いを感じ取ったようです。
 ところで,包丁の切れ味と言い,切り味とは言いません。また切れ味とはどんな味なのでしょうか? 切れ味とは,刃物の状態ではなくて,切られた食材の味を表すそうです。なまくらな包丁で切ると食材の繊維の断面がざらざら状態になって味が落ち,鋭い刃物で切るとスパッと切れた断面になり味がよいということです。切れ味が鈍くなったという刃物の評価は,当て字ならぬ当て意味になりそうです。
 ビフテキを食べるときのナイフはなまくらな刃物です。味を落としているのかもしれません。昔は鋭い刃物を使っていたようですが,王宮での酒宴の席で刃傷沙汰の凶器になることを防止するために,わざと切れないナイフにしたようです。因みに,食事用のナイフは先端が丸くなっていますが,昔は尖っていて爪楊枝代わりにも使われたので,下品であるとの作法が働き丸くなったということです。
 テレビではやたらに食べ物の番組やコーナーがあるような気がします。人前で大口を開けて食事をする恥ずかしさ,人が美味しそうに食べている姿をのぞき見る浅ましさは,上品さから程遠いと感じます。
 さて,料理を評して,「こくがあって,あぶらっこくない!」。あぶらっこいのが嫌なら,油ものはお止めになったらと思います。あぶらっこくて何が悪い? 健康? それなら量を減らすべきです。単なる味覚をごまかしてあぶらっこくない油を摂取するのは,身体への詐欺行為ではないですか? 連れ合いは冷ややかに聞いています。
 食に逆行するなまくらなナイフ,食に干渉する清潔好きな味音痴,食文化は果たして洗練されてきたと言えるのでしょうか? 宴会の後の残飯は何という体たらくでしょう。そういえば,宴会の時に乾杯の音頭はありますが,「いただきます」という言葉を聞いた試しがありません。料理は酒のおつまみに成り下がっています。本来は,食前酒と言うように,酒は料理の引き立て役であったのでは? 勝手なご託を並べて,お酒に弱い身はつまみの料理を美味しくきれいに平らげる幸せを感じています。

(2001年05月13日号:No.58)