家庭の窓
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米誌『The New Yorker』では,脳による時間の認識について研究している神経科学者David Eagleman氏の分析を紹介しています。
ヒトの脳は新しい情報を受け取ると,まず,情報を理解しやすい形に整理しなおします。すでになじみのある情報を処理するときは,それほど時間がかからない一方,新しい情報の処理はこれよりも遅くなり,これによって時が長く感じられます。つまり,歳を重ねて新しい情報が少なくなると,時の経つのが速く感じるようになるというわけです。
世の中をより知ると,脳に書き込まれる新しい情報も減り,時間がより速く過ぎているように感じます。子どもの頃の夏休みは永遠に続くかのように感じていたのに,大人になるとぼんやりしているうちにあっという間に時が過ぎるというのは,これが原因のようです。
時が速く過ぎるのは,歳のせいではなく,なじみのある情報が増えるから。つまり,時の流れをもっとゆっくり感じたいなら,新しい情報により多く触れると良さそうです。歳のせいで現れてくる傾向として,馴染みの情報世界に止まりやすくなるということです。新しい世界は訳が分からなくてしんどくなるので,避けてしまいます。時間を掛けてもいいから新しい情報処理をしたいという意欲・意気込みが薄れてきます。年寄りは気が短くなるということも関係がありそうです。
自分の気持ちの持ちようを変えるのは難しいでしょう。そこで,新しい知り合いをつくるとか,知らない土地に旅に出るとか,未経験の仕事に飛び込んでみるとか,ベストセラーの書物に手を出してみるとか,環境を変えることが役に立ちます。あれこれ考えていては実行できません。えいやっと飛び込んでみる冒険ができれば,道は開けてきます。それは,青春の行動パターンでもあります。そうしなければならないというのではなく,しようと思えば,できることはあれこれあるということです。
年寄りには年寄りらしい時の流れへの身の任せ方があってもいいでしょう。古くても情報が行き交う場があれば,楽しくなります。女性の場合は,地域社会に母親ネットワークなどの基本的な居場所があって,そこからいろんな方面への活動場所が広がっています。男性の場合,仕事社会から放り出されて,はたと気がつけば,居場所がなくなっています。家庭の中の居場所はそれぞれでしょうが,他者との普段の縁があってほしいものです。1週間,家族以外の人と口をきいたことがないという情報遮断状態では,あっという間に年老いていくことになるでしょう。
情報は精神の糧です。食べ慣れた情報は落ち着きますが,それだけでは偏食になり,栄養バランスが取れなくなります。もちろん,情報の栄養価を配慮することは面倒ですので,とりあえず違った種類の情報を摂取するようにすれば,大丈夫でしょう。どのような栄養の情報を普段取り入れているかによって,人の品格が出来上がっていきます。情報の質の良さも大切です。流行だけを追いかけるのでは無く,古典もかじってみると面白いと思います。できれば,暗記できる程まで・・・。
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